第16話 石橋
宿の人に聞いた話だと橋が落ちて泊まる人がだいぶ減ってしまったらしいが、川はそこまで深くはないらしく歩きで旅する人や商人は訪れているらしい。あとは北の橋経由の大回りする人々だ。しかし橋を渡った先にあるスクイットの街が最寄りの大きな街のため交易で困っているらしい。
橋を渡れるならスクイットの街まで半日もかからないため僕たちは食料の買い足しもせずに出発することにした。
「は~っ、昨日の夜は気持ちよかったわね」
御者台のナルテュがなにか言っている。シャミアも思い出してニコニコしている。べつに催促されれば毎晩でも構わないけどそこまでお気に召すとは思わなかったな。
――馬車が出発してすぐに川につきあたった。三人は馬車から降りて川を眺める。
「これは……」
川と聞いていたがなかなかに横幅が広い、そんなことより問題が――。村の人に聞いていたが誰かが一度、魔法で石の橋を架けようとして失敗した残骸がそこにはあった。
失敗した石橋が落ちて川の水を塞ぎ、水位が上がって左右にも水が溢れて広めの川がさらに広がってしまっていた。
「さて、橋をつくろうか」
このまま呆然と眺めていても仕方がない。さっさと作業に入る。
まずは落ちた橋が邪魔だな、両手を地面につけ魔力を流し込む。小さな川を想像してたが規模がそこそこ大きいな、最初から魔力炉を四基フル稼働で対岸まで地中に魔力を這わせる。
(四基でギリギリ足りるな。これでこの辺の地面は僕の魔力域になった)
ここからはイメージと魔力操作で工作の時間だ。沈んでいる邪魔な石橋を下から一本の石柱で突き持ち上げ川の中ほどで大きな「Tの字」にする。
塞き止めるモノがなくなり水が流れ水位が下がる。これで川の状態はリセットだ。
次は橋を架ける位置の基礎つくりだ。この失敗した石橋は強度と形は問題ないんだけど基礎も何もなく川にいきなり「ドカンと置いた」って感じでダメだったんだろう。
対岸側も基礎が整った。川に石柱を建てる、というよりも生やす感じで川底から石柱がせり上がってくる。ここに石橋を置けばもう完成だ、魔力の節約のために今「Tの字」に放置されている石橋を再利用する。
「長さも足りないからその辺も整えて……馬車がすれ違えるくらい広くした方がいいか、それだと倍の幅にしないとな石も再精錬して……っと」
集中してイメージしてると創作の場合ついつい声に出ちゃうよね。
***
――魔法を使うのは簡単でも練度、精度の高い魔法となると簡単ではない。適切な魔力の制御と操作、自分が発現したい現象の具体的なイメージの内のどれかが欠ければ何も起こらない。
その気になれば一人で火を噴かせ水を放出し風を巻き起こし、大地を隆起させたりと限界はないがそれは「できれば」の話で結局、一人でなんでも習得しようとすると威力も精度もハンパな器用貧乏になってしまう。
ほとんどの戦士が修練する魔法は【身体を強化する魔法】だけだ。
魔法使いだと自分が得意とする魔法を三つくらいにしぼり修練する。
不意に襲われても反射的にミスなく発動する防衛魔法や自分の代名詞となる攻撃魔法などだ。
***
石橋を架けようとして失敗した魔法使いも練度の低さが招いた結果であり、落ちた石橋を再利用してわかったが石橋本体の強度はそこそこのものにはなっていた。しかしイメージがそこまでだったのだ。川の方へ目を向け基礎もしっかり整えていれば橋架けは成功していただろう。
このサイズの石橋をつくれたのだから魔力量に自信はあったのだろう落ち込んでいなければいいが。
――さて、これで大き目の馬車がすれ違えるくらいの石橋が完成した。ちょっとやそっとの嵐が来ようと大雨で増水しようともこの石橋は平気なはずだ。
「ふぅ疲れた~これで完成です」
試しに真ん中まで歩いて橋の中心でピョンピョンジャンプしてみる。さらには足から魔力を送り込み衝撃を加えてみるがグラつかないし大丈夫だろう。
「シャミア、ナルテュ、お待たせ行こうか」
「魔法ってすごいです!やっぱり魔法も早く習いたいな!」
「……そうね、二人とも馬車に乗って」
(なんて手際がいいの……実は石橋をつくる職人だった?そんなことじゃないでしょうね。正体がわからない……大魔法使いの弟子?あの魔力量と制御能力はもうすでに魔力炉を四基は覚醒させてるわ。まぁそれはフォレストトロルの戦いでそのくらいあるのはわかってはいたけど、あの歳で?)
フォレストトロルとの打ち合いでは魔力炉二基くらいを限界までフル稼働し無理に魔力を放り出しているかと思っていたがその後の電撃魔法は背伸びして使えるような代物じゃなかった。
すでに私と同じ域に到達しているというの?騎士団長や聖騎士、剣聖、宮廷魔法使いや司教、冒険者ならばAランクの連中と肩を並べているということになる。
(この才は本物!)
ぜひ欲しい。持って帰りたい。
――御者台で前を向いているはずのナルテュから視線を感じる気がするが気のせいだろう。
道なりに馬車が進むと森にさしかかった、距離的には街はそろそろかな?このまま森を抜ければすぐにスクイットの街が見えるはずだ。
最近物騒という話とは裏腹に森の中で魔獣に遭遇することなく街が見えてきた。
「短い距離とはいえ森に魔獣の気配が全く無いわね」
「そうですね。警戒のために【風探知】の魔法を使っていますが遭遇しそうな距離にはいません」
街の近辺ということもあり徹底して魔獣狩りをしているのだろうか?森の奥の方に微かに気配はするから根こそぎというほどではないがここの領主はしっかりしているみたいだな。
無事に到着。三人ともマント姿でナルテュとシャミアは横長のハンティング帽子をかぶっている。たとえ他種族を容認している国でも個人はわからない。無駄な争いを避けるために耳や角を隠す者は多い。大きな帽子をかぶってると「私は頭隠していますよ~」とアピールしてるようなものだが隠さないよりましという感じだ。
「魔獣に襲われたときに僕の荷物を全部落としてしまいました」
身分証を持たない僕はAランク冒険者のナルテュに保証人になってもらい街に入ることができた。
「あれ?街に活気があるな」
僕の希望でこの街に来たわけだけどその目的は人探しだった。それは置いといて確かここスクイットの街は今はさびれていたはず……聞いていた話と違うな。
アダマンタイト鉱山の採掘で有名な街で選鉱や製錬などの施設もある「鉱山を中心としてなりたっている」街だ。
しかし数年前に鉱山に「メタルダガー」と呼ばれる洞窟蜘蛛が住み着いてしまい採掘が止まってしまった……はず?
いつの間にか討伐されて再開したのかな。
「まずは冒険者ギルドかしらね」
商業ギルドや冒険者ギルドでギルドカードをつくればそれが身分証代わりになるから街にきてまずは登録からだろう。
「また保証人お願いします」
「あの、私も冒険者ギルドで登録したいです」
シャミアは商業ギルドのカードを持っているけれど商人として半年活動していなければ資格が失効してしまう。だから念のために冒険者としても登録しておきたいのだろう。
そういえば。
「シャミアは商業ギルドに登録してるってことは12才以上なの?」
てっきりまだ10才くらいかと思ってた。
「こうみえても14才です!」
心の声が読まれたのか!1才しか違わないだと……。
「そうだったのか、それでもまだ僕の方が1才お兄さんだな」
身長差があるからとてもそうは見えないけどね。
「1才なんてほとんどかわらないじゃないですか!」
シャミアがプリプリしている。14才といえど他種族の国に一人残されたのは心細かっただろう。
スクイットの街の冒険者ギルドへやってきた、前世は村から王都へ上京してすぐにアズーリシル魔法学園の寮に入ったから初登録だ。
「ほぉ、Aランクのナルテュネーラさんが保証人と」
聞いた話では登録時に保証人なしだと発行までいろいろ手続きがあるのだとか。そうしたもろもろをスキップできたのはありがたい。
「では、現状の能力を知りたいので簡単なテストをします。こちらの練習場に来てください」
ギルド職員と共に隣の施設の中心に来たが何をするんだろう?
「何をすればいのですか?」
「そうですね、自分が得意とするモノを披露して頂だくだけです」
「得意……、あの私はまだ魔法も習っていません。剣術はナルテュさんに習いはじめたばかりです」
「ふむ、そうですかシャミアさんは本当の駆け出しということですね」
どうやらシャミアは何もしなくてもいいみたいだ。こちらに戻ってきた。
「まあこれは何か特技があれば披露して他のパーティーに誘ってもらうきっかけの場みたいなものよ。それと初めにギルド職員がなんのクエストを新入りに勧めるかの指標にするってのが本命ね」
そうなんだ、確かになんか見学してる人がちらほらいるからその人たちはパーティーの補強がしたいのだろう。
「手の内を晒したくない人はどうするんです?」
「さっきのシャミアみたいに答えれば終わりよ」
そういうものか、本当に試験じゃないんだな。……僕はどうしようかな、何も披露なしだと延々と薬草摘みのクエストしか受注できないとかはイヤだから何か魔法を披露しようかな?剣術はまだ習いはじめたばかりで力押ししか見せられないからね。
「じゃあ魔法を出したいと思います」
「はい、わかりました。あちらの的を使ってください」
なんの魔法にしようかな?この街の特色で考えると鉱山と森か……火魔法以外で、かな。
それと前回のアズーリシル魔法学園での反省点、派手な魔法のほうが受けが良いのも忘れずに、だな。
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