第4話

オルカが盗賊に誘拐される事件から五年が経った。

オルカはもう十五歳。この世界では立派な大人の仲間入りである。


一男だった前世の記憶もほとんど思い出さなくなり、タオやカースを怖がることもなくなってビーストテイマーとしての修練も積んできた。


そしてこの日、オルカは生まれてから十五年間住んできたレイエス家を離れることになった。


それはレイエス家の掟である。

レイエスの修練を全てこなし、ビーストテイマーになった者には最後に大きな試練が待ち受けている。


それは、五年間旅をして世界の各地を巡り人々の役に立つことであった。


オルカの四つ上の兄は四年前に、二つ上の兄は二年前にそれぞれ共の獣を連れて旅立っている。


そして、オルカもようやくこの時が来たのある。



「やっぱりダメだ……父さんは反対だ……。また盗賊に捕まったらどうする」



オルカを見送るその時になって、門まで出てきた父親が駄々を捏ね出した。

その様子を見て、母親は呆れたように笑っている。



「何言ってるの、私もあなたもこうして一人前のビーストテイマーになったんじゃない。捕まったらその時はまたタオ達が助けてくれるわよ」


母親のその言葉に答えるかのようにオルカの横に立つタオがワフッと鳴いた。


母親は最後にオルカの頭を撫でる。



「あなたならやれるわ。強い子を見つけて仲間にするのよ」



父親も涙を袖で拭きながら声援を送る。



「頑張れよ。全部終わったら家族みんなで祝杯だ」



この旅の目的は人々を救うという以外にももう一つあった。


それはオルカの新しい仲間となる獣を探すこと。


オルカには既にタオとカースという心強い相棒達がいるが、それは生まれた時に両親が連れてきてくれた獣だった。


ビーストテイマーが一流と認められるためには自分の力で仲間にした獣が必要になる。


五年間のうちにオルカは強い獣を見つけて仲間にする必要があるのだ。



両親と召使い達、それから家に通う門下生たちと多くの獣に見送られてオルカは旅に出た。


王都の街を出て森の中を進む。


幸先のいい旅路だと思われたが、オルカはすぐに弱音を吐いた。



「はぁ……他の獣なんか必要かなぁ。タオ達がいればいいじゃないか」



そんなオルカの背中をタオが後ろ足で蹴り上げる。



「イタッ……なんだよタオ、え?『まだ他の獣が怖いのか』って?当たり前だろ、そんなこと聞くなよ」



タオの表情から言いたいことを読み取ったオルカは大きくため息をつく。


そう、オルカの獣嫌いは決して直ったわけではなかった。


五年前の盗賊の事件以来、オルカが慣れたのはタオとカースのみ。


他の動物にはこれっぽっちも慣れていない。


旅立ってすぐに弱音を吐く主人を見て、カースは空を飛びながらバカにしたように鳴き、タオは不安げにため息を吐いた。



「大丈夫大丈夫、二人がいれば僕は最強だろ?五年もあればなんとか一匹くらい仲間にできるだろうし、初めての一人旅だ!気楽に行こう!」



不安気な二匹とは対象にオルカは楽しそうだった。オルカにとって街の外に出るのは初めてのことだった。


それも前世とは違い、この世界には魔法があり剣がある。物語の世界のような場所だ。


これから始まる壮大な冒険を思い描いてワクワクせずにはいられなかったのだ。



高明な魔法研究者ナラ・カナトリックが記した著書の中にオルカ・レイエスについて書かれたこんな一説がある。



「その男、動物嫌いを自称しながら動物にはよく好かれ、獣の力を最大限に引き出すビーストテイマーなり。後の世代、彼はこう呼ばれるであろう、『最強のビーストテイマー』と。」



これは動物嫌いのビーストテイマー、オルカ・レイエスが最強になるまでの物語である。

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