第3話 やってられない。
「ちょっと!シンベル。」
「いやしかし、お嬢様に危害を加えようとしてま」
「うるさいっ、黙って!」
私はシンベルに癇癪を起こす。なんでこうゆうことしちゃうかなぁ。砂漠に佇む執事と少女。
「この子連れてくから。」
「でも、」
「うるさい、しつこい黙って!お節介執事!」
私の目はボヤけていた。確かに見ず知らずの少年だし、急に襲ってきた。けど、
「助けなきゃ。」
私は、緑の魔法陣を空中に出現させる。緑は、生命魔法だ。色々あるけれど私は、祖母から教わった。
「キュアル!」
そう唱えると、魔法陣が外円と内円に別れて、双方の円が上下に離れて腕の間に集まる。そして左腕の出血を止める。
きっと、シンベルはまだこの子を助けることを否定し続けていただろうがそんなの知らない。
私の"友達"になってくれるかもしれないんだからら。
「シンベル、包帯いるから呼ぶね。」
「…」
「シンベル?」
「…承知しました、この少年を看ときます。」
「うん、よろしく。…さーて、久しぶりにやりますかぁ〜。」
私は砂漠を駆ける。時間との勝負だから。友達を失うのは嫌だ。大きな魔法陣を書いていく。所要時間は10分ちょいだ。でも油断出来ない。
「空の魔よ。我の魔力で、この世に顕現せよ!」
『召喚に応じる、何が望みだ。』
出現したのは空の魔だ。空間を操る魔族の一人。
「我の機関戦艦、トールを呼べ!」
『否、それでは契約不成立だ。』
「え、」
普段なら契約を結んでくれるのになぁ。仕方ない。今は時間が無い。
「じゃあ、この子の取れた左腕も足して。」
『おお、これは
召喚に使った魔法陣が、どんどん浮き上がり、縦になり、外円や内円、中心が巨大な層を作り上げる。すると、
「おわぁ〜、やっぱり壮観だね。」
「ゥオオーォォオオッッ!!」
魔法陣から物凄い勢いの風が吹く。吹くというか吹き荒れる。その中から巨大な飛行船が出てくる。
この
「よーし、こい!」
トールには500程の部屋がある。だが今欲しいのは、看護室の中にある包帯だ。魔法で治せばいいじゃんって思うでしょ。でもね、できないの。あくまでキュアルは再生魔法。本人の再生能力を加速させるだけに過ぎない。
だから、トールの中の看護室の扉を玄関のドアに、部屋を移動させているの。まあ、感覚で言えば、本棚から本を探す感覚かも。
「あった!あー…」
少年が完全にぐったりしている。
「シンベル!文句は後にするから、こっち運んで!」「それがお嬢様の願いなら、承知しました。」
途端、シンベルと少年が消えた。そして、風が横切る。シンベルは、人間じゃない。トールと同じ祖父の発明の一つだ。
「わしは…そう、長くない。」
「嫌だよおじいちゃん!」
話す時に唇が揺れる祖父は私にこう言った。両親が忙しい私には祖父が唯一無二の存在だった。
「だから…此奴とこの船をフラガリアに託すよ。」
「無理だよ!…それに、おじいちゃんが居なくなっちゃうのも嫌だ!」
此奴と呼ばれた機械は、祖父に似ていた。
革製のソファに、横たわる祖父と泣き崩れる私。
「大丈夫だ、まだ消えるつもりは無いよ。」
「もー、おじいちゃん!」
それが私が強く覚えてる祖父との会話だ。祖父との最期に会ったのは、六年前だったっけ。
「なんで居なくなっちゃうの…。」
それから少し経って、祖父が私に託した船に戻ってくることが出来た。祖父がよく座っていたソファに
また、泣き崩れる私。大好きな祖父が消えてしまう私に、
「ワ…ワタしは、お嬢様をオマもりする。ベルです。」
「は…誰なの。」
背中の排気口から蒸気を出しながら、ガタガタと動くその身体は、かつて、祖父が残した、此奴と言っていた機械だ。
「ワたたたしは、お嬢様をお護りする。ベルです。」
「ベルって、さ、機械がおじいちゃんの名前を語るなああああああああぁぁぁ!」
勢いよく拳を機械に叩きつける。だか、返ってくるのは拳の痛みだけ。
この機械は、祖父の作った機械だ。でも、祖父の名前を使うのは、例え祖父がいいとしても、私が嫌だ。祖父は一人だけ。やってられないな。
「知らない。もう。」
自分の部屋に閉じこもる私。祖父の気持ちは分かる。いつも懐いてくれた私にいつも笑顔でいて欲しかったのかな。
でもさ、でも、そんなんさ、おじいちゃんだからいいんじゃん。
そう思いながら毛布を被る。
「失礼します、お嬢様。先程は申し訳ございません。」
機械かもしれない。でも、おじいちゃんが残してくれたのなら。
「じゃあさ、…新しいおじいちゃんってことで、シンベルでいい?名前。」
「承知しました。私の名前はシンベルです。」
そこからこの船でシンベルとの旅が始まった。
「お嬢様、」
シンベルは私に話しかける。
「なーに、」
私は不機嫌だった。シンベルはいつも祖父の真似をしようとした。私の祖父の変わりになるのが祖父が出した
「そんな事していても意味無いんだよ。」
「そんなことと言うのは?掃除ですか?掃除しないとトールも不機嫌になりますから。」
「トールって?」
初めて出た言葉にさっきまでの不機嫌は頭の中から無くなっていた。
「トールというのはこの船です。」
「え?
「そうです。トールは元々大きな竜だったのです。それを装甲蒸気機構を取り付けて、オイルアに最適化させることで長時間飛行と、制御を可能にしています。そうして」
「ちょいちょいちょいちょい!」
シンベルがめちゃめちゃ話そうとしたので私は静止させる。
私はいつの間にか笑顔になっていた。
そんなことを少し考えていてしまった。あの子助けないと!
トールの下で何かが光った。
「なんだろう?でも、気になるなぁ。シンベル!」
「は、なんでしょう。」
ドアから半身だけ出したシンベルが聞く。
「その子の治療お願いねぇ!」
「え、あ、は、かしこまりました。」
慌てているシンベルを気にせずその光に近づいていくと、そこには腕輪のような形をしていた。
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