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「いろいろな条件?」

 私の言葉に、アカードが悩む様にして聞き返してきた。それに頷いて続ける。

「はい、今回の例だけしか検証できていませんが、他にもいろいろ可能性はありそうです、これから実証するのが楽しみで仕方がないですよ!」

 我慢できなくなり、私は両腕を小さく上下に振った。

「教授、とりあえず興奮するのはあとでお願いします、話の続きを」

 続きが気になる、という感じでアカードに続きを促される。私は「失礼」と咳ばらいを一つした後、話を元に戻した。

「日の光には熱がある、でもそれだけでは熱が足りません、ではどうすればいいでしょうか」

 私が問いかけると、皆、頭を捻る。たまらなくなったのか、エネルラが「勿体ぶらないではやく教えてください」と訴えてきた。

「はは、すみません……日の光を集めて収束させれば、熱はより高くなると思いませんか? それこそ物が燃え出すほどに」

「なんとなくわかりますが、日の光が自分で収束したんですか? 人の仕業ではなく……まぁ日の光を操るなんて魔法、聞いた事ありませんが」

 分からないと言った感じで、疑問を呈したアカード。それに首を横に振ってから、私は答える。

「もちろん日の光に意思はありません、さらに言うなら収束させた物にも意思はなく、偶然そうなってしまったんです」

 私は窓の方に移動すると、置かれていた魔水石を掴んで皆の方にかざして見せる。

「魔水石が日の光を収束させたんです」

「魔水石が?」

 皆の驚く声が揃う。

「はい、水や透明な物は、日の光を歪める性質がある様なんです」

 私は、いや私だけではない。皆この現象を目にしている。私は最近アカードにごちそうしてもらった食堂で、それを目にした。店内の明かりで魔水石が照らされて、机にその姿が映し出されていた。その時はなんとなくしか見ていなかったけど、その映し出された姿は中心が光っていて、その光っている周りは影が出来て黒くなっていたのだ。

 この現象はよく考えてみると、つまり日の光を収束させているという事にならないだろうか。だって、もし光を収束させていなけれれば、透明なんだから影で出来た黒い部分が無く、魔水石の形のほとんどそのままの姿が机に映し出されるはず。

 きっかけは駐屯所で、ドリス達に話を聞いた日の事だ。ドリス達が帰っていくのを窓越しに見た。暖かな日差しと、透明な窓、その組み合わせから閃いたのだ。

 私はそんな話をかみ砕いて皆に聞かせた後、話の続きをする。

「今回の火事で具体的に何が起こったか説明しましょう」

 手に持っていた魔水石を腰高の窓の窓枠に戻して、皆の方に体を向ける。

「朝、マリアさんは窓が汚れている事に気付きます、そして魔水石を持って窓に近づく、でもマルコ君が起きてきて、窓枠に魔水石を置きます……ちなみに普段はここに置く習慣はなかったそうです」

 私の言葉に、ドリスは思い出すようにしてから頷く。普段からおいていたらもっと前に火事が起こっていただろう。私は窓から少し離れてから口を開く。

「マルコ君の世話を焼いているうちに、一時的に置いた魔水石の事を忘れてしまって、そのままマリアさんとマルコ君は出かけてしまいます」

 私は出かけて行くような感じの動きをした後、窓の方に戻る。

「二人が出かけている間に、日の光は収束されて、高温になっていったと思います、そしてその光は、あちらにあったはずの木製のタンスに当たっていた」

 私は真っ黒こげになったタンスの方を指差す。光が差してきている方向の、対角線上だった。

「おそらく、いろいろな条件が重なって、出火したのだと思います……私が実験した時には出火しませんでした、収束した光がとっても熱くなったのは確認したんですが」

 魔水石が作った収束された日の光に、しばらく手をかざしてみたらとても熱かったのだ。私は手のひらを見て、熱かったあたりを指で少し擦る。

「それでも十分あり得ると思います……これが私の考えた出火の原因です、これなら魔力の痕跡はもちろん残りませんし、そもそも犯人は存在しません」

 まだ理解が追い付いていないのか、三人は小さく「なるほど」と呟くだけだった。私達の常識を超えた話だから、仕方がない事だ。

「これにて私の講義は終了です」

 私はそう口にした後、三人に微笑んで見せた。

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