最終話「嵐のような日々、再び」
ニャジラの襲来と消滅で、世界中が大パニックになっていた。
こうなるともう、集団幻覚がどうこうという話でまとめるのも難しい。ただ、ニャジラが破壊したあらゆるものが元通りになっていたため、物議は議論を呼んだ。
そして、人類は考えるのをやめた。
巨大な空中戦艦を見たとか、巫女さんや魔法少女、果ては巨大人型機動兵器の目撃例もあとを絶たなかったのだが、ニュースやワイドショーはその話題を避け続けた。
そんな訳で、僕の日常らしい日常が戻ってきた。
「
体育館の床に座った僕の横で、とびきりの美少女が顔を覗き込んでくる。
まあ、男なんだけどな。
もうすぐ部活の紹介イベントが始まるので、体育館は賑わっていた。
「ああ、御神体な?
「ん、
「こう、卵が先か
「うん、それね。昨日、総本家から郵便で届いたよ。今、持ってる」
「……は? 僕が書き加えちゃったやつ?」
「そう」
因果が巡り巡って、輪になった。
摩耶の聖魔外典に僕が加筆して、それを過去へと
彼は今日も、社会の影で
「あ、始まるみたい。生徒会長が出てきた」
ステージの上に、しゃなりしゃなりと金髪ドリルのお嬢様が現れた。
そう、生徒会長の
彼女はマイクを手に、ニコリと微笑んだ。
「新入生の皆様、そして在校生の皆様。今日は我が
この瞬間、多分新入生の四割は恋に落ちたと思う。
男女の別なく、惚れたと思う。
すげえ絵になるっていうか、全身から高貴なるオーラが溢れ出ている。
まあ、この人は宇宙人なんだけど。
でも、ちょっとありえないレベルの美形で、
「さあ、皆様……ご覧になって! まずは昨年の全国大会を制した、剣道部ですわっ!」
ドン! ドン! ドンドン!
和太鼓が鳴って、星音会長が
一瞬だけ僕と目が合って、彼女はウィンクを投げてよこした。
やめい、僕まで惚れてまうやろ。
でも、そんな
剣道部のパフォーマンスが始まって、
しかも、コスプレ姿で。
「お、おい、あれ……」
「あー、隆良のラノベじゃん。なんだっけ、戦国ワルキューレ?」
「どんだけ僕のこと好きなんだよ! てか、ファンとかマニアってレベルじゃないだろ!」
そう、新入生たちに一礼して演舞を始めた冥沙先輩は……ワルキューレのコスプレをしていた。しかも、僕の作品に登場する『戦国時代に大名たちと戦う和装ワルキューレ』という、
ちょっと、でも、嫌に似合っててそこかしこから「おお!」と声があがった。
「花未、元気にしてるかな」
「うん? ああ、なんか未来じゃなくて太古の神様だったんだって?」
「まあ、うん」
「なるほど確かに神対応、無事に特異点もなくなったしさ」
「
でも、今はそれが少し懐かしい。
凛とした冥沙先輩の横顔に、常に真顔な花未がダブって見えた。
で、
大好評のトップバッターに続いて、次々と部活動が紹介されてゆく。
「ねねっ、隆良。隆良は部活とか入らないの?」
「んー、執筆が忙しいんだよなあ」
「一応、うちにも文学部とかあるけど」
「ふっ、僕はラノベのプロだぜ? ……なんてな。そういう摩耶、お前はどうなんだよ」
「んー、女装仲間の集う部活があったら考えるんだけどねえ」
女装部? いや、ないない……それは流石に無理だろう。
都牟刈学園は部活動にも力を入れているし、生徒会による自治で少年少女の自主性を育てている。だからって、いわゆるハーレム気味なクローズドサークルとしての部活なんて存在しないのだ。
そういうのは、ラノベの中にしかないんだわ。
そのことを一人噛み締めウンウン
「えっと、陸上部っす! 我々と一緒に汗を流してくれる、とにかく陸上競技が好きな新入生を募集してるっす! 初心者も大歓迎っす!」
陸上部の部長さんが、たどたどしくスピーチする。
ずらり並んだ部員の中に、いつものツインテール姿の
そりゃ、星音会長や冥沙先輩に比べると……普通? 言ったら怒られるだろうけど、普通にかわいい。そして、やっぱり脚が太ましい。
ざわつく新入生の何割かが、女子部員の中で壱夜だけを見てる気配は確かにあった。
「隆良さー、壱夜とはそのあと、どぉ?」
「どう、って……以前とあんまし変わらないさ」
「一緒にご飯食べて、一緒にお風呂入って?」
「そういう日常を送ってた覚えないんですけど! ここ数年は!」
小学校三年生くらいまでかな、それは。
ともあれ、これから彼氏彼女をやってくつもりだ。
焦らなくていいし、絶対に壱夜を負けヒロインなんかにはさせない。
これでもかというくらい、幸せな日々を一緒に過ごしてもらうさ。
そんなことを考えていると、不意に体育館をざわめきが襲った。
「えっ? あ、あれって……隆良、あれっ!」
思わず立ち上がった摩耶が、指をさす。
そう、ステージの
真っ白な髪は銀色に輝き、透き通るような肌はまるで
誰もが息を呑む美貌に、僕は言葉を失った。
勿論、突然の乱入者に陸上部一同も壱夜も驚いていた。
「は、花未っ!?」
山田花未だった。
一度見たら忘れられない、
彼女は、目を白黒させる陸上部部長から、そっとマイクを奪った。
そして、体育館の全てを一度見渡してから、話し始めた。
「ごきげんよう、諸君。早速だが、わたしに協力して欲しい。部活という
おいおい、なにを言い出したんだ?
っていうかお前、過去に帰ったんじゃないのか!?
しん、と静まり返った体育館で、誰もが花未に
そして、彼女は通りの良い声で言葉を続ける。
「この中に未来人がいる筈だ。宇宙人や魔法少女、伝説の
その時、僕は不思議な感覚に襲われた。
全校生徒が集まった体育館の中で、千人近い人数のその中で……ちらほらと、身を固くする者たちの気配があったのだ。そして
……マジか、もう日常は取り戻せたんじゃないのか。
「よってここに、
花未はそう言ってマイクを部長に返すと、すたすたと行ってしまった。
こうして、僕の日常は再び非日常に突入してゆく。
――リアルはラノベより奇なり。
その後、僕は摩耶と一緒にこの異世界部に入部し、スナック感覚で世界を何度も救ってしまうのだが……それはまた、別の話である。
STORM DAYS! ながやん @nagamono
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