07
駐屯所の一室。応接室のソファに私は腰掛けていた。対面のソファには、被害者家族の三人が座っている。ドリスとマリア、ミルコの三人だ。そして、アカードとエネルラは私が腰掛けているソファ側に、立って控えていた。
「すみません、まだ気持ちが落ち着いていないと思いますが」
私の言葉に反応したドリスが、代表して口を開く。
「いえ……それより失礼ですが、お名前を伺っても?」
ドリスの疑問は当然のものだった。騎士団の制服を着ていない、ただの一般人らしき人物が、騎士団の騎士を引きつれて、自分たちの前に座っているのだ。説明が無ければ異様な光景だろうと思う。
「あっ、失礼しました、私はマリー・マリエル、カタエラ魔法学校で教授職についている者です」
肩書を告げた途端、ドリスとマリアは納得と安心が混ざり合ったような表情を浮かべる。騎士団調査隊が、原因不明と断じてしまっているのだ。そういうのもあって今回の火事は被害にあった当人達が、一番の不安にかられているだろう。そこに教授と名乗る人物が現れた。そういう表情もするだろう。
「お察しの通り、今回の不可思議な現象を解明するために、私が召集されました」
実際は私が強引に首を突っ込み、強引に事を運んでいるのであって、招集などされていない。でも正直に首を突っ込みましたなどと言うほど、非常識ではないのだ。そばで控えているエネルラが何かを言おうとしたのを、アカードが止めている。それが気配で分かって、私は少し苦笑した。ドリスとマリアが揃って、不思議そうにエネルラの方に視線を向けたので、私は急いで話を切り出す。
「では、早速ですが、火事があった時の事を、聞かせていただきましょうか」
私の言葉で、二人がこちらに視線を戻してきた。
「繰り返しになると思いますが、お答えください、火事あった時、何をしていましたか?」
この辺の話は何度も確認されているだろうから、特に悩む様子もなく答えてくれる。
「俺……私は仕事に行っていました」
ドリスは言いなれていないらしい一人称で答えた後、マリアに視線を送る。
「私と息子は、外に出かけていました」
マリアも特に悩む様子もなく答える。この辺りは事前の情報通り。
「では、家を出るまでの間……そうですね、二、三日前を含めて、何か変わった事はありませんでしたか? ドリスさん」
突然指名されて少し驚いたように身をよじると、ドリスは少し考えてから口を開く。
「……すみません、特に何も……」
そう答えた後、ドリスは先ほどと同じようにマリアに視線を送る。それを受けてマリアが表情を暗くしつつ答えた。
「……私も同じで、すみません、何も気付きませんでした」
申し訳なさそうに、二人は目を伏せてしまった。両親の雰囲気を感じ取ったのか、ミルコが少し不機嫌な表情を浮かべて、私を見つめる。両親をイジメている悪者を見るようだった。
「いいですよ! そんな気にしないでください、誰も気付けないから不可思議な事象な訳ですし」
慌ててそう口にすると、二人はこちらに目を向ける。相変わらず申し訳なさそうではあるけど、少し表情は明るくなっていた。変わらない視線を、ミルコは私に向けているけど。
「では次に……魔水石は普段から窓の所に置いているんですか?」
私が問いかけるとマリアが目を見開いて、何かを思い出したような表情を浮かべる。それから、俯き気味になると赤くなって口を開いた。
「忘れてた……普段は置いてません、あの時は窓が汚れていて、ちょっと水をかけてきれいにしようと、魔水石を持って行ったんです」
アカードの考えが正解だったらしい。ただの置忘れだ。
「キレイにしようとした時に、ミルコが起きてきて、ご飯をあげなきゃって、窓枠の所に魔水石を置いたんです」
「……なるほど」
なかなか可愛らしい人だ。ほわほわしているというアカードの評価は、あながち間違っていないと感じる。私と雰囲気が似ているというのは、断じて同意はできないけど。とりあえずそれはいいとして。
「次に……ミルコ君についてお聞きしたいのですが」
突然名前を呼ばれて、ミルコはビクリと体を強張らせる。年齢は五歳を過ぎているぐらいだろうか。良くない事が自分たちに降りかかっている事ぐらいは、理解できているだろう。不安そうにマリアの服を握り締めるミルコ。マリアが庇うようにミルコの肩を抱く。
「ミルコ君は魔法を使えますか?」
「はい、歳相応だと思います……ミルコが火をつけたとでも?」
マリアが警戒するように私を見つめる。
「いえ、そういう事では」
私は少し圧倒されながら、言葉を続けた。
「ただ、子供は予想外の行動をしますから、思わぬことが実は原因という事も、直接的な物ではなく、間接的な何かという意味です」
大人ならやらないような子供の行動がきっかけで、発火したという事も考えられる。
「ミルコの行動は特にいつもと変わっていなかったと思います」
「そうですか」
マリアが複雑な表情で私を見つめる。息子を守りたい一心だろう。少し敵対心を持たれてしまった可能性はある。という事で嫌われついでに、確認したかったことを聞いてみようか。
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