第17話 水巨人


「では、はじめます。【水巨人】」


 僕の目の前に水球が発現されそれが急速に巨大化する。球は形を変え人型になり地に足をつける。


 身長5メートルの水の巨人が生まれたがこれで終わりではない。


「とう!」


 僕はジャンプして水巨人の中心に乗り込んだ、顔の周りには空気球をかぶっている。背がそこまで高くないのでロボットの操縦席というよりはデカいパワードスーツを着込んだ感じの方がイメージは近い。


 遠隔操作だと別途「目」をつくる必要があるから乗り込んだほうが楽だ。


「なんだありゃ!」「巨人?形が崩れない!?すげぇな!」「中に入ったぞ!で、なんで踊ってるんだ?」


 水巨人を造ったのはいいが力の振るう先がなくて適当に動いてみせる。片足立ちでも逆立ちだって簡単にこなして見せる。


(みよ!この精密な操作能力)


 昔ドハマりして、魔法で大型ゴーレムを何体も造っていた時期があった。【水巨人】もその頃にたくさん練習していて「乗ることのできるゴーレム」としては一番完成度が高かった。


 ダンジョンで赤竜レッドドラゴン相手に【水巨人】だけしか使用してはいけないという縛りプレイで戦い、勝利したほどだ。


(しかし今はあの頃とは違う、四基の魔力炉程度じゃできることが少なすぎる!……それに純粋にパワー不足だ、モードチェンジもできやしない)


 ちょっと昔を懐かしく思いながら水巨人を動かしているとなんだか周りがざわついていた。


「おう!新入り、強度テストだ!俺が相手になってやる」


 スキンヘッドの大男が武器を置いて見学の群れから出てきた。


「ボイロさんだ!」「こりゃ面白い戦いがみられるぞ!」


「俺はタフだからな、思いきりこい!」


 自らサンドバッグに志願する人がきた、練習場の的を踏みつぶして破壊してもなんのアピールにもならないしお言葉に甘えるとしよう。


「ふん!」


 身体強化の魔法を使ったのだろう、大男のまとう魔力が大きくなった。


 では遠慮なく。水巨人は戦闘スタイルをとり水の拳で殴る、大男はそれを受け止めさらに殴り返してきた。さまざまな角度から拳が水に刺さる!脆いところを探っているのだろう、無駄だ”水圧次第で強度は自由自在だからな。


 ――この人どのくらいの強さまで大丈夫か手探りだったが、かなり強めに殴っても大男は耐えた。魔力炉の覚醒二基くらいの人かな?


 多少畳みかけても大丈夫そうだ。休む暇をあたえない速度で巨人体術をくりだす、先日のフォレストトロルとの戦いを思い出し立場が逆になった気分だな。


「はぁはぁはぁ、なかなかの魔法だな!まだまだぁ!闘気オーラ全開!!」


 渾身の突進を仕掛けてきた大男を受け流し、つかみ上げ振り回して投げ捨てる。こっちだって真正面から殴り合うだけが能じゃない!


「うーぅーうっをーぅーおぉーぉぉー」


 叫びながら飛んでいった大男は器用に着地すると即座にこちらに突進を再開した。こちらはその突進に合わせて地面スレスレの低空フルスイングアッパーを入れる。


(水拳を避けた!?)


 大男は突進の速度をほとんど落とさず最小のステップで水拳をかわすと水巨人の脇に潜り込んだ。


「胴体がガラ空きだぞ!守れるかなっ」


 大男の拳が脇腹に刺さる――、前に水巨人の脇腹から新たな腕を生やして拳を防ぐ。


「そんなんありかぁ!」


 当たり前だ、水だぞ!イメージ次第で人外の強度だって形だって自在にこなせるんだ。


 大男がいったん離れたところで仕切り直し、――かと思ったら「そこまで!」ギルド職員に止められた。


「命拾いしたな」


 命狙ってたの?!


「ガハハハ!冗談だ。いい魔法だな、だからといってクエストで無茶な戦いするんじゃないぞ!」


「新人……だよね?」「ボイロさんが負けた!?」「バカいうなボイロさんは武器使ってないだろうが」「あいつ欲しいな」「かなり若そうにみえるけど……あの魔法どこかの貴族か?」


 ざわつく練習場をあとに冒険者ギルドに戻ってきた。受付の周りには先ほどとは違い、人が増えている。


「しっし、私の弟子よ。勧誘は受けてないわ」


 変な虫がつかないようにナルテュが追い払ってくれて助かる。


(この子を渡すものですか!)


 つつがなくギルド職員さんとの話が終わりギルドカードの発行前まで辿り着くことができた、すぐには出来ないみたいで受け取りは後日か。ガラの悪い冒険者に絡まれるといったイベントもなかったし言うことなしだ。


 ただし、条件として一段階ランクが上がるまでの間、害虫一匹、雑草一本クエストを遂行するのにも保証人であるナルテュネーラの同行が必要となる。


 しかし職員さん曰く「すごい魔法でしたね。順調にいけばすぐにでもランクは上がるでしょう」と言ってくれた。



 ――僕たちは食堂でお昼の日替わり定食を食べている。


「ルノ、あんな魔法使えるなんて聞いてないんだけど?」


「あれは昔に遊びで考えた魔法で……あれ」


「考え込んでどうしたの?」


「遊びの魔法と仕事の魔法はなにが違うんですかね?」


「ん、実用的かどうかでしょ」


「そうですね、だったら水巨人はクエストや依頼で使ったことがないから遊びの魔法になる?でも戦いで使えたから、あれ?」


「なにをいっているのかわからないけどその感じだと他にも魔法を使えそうね。


 それに見せちゃってよかったの?あれは隠し玉みたいな魔法じゃなかったの?」


(普通だったらどこかの魔法使いの家系が代々継ぐようなレベルの代物よ……)


「あの程度ならただの見せ物レベルですよ。それに披露するときは見た目が肝心って最近思い知ったばかりですからね」


 アズーリシル魔法学園でも水巨人を見せていれば未来が変わっていたのかな?


「ルノさんは魔法すごいです。私はどうなるのかなぁ……ナルテュさん、私たちFランクからスタートですがどのくらい強くなったらランクが上がるのですか?ルノさんは強そうなのでCランクくらいからだと思っていました」


「そのへんは冒険者ギルドも商業ギルドも一緒よ。どんなクエストをどれだけこなしたか、ようは『信頼ポイント』と言えばいいのかしらね。


 ドラゴンを一人で倒せるぐらい物凄く強い冒険者でも性格や素行に難があればランクが上がらず万年Bランク以下なんてことになるわ」


「そうなんですか……では逆に弱くてもランクが高い人はいるのですか?」


「たぶんいるんじゃない?大人数を統率する才能があれば困難なクエストも大人数パーティーのみんなでこなして高ランクになるんじゃないかしら」


 そんなこんなな先輩冒険者の話を聞きながら食事をすませ、街を散策――したいがなにをするのにもお金がかかる。僕はナルテュにお金を借りて情報を買いにいった。


 目的は人探し、前世の僕にはほとんど知り合いが残っていないのだが一人だけ、何年も前から妻の弟の生死はわからないままだった。


 妻の葬儀のときにも来なかった、何かあったのだろうか?この街にいると聞いていたのだが……名はリーデル。生きていれば53才くらいのはず、死んだ父の後を継ぎ商人をやっていることくらいしかしらない。それも二十年前の話だが。


 ――日が沈む前まで街を周ったが手掛かりは掴めなかった。お金も尽きた。初めに商業ギルドを訪ねたが十七年前に登録抹消されていて情報がなかった。


 食堂で待つナルテュとシャミアに合流した。おなかいっぱい夕食を食べたがどれもこれも旅のお金はナルテュが出しているのでちょっと居心地が悪い。ナルテュは高ランクの冒険者だからお金は持っていそうだけど、この街からお金を稼ぐ手段を考えたい。


「獣王国ヌンノスクの情報があるの。――少し前から内戦が始まったらしいわ、しばらくは入国できないわね」


「お、お父さんとお母さんは!」


「それはわからないけど他種族が無理にいけば話がややこしくなるわ。情報収集しつつ様子見するしかないわね」


「そんな……」


「ん~あなたのお父さん、ディーンはとっても強いのよ。今は信じて待つ方がいいわ」


「そうですね……」


 なんとかしてあげたいが僕もまだ魔力炉を四基しか覚醒させてない、乗り込んで大暴れするのも難しいだろう。


「よし、シャミア。この街にいる間に少しでも強くなろう!」


「そう……ですね。はい!がんばりましょう!」


「じゃあ剣も魔法も覚えないとね!厳しくいくわよ!」


 ナルテュもシャミアを元気づけようと言葉が力強かった。この街にいる間にいろいろとできることをこなさないとね。



「それと、この街どうにも匂うのよね。ここはアダマンタイトの採掘で成り立ってる街なんだけど数年前に封鎖されてるみたいなの」


 それは僕も疑問に思っていた。栄えてるとまでは言わないけど人が多い。


「なんでもメタルダガーっていう蜘蛛の魔獣が採掘所に住み着いてしまったのが原因らしいんだけど早期の駆除さえしていればそこまで脅威じゃないはずなのよ。


 すぐに討伐に乗り出したんだけど、すでに手が付けられなかったんですって。変な話ね。それ以来、国に応援を要請してるけど後回しにされて困り果てているんだとか」


 そうだったのか、私ルドラウ・ロフセリーに依頼さえしてくれていたら一晩で巣を一掃したのに……まぁ想像はつく、国は私を少しでも他の事に使いたくなかったのだろう。それか派閥間の問題で要請が握りつぶされたか……。


 では今ここに住む人はどうやって生計を立てているんだろうか?


「違法賭博。それ目的でこの街に来る人が多いみたい」


 賭博か……この事態を領主が知らないわけないだろうし黙認しているかグルってことかな。


「でもそれだけじゃ食べていけないんじゃ?」


「冒険者なんかは森の魔獣を狩りつくす勢いで日銭を稼いでいるみたいね。鉱山の入り口でメタルダガーを狩っているやつもいるみたい。そっちは素材が飽和して安値みたいだけどね」


 賭博をやるために必死ってわけか。良いのか悪いのか……国の対応が遅れて街が廃墟になっていたかもしれないことを考えると何とも言えないな。


「賭博のおかげで商業も盛んみたいね、今は賭博がこの街の潤滑油みたい」


「そうなんだ、まぁあまり僕たちには関係がなさそうだね。明日はどうする?一日稽古にするか試しに何かクエストを受けてみる?」


「……いいえ違法賭博を調べるわ。もし悪どいものだったら放っておけないわよ」


 やけに正義感溢れてるな、もしかしたらエルフ族が奴隷として売られたりとかそういう過去があるのだろうか。


「わかったよ。別行動の方が危険だから三人一緒にいこう」


 もしナルテュが暴走して賭博場を破壊して街にいられなくなったら大変だ。

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