回想編

第2話 出会い

鎖に繋がれた記憶が、自分が泡沫のように、深いの海のように遠く離れていく。


あれ、僕はどうしたんだ?…何してたんだ?


その後強い衝撃が、地面を揺らした。少しずつ人の声が聞こえる。こちらに駆けてくる。


「誰か死んでない?だいじょーぶですかー!」「死んでないよね?」


荒い呼吸をした焦燥に囚われた銀髪の少女が、陽炎が揺らめく中から走ってくる。僕は、瓦礫の中にいるのだろう。少しの視界からしか分からないからだ。


ゴロゴロ、と瓦礫を退かす音がした。砂が落ちて体に当たる。


「シンベル?見つけた?」「はい、お嬢様。」


光が強く指す。そして、よく分からない男に、腕を引っ張られる。


「おー、見つけたね、見つけた!」


瓦礫の中で、白色の袴を来た少年。彼の名は、13号。だが彼は、あまりに長い時の中で、眠っていたので、袴が塵となった。


「あー、あ、あのシンベル?やっぱ、半分だけ戻して。」

「承知しました。」


シンベルと呼ばれた機械は、少年を瓦礫の中にある大きな白い容器の中に戻そうとすると、


「ちょっと待って、」

「はい、お嬢様。」


裸の少年には、右腕が無かった。


「腕がないじゃん!やっぱまずかったんだよ。」「如何致しましょう。お嬢様。」


だがその腕は無数の銅線と、チューブで構成されており自己再生を、繰り返している。まるで虫が死体に群がるように。


「え、え、私もしかして、崩壊技術 ロスト・テクノロジー見つけちゃった?」

「そのようですね、文献では全知全能の書以外は見つからなかったらしいのですが。」


銀髪の少女と横にいる老体の男は、混乱している。今、出て先制攻撃するしかない。駆け出して右腕の自己再生を中断して、左腕に集中させ、キャノンを作り上げる。だが、


「お嬢様に、手出しをする気ならおやめなさい。」

「チッ…オマエら誰だ。」


シンベルと呼ばれた執事は、傘と杖を合わせたようなモノのから杖先が変形し、キャノンを作り上げる。コイツ、こんなもの作れるのか…強い。


「ちょーいちょいちょい、私の事忘れないでよ。」

「失礼ですがお嬢様。この者は只者では無い可能性が高いです。」


シンベルと少女が言い争っている。だがこのシンベルという男、何か変だ。動きがカクカクしている。


「もー、絶対危なくないって、だって、この子可愛いもん。」

「しかし、この者はリスクが大きいです。」


なんだコイツら…というかここは、何処なんだ。俺は、ずっともっと光が無くて、暗くてあの人がいるところにいたはず。金髪のあの人の近くに。


「ねぇねぇ、私は、フラガリア。フラガリア・ヴァイロレッド。 」

「うわぁぁ!」


横から囁き声で話しかけてきた。いや、確かこの男のすぐ横にいたはずなのに。


「わぁーい、驚いたね。この人はシンベル。私の執事さんなんだよ〜。」

「お嬢様、危ないですよ。」


シンベルは、心配した顔を浮かべる。


どうやら、歯車の付いた帽子を被った銀髪の少女は、フラガリアというらしい。白と黒を、基調にしたファッションで、この廃墟と砂漠の世界には全くと言ってもいいくらい似合わない。


そして、このシンベルという男は片眼鏡をしていて、同じく帽子を被っている。白髪と黒髪が混じっていて、紅紫色のフードのある黒いタキシードを着ている。


「僕に…なんの用事だ。」「あはははっ!このっ、この見た目で一人称僕とか。ちょっと待ってよ〜。」


この女、やっぱりムカつく、というか。


「あの人が…教えてくれた『コトバ』を馬鹿にするな。撃つぞ。」


今度は、腕の中からロケットランチャーを出す。これなら!


「おやめなさい!お嬢様に危害を加えることは許しません!」

「おぐっ…」


シンベルは、僕の腕の向きを真反対の向きに曲げる。右半身に激痛がする。そして、右腕をもがれた。あまりの痛みに倒れる。僕は最強として生まれてきたのに。何故こんなとこで。どんどん意識が飛んでいく。またあの泡沫の中に潜っていく。

漏れ出た赤い液体が、僕を浸らせていく。



「ねぇ、ちょっと!」「お嬢様、ダメです。」


虚ろになっていく頭に響いた、フラガリアという少女の声。






「諸君、仕事に戻れ。」「承知致しました!シトラス軍曹!」


響き渡る声が頭を痛くする。

数人の屈強な男共が、一人の女性の上官に従っている。その女性の名はシトラス。研究室のドアが空く。


「ごめんね、さっきはちょっと怖いお兄さん達に襲われちゃうかもだったから。」

「いや、大丈夫だった?シトラスお姉ちゃん。」


僕は、お姉ちゃんの心配をする。シトラスお姉ちゃんは僕にここから出れない僕に外の世界を教えてくれた。


「今日は、病気の手術しなきゃだから。あの子に会いたいならしなきゃダメなの。」

「え?なんで、」

「こればかりは、仕方ないの。あなたが強くなるためにね。」


首に強い衝撃を感じた。今思えば、この研究所の人間に眠らされたのだろう。そして、僕は、実験された。改造されたのだ。機械の体に。


「成功しました!」

「ああ、これで彼は人類の希望ですね。」


目覚めた時ガラスに写った僕の髪は銀髪に変わっていた。そして、


そこから、殺戮の使徒。機械の僕は負の感情をダウンロードさせられ、狂った。

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