8 虹の逢瀬
五月。
GWが世の学生を喜ばす月だ。本格的に暑くなってきて、早速夏の制服に移行している奴も出てきた陶都中の教室。
「唯斗、」
「?なn……」
答えかけて、唯斗は理解する。
廊下側、北の空。虹が出ていた。
「雨降ってたっけ?」
「いやなんか、小さい雲から少し降るだけだと、乾いちゃって地面には届かないらしい」
「つまり?」
「あれよあれ、あのー……」
「あの?」
「空の上だけで雨が降ってて、それに陽が映って虹ってる感じ」
「あー、なんかわかったかも」
「だら?」
「俺らってさ、初対面雨だったことない?」
大葵が自信なさそうに切り出す。
「ああ、そうだよ」
二人が初めて出会ったのはたしか小三のときだ。
夏の雨の日。
唯斗は耳がどんどん聞こえなくなることに、見えるよりも恐れをなしていた。
とはいえ、補聴器もとっくに慣れてきた。
いつも通り暮らせる。思わぬ形で考えることになった。
「唯斗くん」
小学校の朝の早さにももう慣れてきて、ひとり本を読んでいた唯斗に近づいてきたのは今年初めて同じになった山口君。
「えっと、山口君?」
「そう。サバイバル好きなん?」
山口君は唯斗が読んでいる本を覗き込んで言った。
「運動会、晴れるかな」
「さあ」
この地域の小学校では、多くの場合運動会は初夏にある。よって梅雨とかぶることも多いのだ。
「山口君競技なんだっけ」
「リレー」
「一緒だ」
「そうだよ、忘れてた?」
「うん。忘れてた」
笑う。
「なあ、その山口君てのダメ」
「え、」
「下の名前で呼べよ」
会話が止まる。
「……?」
「……なんだっけ名前」
「うわっコイツ」
また吹き出してしまう。
「大葵。名前」
「大葵。俺、唯斗」
「唯斗」
ありがちな会話だけど、それが楽しかった。
「ほらー、そこイチャイチャしとらんと座る!」
昔ばなしに花を咲かせていたらいつの間にかチャイム一分前。
「もう最近の子はみんな恋してるわね」
家庭科の
その時、唯斗は閃いた。
「明日、デートしよ」
唯斗はほうかになるなり大葵のところへ駆け込む。
「でも明日雨やん」
「だからだよ!雨の日に出会ったんだからさ」
大葵はすこし考える。明日土曜日に特に予定はなかったはず。
「いいよ」
特に考えなしに答えた。
翌日。
梅雨明け報道前のひとふりが、少し心を落ち着かせる。
「おはよ」
「おっ……おう」
「なに、緊張してんの?」
「べつに」
多治見駅から土岐市駅まで移動し、そこからバスに乗り換える。
三菱ふそうの広いバス、その後ろ側の座席に二人で座った。
「修学旅行以来?」
「そうだな」
「ふふ」
イオンモール土岐はこの辺でも大きいショッピングモール。二人は着くなり二階にあがる。
「どこ行く?」
「ヴィレヴァン」
「おK」
「推しは?」
「キリヲ先輩」
「おお〜」
「そっちは?」
「レヴィアタン・レイヂ」
「おお〜」
魔入間コーナー設置とはなかなかやるではないか。
「いつか、メロメロにしてやるぜっ」
突然唯斗が魔入間のセリフをパクって言う。
「もうメロメロだぞっ」
大葵は恥じながら返す。顔真っ赤。
「大葵」
「なんだよ」
唯斗が急に真面目顔で訊いてくるもんだから、大葵は少し焦る。
「ほんと、好きだから」
「……俺も」
「まじで好き」
「おう」
そのまま吹き出す。
それからマクドで偏栄養な昼を済ませて、ゲーセンで遊びまくりまくり、サーティーワンでアイスを食べて四時すぎ。
「楽しかった?」
「勿論」
「よかった」
バスを降りて、少し陽がでてきた空を見上げる。
「あ」
「?」
「虹!」
空には大きく、くっきりとした虹がかかっていた。
「きれい」
夢中で写真を撮る唯斗。
その後ろ姿を、その笑顔を見て、大葵も嬉しくなる。
雨にも負けず、風にも負けず、二人一緒で、いつまでも彼らは恋をする―
完
レイニーデート 桜舞春音 @hasura
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