第13話 母の死

僕は一体どうしたいんだろう。僕は今まで自分がしたいように生きてきたつもりだった。今更何も悩むことなんかない。そう思ってきたが、どうもそうではないらしい。僕は当然自分のために生きていると思っていたんだが、自分のために生きるというのは、できそうでなかなか出来ることじゃなかった。僕は自分のためにと言いながら、いつのまにかおふくろに喜んでもらえることを考えていた。あの子と結婚したらお袋が喜んでくれるだろうなと言うふうに、それが全ての基準になっていた。いつのまにか全てがお袋が喜んでくれるということが基準になっていた。僕は全く自分のために生きていない。だからお袋がいなくなってしまった今一体どうしたらいいのかわからなくなってしまった。もしかしたら僕の全てはお袋のためだったということなのか。だからお袋がいなくなってしまった今はもう僕には何も分からない。何も決められない。

情けない話だ。65歳になってやっとそんな事に気が付くなんて。だけどずっとそうだったじゃないか。お袋が亡くなる前から俺はずっとそうだった。結局お袋が喜んでくれるかどうか、それが全ての判断の基準だった。お袋が死んじまったからって今更変わるもんじゃない。俺はずっとこのままだろう、お袋の墓の前に行きぶつぶつあれこれ言いながら生きていくんだろう、まあそれはそれでひとつの人生かぁ。お袋が俺の中にいるというより、俺自身がおふくろの一部なのかもしれない。お袋から生まれお袋に育てられこうして生きてきた。それもまた事実だ。おふくろの死と同じように。お袋が死んで1年。1年やそこらじゃ何も変わりはしない。それは65年経ったとしても同じだろう。何かあればお袋の墓の前に行きぶつぶつと長話をする。65年経っても同じだと思う俺はお袋の墓の前でぶつぶつ長話をしているんだろう。それは良い悪いの問題じゃない、これもまた事実だ。俺はこういう奴なんだ一年経とうが65年経とうが変わるわけがない。

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