第10話 久之おじさんのこと


おじさんは特別に饅頭の修行などはしなかったと思う。おじいちゃんとずっと一緒に働いていたので饅頭の作り方などもおじいちゃのやり方を見て覚えていた。僕から見ていてもおじさんはなかなか手際が良かった。慣れた様子で仕事をしていた。分からないところがあると時々お爺さんに聞いていたところも見たことがある。久幸おじさんはいわゆる筋が良かったんだろう。おじいさんはよくおじさんのことを褒めていた。久之はすぐにできるようになる、大したもんじゃとよく言っていた。だから僕は久之おじさんが御桝屋の後を継いだのは良かったと思っていた。おじさんもそんなには嫌がっていなかった。時々はブツブツ文句を言ってる時もあった。久之おじさんは学生時代はスポーツが何でもうまかったらしい。中でも叔父が一番うまかったのはテニスだった。おじはテニスで国体の選手に選ばれたこともあるようなことを言っていた。本当に選ばれたのかどうか確かめたことはなかったが、叔父がそう言うんだからそうなんだろうと僕は思っていた。叔父は大抵のことは上手だったセンスがあると言ってもいい。だからきっとテニスも上手だったんだろう。車を運転も上手で乗っていて安心感があった、とてもスムーズな運転だった。叔父の若い頃は御桝屋もお金がなくて配達用の車をなかなか買えなかったそうだ。だからおじさんは一番安い車を選んで買った。御桝屋の一番初めの配達用の車は3輪車だった。おじは3輪車でどこへでも出かけた。僕は車に乗るのも好きだったし久之おじさんのことも好きだったのでよく一緒に出かけた。おじは配達が終わって時間があったりするとよくパチンコ屋に入った。叔父は何をやらせても器用だったのでパチンコも上手だった。僕はおじからよくチョコレートやキャラメルをもらった。叔父は大抵パチンコに勝つのだ。短い時間でぱぱっと勝っていろんな景品を持ってきた。少し長い時もあってそういう時はたいていパチンコで大勝ちしているか大負けしているかのどっちかだった。あまり遅い時僕はおじを探してパチンコ屋の店内まで見に行った。ガラスとドアを開けて店内に入るとびっくりするような大きな音だった。大声で話しても何も聞こえなかった。こんなところによく長い時間入っているなと感心した。叔父はタバコをふかしながらパチンコを打っていた。幼稚園に通っていた僕が紺色のスモックでパチンコ屋の中に入っていくとパチンコ屋のお姉さんが近づいてきて僕今日も来たのと言いながら近づいてきて僕をおじの席まで案内してくれた。久之さんお迎えですよ。車の中で待っていろって言っただろ。子供がパチンコ屋なんかに来たら怒られるぞ。叔父はそんなことを言いながらこれといってチョコとかいろんな景品をくれた。パチンコ屋に行っていたなんて言うなよ。うるさいからな。仕事をサボってパチンコばかりやっているおじのことをおじいちゃんはあまりよく思っていなかったんだろう。僕はたまに息抜きにパチンコぐらいいいのになと思っていた。おじは面白かったし見た目も良かったので女性によくモテた。パチンコ屋のお姉さんもよく行く喫茶店のお姉さんもおじのことをよく思っているのがわかった。祖父と一緒に行くと若いお姉さんみんなおじに愛想が良かった。抱きついたりする人もいたが、子供のボクがいるのを知るとすぐに手を引っ込めた。久之さんの子供さん?馬鹿言え、俺はまだ結婚してないよ。

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