やりなおし子爵令嬢は何度でもあなたと恋したい

猫月九日

そしてまた3年間が始まる

「アクリラ!婚約を破棄してくれ!」


 カトラス王子からの突然の要望に、


「……はい、喜んで!」


 当然応える。

 カトラス王子のことを愛しているから、それ以外の答えなんかない。


 思えばこの3年間も色々とあった。希望を抱いて入学した3年前。そこで、私は一人の男性に一目惚れをした。

 それが、カトラス王子。その時は、目立つ人だなぁとは思っていなかったけど、まさか王子様だなんて思ってもいなかった。偶然にも同じクラスになって、友人に王子だってことを聞かされた時は、『高嶺の花』なんて思ったっけ。

 でも、王子は吹けば飛ぶような辺境子爵令嬢の私にも優しかった。


 優秀だった私は生徒会に入ることになった。そして、生徒会には、カトラス王子もいた。

 相変わらず優しい王子と一緒にいるうちに、恋をしてしまったのは仕方ないことだと思う。

 しかし、私には婚約者がいた。10以上も歳上の男性で、いわゆる政略結婚というやつだ。これも貴族の令嬢としての努め、積もっていく王子への恋心はひた隠しにするしかなかった。


 そんな状況が変わったのが私が3年になった頃。

 またしても同じクラスになった私たちは、生徒会長と副生徒会長となっていた。たまぁに二人だけでお出かけとかしていたのは、きっと生徒会の仕事ということで許されるだろう。

 そんな二人で出かけている時、私達は攫われてしまった。王子が目的だったらしく、私はついでだったらしいのだけど、その犯人一味の一人に、私の婚約者がいた。

 どうやら、王子の継承を阻止するための誘拐だったらしく、それを聞かされた私も仲間に加わるように説得してきた。

 当然、私はそれを断るつもりだったけど、それをしてしまったら、そのまま殺されてしまうのは目に見えていた。

 だから、私は一計を案じた。

 仲間に加わった振りをして、どうにか王子を助けられないかと。うまく立ち回ったおかげもあって、無事に王子を助けることができた。

 無事に犯人達のアジトから逃げ出せた時に、感激のあまり王子に抱きついてしまったのは許されるだろう。


 王子の誘拐の件は末端が切られるだけで、有耶無耶うやむやになってしまった。

 私の婚約者が切られてしまえば、一番良かったのだけど、残念ながらそうはならなかった。

 それでも、噂は広がるもので、一件以降、立場はかなり弱まったようだ。それこそ、婚約を進めていた私の両親も距離を置くことを検討を始めるくらいには。

 ちらりとメイドに聞いた話だと、もはやそこに嫁がせるつもりはなく、他の婚約者候補を選定している状態だとのことだった。


 まぁ、私の家の事情はさておいて、その一件以降、私は王子とさらにナカヨシになっていた。つまり、そういうことである。

 吊り橋効果と言ってしまえば、それまでだけど、これまで抑えていた気持ちが爆発した結果である。

 どうやら王子の方も、私のことが気になっていたらしく、これまでは婚約者がいたから遠慮していたとのことだった。つまり、私たちは同じ気持ちだった、それがわかった時はとても嬉しかった。


 そして、卒業式の日。

 王子から先程の申し出をされた。それが意味するところは、


「侯爵との婚約を破棄して、私と結婚して欲しい」


 ということだ。

 喜びのあまり彼に抱きついてしまったのはしょうがないだろう。こうして私の3年間は無事にハッピーエンドを迎えることができた。

 アクリラとしての私にはこれから王子との幸せな生活が待っていることだろう。



 ……羨ましいことである。

 付けていたVR機器を外す。とたん、目の前の真っ黒のスクリーンに自分の顔が映る。

 途端に現実に戻ったような気持ちになって、目を反らした。

 せっかく幸せな気持ちでいたのに、なんかなぁ。

 目を反らした先には、一つゲームパッケージがあった。それは、私が今プレイしていたゲーム、『異世界恋愛VR』だ。

 異世界恋愛VRはそのタイトルそのままで、異世界での恋愛を体験できるVRゲームだ。

 昨今、VRは脳とリンクをしたフルダイブが可能になり、その中でかっこいい攻略対象たちと恋愛できるということで、多くの女子が殺到した。

 私もその中の一人だ。

 いや、むしろ重度のヘビーユーザーと言っても過言ではないくらいにはドはまりしている。

 毎週の休日になっては、ニューゲームを開始して、休む時間を惜しみつつ、プレイする事を繰り返している。

 通算でのゲームクリア回数は数え切れないくらいだ。


「はぁ……、アクリラになりたい」


 思わずそんな事をつぶやいてしまった。

 ゲームの中みたいに、王子と熱い恋をしたい。ゲームをクリアした時には、毎回こんな風に切ない気持ちになってしまう。


「これで最後にしよう」


 流石の私もまずいという自覚はある。いつか現実に戻れなくなる日が来るのではないだろうか、そんなことが頭をよぎる。やめようと決意したことは何度もある、今もしたところだ。


 しかし、私はわかっている。

 王子の魅力の前では私の決意など無駄に終わることを、私はわかっている。

 私は来週になったら何事もなかったように、またニューゲームを開始する。

 そして、子爵令嬢のアクリラになった私は、何度でもカトラス王子との恋に身を投じることになるだろう。


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やりなおし子爵令嬢は何度でもあなたと恋したい 猫月九日 @CatFall68

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