第37話 嵐の夜の電話

これは前にも書いたかもしれないけど、その子と初めて会ったのは確かスキーのツアーで、みんなでスキー宿屋に泊まっていた時だった。 夜になって何処にも行くところがなくて、暇だったので 一緒にお酒を飲んだことがあった。あの娘とはその時初めて知り合った。

その時だったか、その後だったか忘れてしまったが、話をしていて僕のことをなんか気に入っていてくれてるみたいな気がしていたんだけど。台風が来ている夜に、彼女から突然電話が掛かってきた。あの頃携帯電話はまだなかったので直接家に電話があった。僕はその時、なんだか彼女と長い時間話をしてたような気がする。「今どこにいるの」と聞いたら、「弟の下宿にいる」と言ってきた。「弟と一緒にいるの」って言ったら、「一人でいる」と言う。

彼女は医者の娘で、弟は医大に通っているらしい。とにかく連れて歩くと町ゆく男たちが振り返るくらい目立つ可愛い娘だった。僕は彼女が電話で指定した場所に急いだ。高速道路を車で飛ばした。 ちょうど台風が来ていて、すごい雨が降っていたけど出かけて行った。彼女の言う弟くんの下宿に着いたのは、夜中の2時ぐらいだったかな。台風で風がひどくて傘は全く役に立たなかった。ドアを開けて部屋に入ると、6畳ぐらいのキッチンだった。その部屋の隣の部屋に布団が敷いてあって、僕はえっと思ったけど、まあそんなに気にしていないふりをしていた。内心すごくあの布団が気になっていたけどこの娘は何のつもりなんだろうと思った。 彼女は1回ぐらいしかまともに話をしたことがないのになんでこんな夜に急に電話をしてきたんだろう。しかも 誰もいない部屋で 一人で僕を待ってるなんて一体何がしたいんだと、僕は本当に思った。

何をしろと言うつもり何だろう、セックスがしたいわけじゃないだろうが、なにか決めてくれと言うつもりなんだろうかと思った。女は時々こういう行動をする、自分では決められないから僕に決めさせるんだ。なんか前にもあったなこんなことが。

僕は本当に困っていた、ただこの子に手を出そうという気にはなれなかった。医者の娘で結局、結婚するなら医学部に入って欲しいと言い出した。僕は、それは無理だよとは答えた。もうこんな無茶なことしないでくれよと言って、白々と夜が明け始めた頃に僕は彼女を家に送って、帰っていった。結局朝まで一緒にいて話を色々聞かされたけど、彼女に手を出すことはしなかった。なぜなら彼女はもし私と一緒になってくれるなら、私の家族はみんな医者だから、あなたにも医者になってほしいなと言った。

今から医者の勉強をしろというのかと思ってそれは難しいなと言って話が途切れた。彼女はだから結婚してくれる前提で私を抱いてもいいのよ、と言うつもりだったんだろう。

嵐の夜にかかってくる電話には 出ないことだなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る