第4話 大侵洪
ウィーンとドリルが回る音がする。
「これは、うわぁ、難しいぃ。
少しずつ意識が戻ってくる。声が聞こえる。確か、なんだったか、なんだったっけ。
目を開けると、俺は白い布の上に横たわっていた。ベットと気づくのに時間はかからなかった。
「お、起きた〜!」
「うぎっ、なんだオマエ!」
目の前には銀髪の少女が工具を持って座っていた。
薄明かりで照らされた彼女の顔からは安堵の表情。それと、
「うりゃ!」
「やめ、やめろ!」
ベットで、俺の上で四つん這いになる彼女からは鉄と香水に似た匂いそれと、悪戯の表情。脇を中心にこそばゆい指使い。
「ねね、っ、君どこから来たの。」
「うあ…僕もそれは知らない。」
ベットで俺の横で横たわるようにした彼女は、言わば好奇心の獣のようだ。
「そっ…あのさ、君の名前は?」
「…」
名前、ナマエ、13号という名前は、機体名だ。理由は知らない。だが、『フラガリア』のような名前は、思い出せない。ナマエ、ナマエ、あの人の名前!
「し、シ…トら…す…だった。」
「ふぇー!シトラス!いい名前じゃーん。」
違う!ちがう、違うんだ。ちがう。焦りで頭がごっちゃになる。
「ちが、う」
「違うの?じゃーなんなのー!」
顔を寄せてくる。あまり顔をこんなに近づけたことないから、分からん。何だこの、頭で処理しきれないような感覚。
「黙ってるなら…もういい。シトラスくんで決まり。」
「…」
返事出来なかった。しようとしても出来ない。どうしても怒らせてしまう気がしたから。
「リプス。」
そう彼女が告げた途端、青色の魔法陣が手首に出現し、彼女の手には、白色の固体に棒が着いたものが出てきた。旧時代のアイスと呼ばれていたものと似ている。
「よろしくね…シトラスくん。」
「あ、…うん。」
しばらく2人は黙る。お互いの腹の中の探るように。僕だって聞きたいことは山ほどある、例えばなんで僕を救ったのかとか、例えば、あのシンベルとかいう奴は何者なのかとか、そもそも此処は何処なのかとか。でも、聞けない。聞いたところで何になる?答えてくれるのだろうか。
「お嬢様、」
その声が聞こえた途端。ベットの上の彼女の後ろに隠れる。僕の腕を吹っ飛ばした奴だ。
「おーシンベルじゃん。棚整理終わったの?」
「ええ、おや、こんな暗い部屋で。ライト一つだけで。…失礼しました。お嬢様。」
「え、あ、…違う違って!もー、お爺ちゃんってさそんなこと言う性格だったっけ?」
否定している彼女に少し笑みを零すシンベル。さっき襲ってきた奴とは全然違うように感じるんだが。
『通達:もうすぐ大侵洪。提案:回避』
のっぺりとした機械音声が響き渡り周りが赤く点滅する。警戒ランプのような感じだ。僕が、あの人を、あの人を、なんだっけ。
「えー、まずいまずい!ヤバいってちょっとシンベル!」
フラガリアが目の前で慌てている。さっき大侵洪と言っていたよな。
「何が起こってる?」
「いやー、少しマズいって言うか結構マズいと言うかだいぶマズいというか。」
フラガリアは、こっちに目配せする。
「シンベル!来て。」
「承知しました。暫しお待ちを、」
自動扉が開き、彼女とシンベル急いで右へ向かった。
しばらくして、床が振動しだした。
「な、なんだ?」
僕は、壁に叩きつけられる。どうしたんだ?
「何が起こって、うわぁ、う、フラガリア!」
ベットの柵に勢い良くぶつかる。赤ランプが点滅して、壁の間から火花が変則的に散る。
「く、フラガリアの所に行かないと。」
打ち付けた腰のことなど気にせず、フラガリアが向かった方に向かう。だが、
「扉が、重い。」
自動開閉の扉は熱と圧力で変型して、開かなくなっている。それならと、右腕を変型させて熱を加えて刃に変える。
腕が熱い。流石に腕を熱するのは、激痛が迸る。だが、
「ウオォオオ!アアアっ!!」
扉を斬り刻んで、彼女が向かった方向に向かう。道中沢山の扉があったが、前へ前へ駆け抜ける。
「まずいよ、こんなの初めてじゃん!」
「ですがお嬢様、あの海の注意を引いている以上、いつ襲われるか分からないですから、」
「分かってる、分かってるけどさ!」
フラガリアとシンベルが、言い争っている。
「あの子にとっての大切なものがまだ、あるかもしれないって、」
「ずっとそればっかりでは無いですか、」
「だって、って、」
彼女は、どうやら僕に気がついたようだ。僕にとって必要なものがあの廃墟にあると思っているらしい。
「大丈夫だ、僕の記憶が無いから。」
「でも、もしかしたら記憶が、」
「いいんだ。」
彼女は鼻を鳴らしてこう言った。
「シトラスくんがそれでいいならいいよ。」
「ああ、」
「でもね、第一ロケット部分がやられてて、動けないんだよね。…まずいまずいまずい!」
焦り出すフラガリア、僕にできること、できること。不意にこの船の地図が見えた。旧時代の飛行機と呼ばれていたものに似ている。だから、
「僕、ロケットの代わりにこの船、動かす。」
「は?」
僕は、この船の左翼へと向かった。
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