7 熱い聲

 中学に入り、唯斗と大葵は揃って市立陶都とうと中学校に通い始めた。


「え~じゃあ、自己紹介を!」

入学式から土日を挟んだ一日目に、担任の教師が言った。

出来町平正できまちひらまさといいます。教科は理科。よろしくお願いします。次は、出席番号一番から!」


出席番号は時に残酷なことをする。陶都中学校一年二組一番は飯田唯斗。

唯斗は嫌々感を縛り付けてから立ち上がる。

「飯田唯斗です。得意なことは歌うことと走ることです。あと、これ」

唯斗は耳に付けた深紅の補聴器を指さして

「これがあれば問題ないですが、これが無いと耳が聞こえません」

とぶっきらぼうに言った。別に言うべきことでもないが他に話題もないし言っておいて損はない。

唯斗は二番の人間に話を振って座る。


それから一週間は大したこともせず身体測定やら学級写真の撮影やらやって終わった。教師の接し方や周りの感じなど中学校と言っても小学校とあまり変わりないように思えた。


「唯斗~」

帰り際、まだ唯斗が鞄の中身を整理しているのにもかかわらず大葵は唯斗の細い腕をつかむ。

「ちょっと待って。今準備しt……いたっ」

唯斗が痛がって顔をゆがめると、大葵がはっとして手を放す。

「大葵は騙されやすいねぇ、ヒッヒッヒ」

「うわっ最低だコイツ!」

大葵は口をとがらせてまた唯斗の腕に狙いを定めるが、唯斗はマッハで鞄を閉じた。

そして学校指定の黒いリュックを背負うと

「じゃ、行こっか」

と言った。


今日は新一年生仮入部期間の初日。たった三日のうちに興味のある部活を巡りどこに入るか決めなければならない。

唯斗たちは、一日目を合唱部にしていた。


この学校の合唱部は強いらしい。以前聖歌隊をやっていた唯斗にとっても歌うことは趣味の一つだから、合唱部に入れたらいいなと思っていた。


「今日は新一年生来てくれてありがと〜!」

 部長の先輩、太田川梨沙おおたがわりさが底なしに明るく言う。唯斗の苦手なタイプ。

「それじゃ早速だけど、発声やってくよー!」

 もはや必要ないのではと思うほど声が通って響く。

 

 副部長横須賀満よこすかみちるのピアノに合わせて音が上がる。ふたりとも声変わり前だもんで最後まで出し切ることができた。


「それじゃここが難関!今まで私達合唱部が歌った曲のなかで最も高音、このドより一オクターブ高いラいくよ〜!」


 全員でラ〜、とはいかず。出たのは唯斗とソプラノの先輩数人で恥ずかしい。

「……お前すげぇな!」

 水色のキャップをあさく被った上前津かみまえづいちか先輩が思わずこぼして、唯斗が更に赤くなる。顔も丸いから、シナノスイートみたいだ。


 その後は新一年生が何故かみんな合唱経験あったビリーブを歌って解散した。


「げんきだったね、先輩」

「それな。てか、部活終わるの六時か〜」

「ちょっと疲れるかもね」

 夕焼けの中、自転車を押しながら大葵と並んで歩く唯斗。


 二人の背中には、満足と照れが、刻まれる。

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