第11話 祖父母のこと



僕が中学生になった頃おじは結婚した。美人で評判だった人に多治見の方から来てもらった。立江さんと言うその人を叔父はとても気に入って、早々に式を挙げた。おじが多治見で美人の評判の高かった立江さんをどうやって見初めたかは詳しくは知らないが、大本になっているのは祖母の菊竹家の繋がりらしい。祖父の櫻井家は昔から全くの百姓で人のつながりというようなものは持ち合わせていなかった。祖父の枡一がどうやって菊竹家の娘と結婚できたのかは全くわからない。想像するに祖父の枡一は相当頑張って和菓子職人として認められたのだろう。それで菊竹家の血を引く祖母を嫁に迎えることができたのだろうということだ。

職人としての腕はそこまで高めるために祖父は相当頑張ったのだろうがお尻見ますよの後を継がせるにあたって特に厳しい条件などはつけなかった。枡一おじいちゃんは普段はいつもニコニコしていて何を考えているのかよくわからなかった。ただお酒が好きなことは知っていた。おじいちゃんの楽しみはそれぐらいしか知らない。祖母のこともあまり覚えていない菊竹家のお嬢さんでお姫様だったらしいことは知っているが、その他のことは全くわからない。ただ祖母が働いていたところは全く記憶にない。おそらく祖母は一度も働くというようなことはしたことがなかったんだろうと思う。祖母の記憶といえばいつも座敷の中に行儀よく座っていて色白で華奢でほっそりした感じの人だったことぐらいしか記憶にない。僕は祖母に怒られたことは一度もなかった。祖母はいつも着物だった。洋服を着ているところを一度も見たことがない。そういえば一度だけ祖母に教えてもらったことがあった。てまりの蹴り方だ。それだけだった。僕は手鞠なんてそれより前に見たこともなくてそれっきり忘れてしまった。祖母にももっと色々と教えてもらったのかもしれないが錦の糸を綺麗に巻きつけたマリの蹴り方を教えてもらったこと以外は忘れてしまった。

人の記憶というのは曖昧だし現実にあったことなのかどうかも分からない。何もかもまるで一時の夢のようなものだ。どうせ見るなら綺麗な夢だけにしたいものだね。

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