08

「では、夫婦仲について教えてください……最近の仲はどうですか?」

 私の問いかけで、二人の表情が決定的に変化する。今までは疑惑程度という感じだったのが、確信している感じだ。この二人はたった今、私を敵として認識した。そんな表情の変化だった。

「それは、火災と関係ありますか?」

 私が考えている事を、すでに感じ取っているのだろうか。ドリスの言葉にトゲは無い物の、口調は怒りを抑えているような強い物だった。

「可能性はありますよ……どちらかがパートナーに危害をくわえるつもりで、何かしたというような可能性です」

 私はあえて笑顔でそう告げる。これでボロを出してくれれば簡単だ。ボロになり得る物があればの話だけど。

「ちょっ、教授、なんて事を」

 常識人のアカードがさすがにと言った感じで、止めに入ろうとしてくる。でもその言葉の途中で、マリアが声をあげた。

「仲はいいですよ、少なくとも私はドリスを愛しています」

 力強い声で宣言したマリア。それを聞いてドリスが少し驚いたようにしてから、決意したように口を開く。

「俺だって、マリアを愛している」

 それを聞いたマリアが弾けたような勢いで、ドリスに視線を向けた。普段はあまり言葉で伝えあわないタイプなのかもしれない。くすぐったそうな表情でドリスがマリアに視線を返す。視線が絡み合って、少しだけ甘い空気が流れた。

 これが演技でなければ、どちらかが危害をくわえるつもりで、火災を起こしたというのは無いだろう。ある意味ボロを出してくれたと言える。

「愛し合っている事がよくわかりました、ありがとうございます」

 視線でキスをしているような状態の二人に声をかけると、揃って顔を赤らめて目を伏せた。



 それからいくつかの質問をして、終わりにした。特に有益な情報は無かったという印象だ。もしかしたら思わぬ情報が手掛かりになる可能性はあるけど。

 ドリス達が出て行ったあと、私はソファに背中を預けながら体を伸ばす。

「何かわかりましたか?」

 そう問いかけながら、アカードは私の対面に座った。私は首を横に振って見せる。なんとなく言葉にするのが億劫だった。その様子を見て、アカードが「そうですか」と呟く。

「あなたは招集されてません、首を突っ込んできた不審者です」

 言わずにはいられなかったのだろう。エネルラがそう口を開くと、アカードが投げやりに「そうだな」と答える。

「というか、夫婦仲を聞くなんて……いや聞くにしても聞き方という物が」

 思いついたようにアカードが小言を始めたので、私は逃げるように立ち上がって窓の側に移動する。小言を背中で受けながら窓の外を見ると、ちょうどドリス達の背中が見えた。

 こうしてみると仲のいい家族だ。ミルコは笑顔で二人と手をつないで歩き、ドリスとマリアの、お母さんとお父さんの顔を交互に見ている。それを暖かな日差しが照らしていた。幸せな家族の一シーンといった感じ。

 もしもドリスか、マリアがパートナーをどうにかしたいと思って、あの火事を起こしたのなら、人間不信になりそうだ。印象的にあってほしくない。だとしたら、ミルコの無自覚な行動の一つが引き起こしたんだろうか。子供の魔力はまだ未成熟だから、検知できないという事があるかもしれない。何のかかわりもない様な魔法が連鎖して発火につながったという線も。

「……ッ!」

 私の中に衝撃が走った。

「……そうです、そうですよ、もしかしたら……!」

 私の中に走った閃きが、そのまま一気に仮説を作り上げる。可能性は充分ある。これなら魔力も残らない。まだ実証実験をしてみないといけないけど、私の勘がこれはいけると告げている。

「ちょっ、聞いてるんですか? 教授……どうしました?」

 全然聞いてなかったけど、今の今まで小言を続けていたらしいアカードが、私の異変に気付いて声をかけてくる。私は二人の方に振り向いて口を開いた。

「分かったかもしれません、あとは実験して確認するだけです」

 もう何も構っていられなかった。全てわずらわしい。頭の中に色んな思考があふれ出てくる。早く研究室に戻って実験したい。

「ちょっと、逃げる気ですか?!」

 抑えきれなくなって私は走り出していた。エネルラの見当違いの声が背中から聞こえてくる。あとにしてほしい。早く。早く確かめてみたい。この不可思議を、早く。



 数日後、私は火事の現場に来ていた。ちょうど火事が起こったであろう昼間。アカードも一緒だ。

「やっと火事の原因を教えてもらえる、という事でいいですか?」

 呆れた様子でアカードが問いかけてくるので、私は頷いて返す。

「……はい、他の方が来たらお話しします」

 そう言っていると、エネルラがドリスを連れて現れた。

「原因が分かったというのは本当ですか?」

 そう口にするドリスの表情は少し暗かった。騎士団に保護されている状況がずっと続いているせいなのか、それとも別の要因か。私は頷いて見せる。

「教えてください、原因はなんですか?」

 待ちきれないという感じで、アカードが問いかけてくる。アカードにもエネルラにも、まだ実験で確証が得られていないから、と何も言わずに協力だけしてもらった。ここ数日、気持ち悪い思いをさせただろう。感謝しなければ。

 さて始めようか。私は人差し指を立てて、くるくると回しながら皆に向けて告げる。

「それでは……不可思議講義を始めましょうか」

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