第18話 川村鮫子2
ピローンピローン。
という電子音と共に川村はファミレスの中に入った。
案内をしようとする店員を無視して、窓から見えていた席を見る。
(……いた。クソ陰キャ!!)
影山はノートパソコンを広げて、カタカタとキーボードを打っていた。
たぶん、あの気持ち悪い小説を書いているのだろう。
ズンズンと店内を進んで影山の席の前まで行く。
「おい、陰キャ」
そう声をかけて上から見下ろすが……。
「……」
影山は反応なし。
気づいていない様子で画面に集中し、黙々と小説を書き続ける。
「ちっ……」
それが、自分を舐められているような気がして余計に苛立った。
「おい!!」
大きな声を出して肩を揺らす。
するとさすがに気づいたのか……。
「ん? ああ……川村さんじゃないか。久しぶりだね」
影山は呑気な声でそう言った。
「久しぶりだね、じゃねえよ。影山てめえな、また気持ち悪いクソつまんねえもの書いてやがるな」
「そんなことはないさ、今僕は素晴らしいものを書いてる。この作品はきっと人々の心を打つよ」
全く躊躇なくそんなことを言ってくる。
「……っ!!」
あの時と同じだった。
揺らぐことのない圧倒的な自信。
真っ直ぐなブレない瞳。
なぜか分からないが気圧されてしまう。
「あのー、お客様。こちらの席の方とご一緒ということでよろしいでしょうか?」
店員に少し迷惑そうな声でそう言われてしまった。
要は邪魔だから座るなら座れ、ということだろう。
「あ、はい。すいません……」
そう言って影山の正面の席に座る。
座ってから、ああ、と自己嫌悪がやってくる。
反射的に敬語で遜った態度を取ってしまった。「そうですけど?」と一つ睨み返すでもしてやってもよかったのに。
ちょっと苛立ちの籠った声を聞いてビビってしまったのだ。
(だせえ……)
こういうちょっとしたところで、昔のダサい自分が顔を出すのが心底嫌だ。
高校デビューして、強い見た目を手に入れたはずなのに。
……そしてそんな自分に比べて。
川村はチラリと正面を見る。
カタカタ、と影山はまた執筆を再開していた。
「ねえ……」
カタカタカタカタ。
「ねえってば」
カタカタカタカタカタカタカタ。
「無視すんなよおい!!」
「ん? ああ、川村さん。まだ何か用なのかい?」
自分のことを歯牙にもかけていないようなその態度にイラッときたが、ひとまずそこは置いておいて言う。
「アンタに聞きたいんだけどさ」
「うん」
「なんで、そんなに偉そうで自信満々なわけ? クソダサい陰キャなくせに」
そう。
川村にはそこが分からない。
影山はスクールカーストで言えば底辺とも言える、ぼっちの陰キャである。
背も低いしイケメンでもないし成績が特別いいというのも聞いたことがないし、スポーツもあまり得意ではないはずだ。何一つイケてる所がない。
今でこそあの伝説で一定の評価はされているが、その前までは時々周囲から「ぼっち」や「暗いやつ」の代名詞として小馬鹿にされた。
なのになぜ、あんなに自信のある偉そうな態度が取れるというのか?
果たして影山の答えは。
「うーん。僕は今の僕のことを心底『かっこいい』思ってるからなあ」
だった。
「はあ!?」
理解不能すぎる発言に川村は描いた眉を釣り上げてそんな声を上げる。
「アンタ、目ついてんの? アンタのどこをどう見ればそう思えるわけ?」
そう言ってファミレスのガラスを指さす。
夜なのでそこにはハッキリと自分と影山の姿が映っていた。
自分はそれなりにイけてそうなギャルっぽい女子高生、一方影山は前髪の鬱陶しそうな背の低い陰キャオタク。
「誰が見てもアンタはかっこよくないでしょ?」
「そんなことはないさ」
だがやはりこの男は、確信をもった言葉でそんなことを言ってくる。
執筆に使ってるノートパソコンを指差して言う。
「夢を持って、目標を持って、そのために毎日毎日挑戦して努力してる。どう考えても『かっこいい』人間じゃないか?」
「なんだよその自己満足。もしかして勘違いしてんのか? 多少マシになったけど今でもアンタは周囲から底辺のクソ陰キャだと思われてるからな? しかも噂じゃ作品出してダメだったんだろ? 負け犬じゃん。アンタのこと本当にかっこいいなんて思ってるやつほぼいねーから」
「……」
影山は意外な顔をしてこちらを見る。
「……っ、な、なんだよ」
「川村さんは……随分とどうでもいいことに囚われてるんだね?」
「はあ?」
また訳の分からないことを言ってくる。
「他人がどう思うかなんて、どうでもいいことじゃないか」
「いや、良くねえよ!! むしろ他人がイケてると思わなかったら意味ねえだろ。ただの自己満足じゃねえか」
「ああ……うん、そうか。なるほどね」
影山は川村の方を上から下までじっくりと見る。
「な、なんだよ」
「川村さんは本当の自信がないんだね?」
「は、はあ?」
なんだコイツ、喧嘩売ってるのか?
しかし影山は川村の怒りなど気にせず言う。
「ねえ川村さん……さっき、他人からイケてると思われなければ意味がないって言ったよね?」
「ああ、当然じゃん」
「逆だよ。川村さん。それは逆なんだ」
影山は身を乗り出してそんなことを言ってくる。
「自分で自分を心底『かっこいい』と思えていれば、いずれ人はそんな自分を心底『かっこいい』と思ってくれる。だから向き合うべきは自分自身なんだ。そこから逃げたらダメだよ。自分自身を愛する努力から逃げちゃダメだ」
(なんだ……こいつ?)
いきなり愛とかさらに意味の分からないことを言い出したぞ?
何か言い返そうかと思ったが。
影山は真っ直ぐな瞳でこちらを見ていた。
「川村さん。本当の意味で君を愛してあげられるのは君だけだよ。愛してあげなよ、自分を」
「……っ!!」
川村は視線を逸らしてしまった。
やっぱりなぜかその目で見られると気圧されてしまう。
「あーもう!!」
ダメだ。コイツと話すとペースが乱される。
だせえ、陰キャの癖に!!
川村は立ち上がると、増幅した苛立ちだけ抱えてファミレスを出たのだった。
□□
(……ああクソ、マジで昨日のあれは時間の無駄だったわ)
その後数日、川村は影山にまたいい負けたことを思い出しては苛立っていた。
今も通学の電車に乗りながらそのことを考えている。
(急に愛とか言い出して、あぶねえ宗教の教祖かよ)
そんな風にその時は言えなかった、返し文句を頭の中で言ってみたりする。
だが。
『だから向き合うべきは自分自身なんだ。そこから逃げたらダメだよ。自分自身を愛する努力から逃げちゃダメだ』
言われた言葉はやたらと耳にこびりついて離れない。
「あー、ウザい。マジであいつウザい」
そんな風にブツブツと呟いている間に、電車が駅に着いた。
と言ってもまだ高校までは四駅ある。いじめられていたダサい過去を消すために、少し遠くの高校を受験したので当然通学は時間がかかる。
ちなみに今の高校に受かったのは実力でもなんでもなく、マークシートが奇跡的に当たったからである。だからこそ勉強に全くついていけず赤点地獄になっている訳だが……。
この駅からはちらほらと、自分の高校の生徒も乗ってくる。
その中に少し前まで見慣れた人物がいた。
「あ、アリサ……」
「ああ、鮫子。ちょっと久しぶりだね」
森アリサ。
進級してクラスが変わり、普段からつるむことはなくなったが一年の頃は毎日のように話していた相手である。
「うん……てか、相変わらずレベチな見た目してるねアンタ……」
キメ細やかで艶のあるブロンドヘアー、透き通るような碧い眼、非の打ち所のない整った顔だち。もちろん化粧もしているが、自分のように大幅に印象を書き換えるまでもなく元の素材にちょっと上乗せしているだけなのにここまで綺麗になってしまうのはズルいなと思う。
しかも頭も良くてなんでも器用にこなして……森アリサは川村の理想とも言ってよかった。できればこんな風に生まれたかったと心底思う。
「ありがと。鮫子だっていい感じだよほら……アタシよりおっぱい大きいし」
「アタシはアリサと違ってウエストもあるから見栄えしないの。何よその紐で縛ったみたいなくびれ、あーあ、羨ましい」
そんな風に軽口を叩く。
一年の頃からそうだったが、集団での会話で上手く自分の発言をするのは苦手だが、森アリサに対してはそれなりに自然と口が回る。
たぶん頭のいいアリサが話しやすい返しをしてくれているんだろう。
「どう、新しいクラスでは。上手くやれてる?」
森アリサは少し心配そうにそんなことを言ってくる。
同級生からそんな心配をされる自分に少し嫌になった。
「全然ヨユー。今田島たちとつるんでてさ、スポーツマン体力あるから遊びに付き合うの大変だわ」
なので、そんな風に強がってしまう。
ダサい。
本当になんの問題もなく、余裕で高校生活を過ごせていればこんなダサい虚勢を張らずに済むのに。
それこそ……目の前にいるなんでも容量のいい森アリサみたいだったら。
「アリサの方はどうなん?」
こちらのことを掘り返されると困るので、話を相手の側に移す。
「私は……まあ、上手くやってるよ。前のクラスメイトも多いしね。それに……」
「それに?」
「アイツが同じクラスにいなくなって……少し、気持ちが楽になったしね……」
森アリサは少し遠い目をしてそう言った。
その表情はなんと表現したらいいのか。
複雑な感情で入り混じっていて、川村のボキャブラリーではなんと表現したらいいか分からなかった。
「アイツって……影山?」
「……知ってたんだ。そうだよ」
頷く森アリサ。
(やっぱり……そうだったんだ)
詳しい事情は実は全くわかっていない。
でも、少なくとも一年の途中から森アリサがやたらと影山のことを気にしているのは分かっていた。
「なんかあったのかよアイツと。ちょっと気になるじゃんね」
「うんまあ。色々と……」
森アリサはそう言って黙ってしまう。
これ以上詮索はしないで欲しい。そういう雰囲気を出しているのは、さすがの川村でも分かった。
マズイ、ちょっと気になるとか言わなければよかったと後悔する。
「……」
「……」
沈黙が続き、少し気まずい空気が流れる。
「……ええと、あれ。そうそう」
何か話をして空気を変えないと。
「そう言えばちょうどこの前、影山と会ったんだよ。アイツ、アタシの家の前のファミレスで例のカタカタやっててさー」
無理やり明るい声を作ってそう言いながら、キーボードを叩く動作をおどけた感じでやってみる。
「へえ……影山。やっぱり学校以外でも書いてるんだね」
そして。
「やっぱり、かっこいいなあ……」
と、ほとんど聞こえないような小さな声でそう言ったのだ。
(え? かっこいい?)
川村は最初何を言ってるか分からなかった。
スクールカーストで間違いなくトップで、自分の理想の、もの凄くイケてるアリサがあの陰キャのことを『かっこいい』?
(……いや、無いでしょ!! アタシの聞き間違いでしょ今のは!!)
小さい声だったし、電車の音も大きかったし、きっと何か聞き間違えたんだ。
『自分で自分を心底『かっこいい』と思えていれば、いずれ人はそんな自分を心底『かっこいい』と思ってくれる』
そんなあのダサい男の言葉が、脳内で再生される。
(うるさい!! 黙れ!! 意味わからないんだよ!!)
川村は心の中でそう叫んだのだった。
□□
「そうそう、それで山田のやつがさー」
「アイツ、本当にアホだよなあ」
「たぶん川村よりバカだぞアイツ」
「ちょっと、さすがに山田と比べられるのは嫌なんだけどー」
川村がそう言うと、ギャハハハハと教室内に田島たちの笑う声が響く。
時刻は昼休み。いつもの昼食。
楽しそうに騒いでその時間を過ごす田島たちのグループに、鬱陶しそうな視線を向ける者も数人いるようだが、そんな日陰の連中なんぞ知ったことかと学校生活を謳歌する。
そんなグループに所属しているという安心感。正直「バカ」の代表例としてネタにされるのは嫌だったが、それはもうしょうがない。
全員から舐められたりバカにされて、また惨めな思いをするよりはずっといい。
(……そう、これでいい。これでいいのよ)
影山みたいな考えは所詮は綺麗事だ。
自分のような人間にはこっちが合っている。
(でも……安心した。この前のこと皆んな気にしないでくれてるみたいで)
影山の話題になって、空気を悪くした挙句、グループの中心である田島に謝罪させっぱなしにしてしまったというやらかし。
最悪の場合、そのままいじめに発展しかねないほどのやらかしだったが、何事もなくてよかった。
これでこれからも安心して学校生活をおくれる。
(あ、いやでも、赤点の方は解決してないかそういえば。あーやだなあ)
そんな風に思っていたら。
「ウチ、山田のリアクションで『昨日皆んなで見たやつ』思い出しちゃったよ」
グループの女子の一人、サキがそんなことを言った。
(……え?)
どうしても聞き流せないワードがあった。
「あ、馬鹿、サキ」
「やばっ」
田島が慌てて諌めて、サキが口を抑えるがさすがにもう遅い。
「……ねえサキ。『昨日皆んなで見たやつ』って?」
聞くのは恐ろしかった。
でも、そのことを確認しないで過ごすことはもっと恐ろしかった。
「えっと……」
サキの目があちこちに泳ぐ。
見かねた田島が、はぁ、とため息をついて言う。
「昨日皆んなで見に行ったんだよ。最近話題になってる映画」
あの映画とはおそらく今テレビをつければ、いつでもCMが流れているあのアニメ映画のことだろう。日本を代表する監督の新作だ。
だが……そんなことはどうでもいい。
「……アタシ、聞いてない……それ」
グループにそんな話は出ていなかったし、個人チャットでもそんなメッセージは送られてこなかった。
つまり、わざと自分だけを避けて皆んなで連絡を取り合って行ったのだ。
つまりは……ハブられた。
「……いや」
ガラガラと足元が崩れる感覚。
思い出すのは小学校中学校と続いた、いじめの記憶。
クラスメイトから次は移動教室だと告げられて美術室に行ったら誰もいなかった。
いつまでも誰もこないので戻ってみれば、普通に教室で授業をしていた。
授業をサボってどこに行っていたんだと自分を責める教師、教室中から聞こえるクスクスと聞こえる笑い声。
ああ、誰も自分の味方はいないんだと思い知らされた。
「なあ、川む」
「うっ……」
田島が何か言おうとしたが、吐き気が襲ってきて川村は席を立った。
そのままトイレに駆け込んで。
「うえぇ……」
今食べたばかりの、菓子パンを便器に戻す。
「はあ、はあ、はあ……」
食道の焼けるような痛みと、胃液の匂いに気分が悪くなる。
「……嫌だ、嫌だよぉ」
でも、そんなことより、再び居場所を失ったことに対する恐怖の方が何倍も辛かった。
□□
そのまま学校から帰ってしまった。教室に荷物は置いたままだ。
あの教室に戻りたくなかった。
家に帰ると古くなってスプリングの軋むベッドに化粧をしたまま横たわった。
(どうしよう……無理、もう学校行けないじゃんこれ……)
少なくとももう田島のグループにはいられない。
一人だけハブにする。そんなことは裏で決定的に仲間はずれにするという合意が取れていなければ起こらないことだ。
今はそれでも表面上は、グループの一員として話してくれている。
だがそんなものは長く持たないことを、長年のいじめの経験で川村は知っている。
そのうちからかいやイタズラが過剰になり、誰もそのことを咎めずにいじめが始まるのだ。
(……嫌だ、嫌だ、嫌だ)
嘲笑の声、愉悦の視線、誰も助けてくれないあの苦しい日々。
それがまた始まってしまう。
「なんで……なんで……アタシだけ、こんな……」
涙が滲んでくる。
メイクがぐしゃぐしゃになって酷い顔になっているだろう。
でも涙は止まらなかった。
□□
泣いていると、いつの間にか日が暮れていた。
体を起こして窓の外を見ると……。
(アイツ……今日もやってる)
影山はどうやら放課後や休日はいつも、あのファミレスで執筆をしているらしく、この前から毎日あの席に座ってノートパソコンに文字を打ったり、ノートに何かを書いたりしているのだ。
「人がこんな思いしてる時に、呑気にダサい小説なんか書きやがって……」
もはや窓の向こうから、影山の人影を見るだけで腹が立った。
その時。
コンコンと遠慮かちなノックが聞こえてきた。
母親である。
火曜日は朝帰りのはずなのにどうしてこんな日に限って?
その疑問はすぐに解消された。
母親は扉を開ける。スナックでの仕事帰りのダサい化粧をした姿だった。
「先生から連絡があって……鮫子ちゃん何かあったの?」
どうやら担任が無断で早退したので、母親に連絡を入れたようだった。
「……!! 鮫子ちゃん、どうしたのその顔!!」
母親がこちらを見て目を見開く。
しまったと思った。
自分の今の顔は明らかにかなり泣いてメイクの落ちた顔である。
「大丈夫? 大丈夫、なの!?」
すぐに、まるで頭から血でも流しているのかと言わんばかりに心配してくる。
「……大丈夫。アンタには関係ない」
「関係ないって……アンタは私の娘なのよ……私はアナタが心配なの……」
ウザい。
今はイラついてるから、すぐに目の前から消えて欲しい。
「やっぱり、学校嫌なの? お勉強つていけない? 皆んなと仲良くするの難しい? あなた昔からそういうこと苦手だったものね」
なのに母親は居座って話を続ける。
「もし学校辞めたいなら、母さんママに鮫子ちゃんも働けるか頼んでみるから……いいのよ、無理して卒業しなくても。一緒に働きましょう?」
「……っ!!」
かあっ、と一気に頭に血が上った。
「ふざけたこと、いうなよババア!!」
自分と同じ皺の入った顔で、弱々しい声で、貧相な服を着て、そのくせ古臭くてダサい夜職の女の化粧をして、こいつはそんなことを言いやがって。
「アタシにアンタと同じになれって言うの!? 旦那に逃げられて、寂れたスナックの従業員として安い給料で働いて、日に日に老けてやつれていくだけの人生歩めっていうの!?」
「ご、ごめんね」
「謝るなよ!! 娘にキレられたくらいで!! 言い返せよ!! だせえんだよ!!」
普段から思っていた不満が次々に口から出てくる。
「そんなだから、お父さんに軽く見られて捨てられるのよ!!」
「お、お父さんはいつか帰ってくるから……」
「来ねえよ!! 現実見ろよ、クソババア!! 死ね!!」
川村はそう叫ぶと、荷物をバッグの中にまとめて部屋を出ていく。
「ちょ、ちょっと鮫子ちゃん。どこに行くの!?」
「もう一生、アンタと同じ空気吸いたくない!!」
そう言って、川村は部屋を飛び出したのだった。
□□
家を飛び出したとはいえ、どこに行けばいいのか川村は分からなかった。
基本的に友達付き合いは田島のグループとばかりしていたし、頼れるような親戚もいない。リア充グループに入るために無理をしていただけで、基本的にコミュニケーションは苦手なのだ。よってこういう時に頼れる人脈などなかった。
そして、夜の道をいく当てもなく彷徨いていると、どうしようもなく不安が襲ってきた。
自分はこれから先どうなるのだろうか?
高校はどうする? もう自分を守ってくれるグループはクラスに無いしむしろそのグループから嫌われた、その前に戻ったとしても勉強がどうにもならないだろう、そもそも家を出てしまってこれまでのように高校に通えるのか? それ以前に明日からどこに泊まってどう生きればいい?
今更、母親に頭を下げて家に戻るか?
嫌だ。絶対嫌だそれは。ダサいことをあんなダサいやつにしたくない!!
(……でもじゃあどうすんのよ? 何か、何か、何か何か何かなにかなにかなにかあああああああああああ!!)
頭が混乱して思考がまとまらなくなる。
そのせいでより強くなる不安と恐怖。
「……誰か……誰か」
そして。
気がつけば、影山のいる家の前のファミレスにやってきていた。
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