第2話 大魔法使いルドラウの最後 後編


「――これは、私の声は届いているのか?」「どうでしょうかね?反応がなくてわかりませんな。ハハハ」


 なにか声が聴こえる。


「王宮魔術師長ルドラウ・ロフセリー、今までご苦労であった。現時点をもって王宮魔術師長の任を解く」


 なんだ、なにを言いだすんだ?


「そして今より、ルドラウ・ロフセリー。おぬしは二人の剣聖ダグタス・イヴェレットとマーレス・イヴェレットの殺害の罪人として処刑を行う」



 は?剣聖が死んだ?二人とも?



ひさまずいた姿のまま反論もなしか」


(凍結してて喋れないんだよ!指一本動かないんだよ!わかっていて言いやがって!)


「正直、剣聖を失うのは大きな計算ミスだったが『戦後、王宮魔術師長が謎の失踪』よりかは民も納得するだろう」


 計算ミス?もしかしなくてもあの奇襲はクリチリラ王国にやられたんじゃなくて身内の裏切りか?!



「カルヴィット・イヴェレット、剣聖としての初任務だ準備はいいか?」


「は!いつでも!ルドラウに瞬きほどの回避も回復の暇も与えません。――聞こえるかルドラウ!お前の腹に刺さった二本の聖剣を返してもらうぞ!」


 確かこいつはイヴェレット家の三男か……。



 そうか……そういうことか。この腹から飛び出ている二本の血まみれの剣は……後ろから剣聖が刺したのか。


 そして私の反射・反撃のタリスマンで剣聖が死んだのか。


 あれ?そもそもなんで刺されたんだ?



「新、王宮魔術師長コルトラン。アレの準備はいいな?」


「もちろんです。ルドリスの魂を白魂玉に移す魔法陣はすでに発動しています。いつでもどうぞ」


 魂?


「お前の魂はお前の研究室を開けるための鍵として有効活用するから安心したまえ」


 コルトランの不敵な笑みが腹立つ。引きこもりがちな私よりも理由をつけて戦場に出たがらなかった奴が!


 ……確か『白魂玉』は実体のない亡霊や不死の魔物の魂を封じ込めるための白い水晶玉だ。


 ダンジョン産の伝説級レジェンドアイテムでこの国には一つしかなかったはず。それを使用する許可も準備も整っているということはここまで計画されていた事なのだろうな。


 凍結させたまま私の弁明を一切聞く気がない、ヘズラウル国王と王宮魔術師コルトランの表情で大体察した。剣聖の二人と護衛騎士達は私の暗殺が目的だったと。


 私が「妻子のかたきと暴走してベアネルソル砦に向かい隣国アズーリシル王国とその同盟国の混合精鋭部隊ごと吹き飛ばした。さらにそれを止めようとした二人の剣聖を殺害。そんな筋書きか?

 アズーリシル王国からの非難と採掘所を破壊したことによる国内の貴族たちの非難も含め、罪を全て私一人に押し付けようと。そのうえ研究成果も丸ごと手に入れようと。そういうことですか。



 ……こいつら私の魔法、魔術、魔道具の研究成果を狙っていたのか。


 田舎の小さな村に転生して魔法という存在を知り、独学で練習していたらその才を買われ、ひとり村を出て王都に上京。


 魔法学園で貴族の嫌がらせにも負けず首席で卒業し王宮魔術師となり王宮のすみっこ暮らし(勤め)を三十五年。


 趣味嗜好しゅみしこうに走った魔道人生だったが、それが詰まった研究室は、まあ……確かに他人の手に渡れば危険なモノが沢山ある。


 あくまで個人で楽しむ範囲のつもりで刺激的なモノを発明したからなぁ。


 いままで国王に献上した発明品から推測して、もっと色々所持していると睨んで狙われたか。昔から画期的な魔術、魔道具を発表してきたからもっと凄いものを独占して所持しているのではないかと裏で噂されていることは知っていた。


 王宮の離れの一画に研究室を設けてもらい快適な生活を送ってきた分は十分尽くして来ただろ!今まで献上した魔術、魔道具で満足しろよ。


 聖剣が腹から飛び出していても死なない私を見て、不老不死の魔法か薬でもあると今は確信しているんだろうな。違うのにな、根性で耐えてるだけなんだけどな。それもかなりギリギリだ。体内の魔力の循環が鈍くなっていて辛い。


 おおかた、王宮魔術師長になりたがっていたコルトラン伯爵が国王を唆したのだろう。


 王宮魔術師長といってもお飾りだ。王に仕える魔法使いたちを束ねていたわけではない。単独の番外独立戦力である。


 私の地位は王の威厳のため、他国への牽制のための肩書に過ぎない。



 あーあ、人間不信が加速しそうだ。それに死後、私の部屋の鍵として使われるなんて御免だ。


 どうにかこの場を切り抜けたいがまさかこの『鎮魂歌レクイエム』がこんなに優秀だとは思わなかった。いや聖剣との合併効果とでもいうのだろうか、魔法がね、使えない。


 今回の件で新たな発見だ。二本の聖剣が共鳴し合ってて体内の魔力をグチャグチャに乱すんだ。



 凍結して動けない。魔力を制御することも出来ない。ないない尽しだよ。


 ここから打つ手がない。


 助けも来ない。長い戦争で故郷も妻子も失った。頼る仲間もいない。知り合い以上、友達未満すら片手で数えるほどだ。


 平民からの成り上がり野郎言われ貴族社会でずっと孤立していたからな。




 ああ、来世は友達をつくろう。……水晶から抜け出せたらね。




「よし『鎮魂歌レクイエム』を解除しろ!」



(鎮魂歌から解放されれば動ける!腕を犠牲にして初撃を耐えタリスマンで自動反撃!)


(えーっと今の手持ちは……絶界のネックレスで亜空間に逃げて二本の聖剣を引き抜きキズの治療!これで状況を持ち直す!)


(そのあとは……もう王族貴族なんて知るか!先に手を出したのはそっちだ、大暴れしてやる!)


 こっちだってどれだけお貴族様に我慢してきたことか。怒りでなんだかモチベーションが上がってきたぞ。



 体を凍結させ拘束していた氷が光の粒子となり消えてゆく……。


 がんばれ私!ド根性!剣速よりも先に――。




 縦に振り下ろされた斬撃に首を刎ねられた。




 同時にタリスマンの効果で剣聖になりたてのカルヴィットも斬られ命を絶たったが、道連れにしたとてよ。ねぇ?

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