第13話 鬼束雄二2

 結論から言うと、コイツには俺のモチベーションを高める相手になってもらう事にした。

 だがまあ、現状では雑魚すぎて話にならない。

 というわけで……。

「影山、お前に二つライトノベルの基本を教えてやる」

 文芸部の部室にあるホワイトボードの前で鬼束はそう言った。

「ありがとう鬼束くん。しっかり聞かせてもらうよ」

 影山はそう言って椅子に座って、真剣にこちらの方を見る。

 ホワイトボードには二つの今教える内容が書かれていた。

「一つ目は『コンセプトは一つに絞れ』だ」

 その一つ目をペンで指しながら鬼束は言う。

「一つの作品に何個もコンセプトを突っ込むと物語の「ノリ」がばらついて読者はついて行きにくい。お前は特に書きたいことがたくさんあるのかもしれねーが、そこは一つに絞れ。例えばシンデレラなら『継母たちに辛い目に遭わされている女の子が、王子様に見初められて幸せになる話』こんな風に、いい物語は一行か二行くらいで表せるコンセプト一つを表現するために全ての情報をさいてる」

 なるほど、と頷く影山。

「『魔法でかぼちゃの馬車』とか『ガラスの靴』とかは、演出のためのパーツってとこだな。ここで、シンデレラが途中で『結婚だけが幸せじゃないかもしれない』とか言い出して、世界を支配しようとしている魔王軍と魔法バトル始めるとかしたら話がめちゃくちゃになる」

「……確かに言われてみると。僕の描いてる話ってそういう流ればっかりだった気がするね」

「その通りだ。お前の読みにくさの一番の原因はそれだよ」

 まあ、もちろん他にも原因は山ほどあるんだが……。

「まあこれはライトノベルよりも物語全般を書くときの基本だな。んで、二つ目はラノベを書くときの基本だが、ヒロインの扱いに関してだ。『ヒロインは「恋愛ものでは強い女」バトル物では「弱い女」を出せ』だ」

「どういうこと?」

「読者がどういうことを望んで描いているかって話だな。ラノベの読者は男性が多いからそっちをメインで考えると、まず、おそらくだが恋愛物を読み漁るような読者は現実で自分から女にアプローチするのが苦手でモテねえ。だから、恋愛物を読み漁るわけだな。んでそういう奴らは『強い女にアプローチされたいな』と考えるんだ」

 ホワイトボードに「主人公」「ヒロイン」と書き、ヒロインの方から主人公に矢印を伸ばす。

「逆にバトル物を読む時は、『自分がつええ男の気分を味わいたい』わけだな。だから『弱い女』を、自分から助けに行って感謝されて惚れられたいわけだ」

 先ほどと同じく「主人公」「ヒロイン」と書いて、今度は主人公の方からヒロインに矢印を伸ばす。

 今度は影山は少し考えると。

「……そうじゃない作品も沢山あるように思うけど」

 そんなことを言ってくる。

「そりゃ探せばあるだろうさ。でも、ヒットしてる作品の大半がそうなってるんだよ。何事にも例外はあるが、例外追っかけてると一番確率の高いとこから遠ざかる。まあ、悪いことは言わねえから結果出したきゃこの辺のノリに従っとけ」

 バンと鬼束はホワイトボードを強く叩いて話を締めた。

「……」

 影山はしばらく考えた後。

「うん……なるほどね。ありがとう鬼束くん。すごく勉強になるよ」

 昨日とは違い素直に感謝の言葉を言ってきた。

 ふん、まあせいぜい頑張ってもらおう。

 俺のモチベーションを高く維持せざるをえない程度には、実力をつけてもらうぞ。



   □□



 そんなわけで、影山を加えての文芸部の活動が本格的にスタートした。

 文芸部は基本的には全員でその日、同じ作品を読み感想を言い合う。余って時間で執筆なり、自分の読みたい作品を読むなりする。

 そして週に一回、それぞれの書いた作品を全員で読み感想を言い合う。

 鬼束が考えたインプットとアウトプットをバランスよく強制的に行えるシステムである。

 最も最近は、鬼束以外は作品を書いてこないこともちらほらあり、鬼束の作品に対してはあまり参考になる意見がもらえない状況ではあったため、作品の感想を言い合う会は開いていなかった。

 まあ要は、普通に放課後集まってダラダラとオタクトークをする部活になっていたといわけだ。

 しかし、今は違った。

「お前、これコンセプトも途中で変わってるし、ヒロインもバトル物なのに強い女で書いてるじゃねえか!!」

 鬼束の大きな声が部室に響く。

 手に持っているのは、影山が学校内での執筆に使っているノートである。

 そこには鬼束にアドバイスを受けてから書いたという作品が、一章分書かれていたのだが、全然この前に鬼束のしたアドバイスをいかせてなかった。

「お前、俺がこの前なんてアドバイスしたか忘れてるだろ?」

「『コンセプトは一つに絞れ』、『ヒロインは「恋愛ものでは強い女」バトル物では「弱い女」を出せ』、それから『ジャンルは決めてから書けよ』だね」

「即答できんのかよ!!」

 てか、ジャンルを決めてから書け、もアドバイスとしてカウントしてたのか。まあ確かにジャンルは今回、ちゃんと学園バトルモノに絞ってある。そこは進歩なのかもしれない。

 だが、他がダメすぎる。

「なんでそこまで覚えてるのに、こんなことになってんだよ」

 そう聞くと。

 影山は頭に手を当てながら。

「いやあ、世界とキャラがそっちの方に行かなくてさ」

 などとアホなことを言ってくる。

「物語を作るのは難しいね」

「馬鹿、お前が自分で難しくしてんだよ。余計なもん入れるな、読者に受けてるものだけ入れろ、それを徹底しろ!!」

「それはできないよ。物語の世界は確かにそこにあって、キャラたちは生きてるんだから。僕ができるのは熱心に彼らの言葉を聞くことだけだよ。彼らの魂が本物で、その魂が揺れ動くから、書いている僕も読む人も、本当に『感動』できるんだ」

「巨匠気取るな、この一次落ち野郎!! 結果も出てねえのに自分なんか出してる場合か!!」



「またやってるよ、部長と影山」

「飽きないですねえ」

「……でも、鬼束くんイキイキしてる」



 部員たちが鬼束と影山を見て呑気にそんなことを話している。

「アドバイスありがとう鬼束くん。それで今度は鬼束くんの作品を読んだ僕の感想だけど」

「ああん? いいよもう。今のお前のレベルにアドバイスとか聞いてもしょうがねえ、その前にさっさと最低限書けるようなれ」

「そう? まあ、それならいいけど……あ、そろそろ時間だ」

 影山は部室の壁に掛けられた時計を見るとそう言って荷物をまとめ始める。

 文芸部の一部員となった影山だが、基本的には部室に長居せず全員での読書会やこうした作品の品評会が終わると帰ってしまう。

 曰く「作品を書くのは一人の方が集中できるから」だそうだ。執筆に集中したいからと来ない日も多い。

 まあ、それはいい。むしろ、ダラダラせず徹底して執筆時間を作っているところは認めざるえない。

 その割には特別筆が速いわけではないのだが……まあ、あんなに基礎がメチャクチャなのだ。文章を流し込むべきテンプレートの型を無視しているのだから、時間も掛かろうというものである。

「じゃあ、皆さようなら」

 そして影山は部室を出て行った。

 この後は、家かおそらく例のファミレスで執筆をするんだろう。

「はあ……頑固だなあの野郎は」

 鬼束は一息つくとそう呟いた。

「でも、僕、結構好きだけどなあ……影山くんの作品」

 そう言ったのは猫背のヒョロっとした部員、雉谷。

「勢いがあって、グッとくるシーンもいくつかあるんだよね」

「ああ、分かるわかる。最後とかウルっとくるしな」

 小太り眼鏡の猿楽もそれに同意する。

「……でも、鬼束くんの作品に比べて読みにくい」

 ボソリと呟く、唯一の女性部員犬飼。ちなみに唯一の三年生でもある。

「まあ、それはそう」

「メチャクチャ読みにくいのは間違いない」

 そう言って笑う雉谷と猿楽。

「当たり前だろ。あれより読みにくかったら別の国言葉だっつの」

 まあただ鬼束にはよく分からなかったが、それでもこうして部員たちからは一部好評を得ているわけだ。

 何かしらのポテンシャルを秘めているのかもしれない。 

(……俺も自分の作品進めねえとな)

 次に狙っている公募は近い。

 あくまでも目的は自分のデビューなのだ。

 モチベーションを高めるための相手を強くするのにかまけて間に合いませんでした、じゃ無能が過ぎる。

「……よし」

 鬼束は部費で買った最新のノートパソコンを開くと自分の作品の執筆を始める。

 今回は前回にも増して、タイトルからプロットまで人気作品や受賞作を分析して作った。

 理論上、受賞するための条件は揃っている。

「欠点は全て潰した。大賞は審査員の気分も入るから分からねえが、間違いなく受賞はいけるはずだ……」

 そう呟きながら鬼束はキーボードを叩き続けるのだった。



   □□



 そして鬼束と影山は同じ出版社の新人賞に作品を出した。

 一ヶ月たち二ヶ月たち、選考が進んでいく。

 鬼束は問題なく一次選考を通過。まあ、むしろあの内容で一次選考を落とす奴がいたら、そいつはただのバカである。

 だが驚いたのは、なんと影山の作品も一次選考を通過したことだった。

(……よく通過できたなおい)

 結局途中までしか読んでいないが、相変わらずメチャクチャな内容だったはずだ。

 普通に一次選考で落とされると思っていたのだが。

 ちなみに初の選考通過をした影山は、特に喜んだ様子もなく「ああ、通過したんだね。それはよかった」と言って、今読んでいるライトノベルに没頭していた。

 正直、その態度も腹が立つ。

 お前のあの作品内容で突破したのは奇跡なんだぞ。そこを自覚して持って喜べよ。

(まあいいさ。そんなに世の中甘くない)

 まぐれは二度連続では起きないものだ。



 そして二次選考……鬼束はこちらも通過。

(よし……まあだがここまでは当然。次は前回突破できなかった三次選考。今回は受賞できる内容で仕上げてきた、行けるぞ)

 そして影山は……。

「……」

「おい……現実は見えたか?」

 鬼束は影山の方に歩み寄って言う。

 影山は……二次選考で落選していた。

「お前が巨匠気取った結果がこれだ。惨めだろ? 次もその気分味わいたくなかったら、いい加減お遊びは卒業するんだな」

 今さっき落選を突きつけられた人間に対し、容赦無い言葉を浴びせる鬼束。

 だがこのバカはこれくらいやらないと分かるまい。

 これで少しは身の程を弁えて自分の言った通りに書くだろう。

 ……しかし。

 よく見れば影山の口元は笑っていた。

 二次選考落ちの評価シートを眺めながら……笑っているのだ。

「嬉しいね鬼束くん……」

「……なに?」

「ほらこれ」

 影山は評価シートに書かれた評価項目を指差して言う。

 今回公募に送った新人賞の評価シートには「キャラ」「ストーリー構成」「世界観」「文章」「オリジナリティ」五つの項目別で点数が付けられている。

 影山はほとんどの項目が5段階で1を付けられていた。

 しかし、影山が指差した「キャラ」の項目には5点がついている。

「これまでは、僕の伝えたい感動が審査員の人たちに全然伝わってなかった。でも今回はキャラに関してだけは少し伝わったんだよ!! これは凄い進歩だよ!!」

 興奮気味にそう言ってくる影山。

 お花畑もここまでくるとギャグだな、と鬼束は心底呆れる。

「感覚があるんだ」

 影山は遠くを見つめ右手を伸ばして言う。

「自分の中の理想とする形が掴めそうな感覚が。今回少しだけ手がかかった気がする」

 その手を握りしめて言う。

「ああ、早く次が書きたい。それをモノにした時……きっと執筆がもっと楽しくなるような気がする」

 そして鬼束の方を見ていう。

「鬼束くんのおかげだね。君のアドバイスのおかげで僕はどんどん上手くなってるよ」

「……雑魚が」

 鬼束は聞こえないような小さな声でそう言った。

 まあいい。所詮は影山なんぞ噛ませ犬でしかない。

 俺はさっさとデビューして、一生影山なんぞの手が届かないところに行ってやる。



   □□



 二次選考の発表から約一月半。

 その日は休日だった。時刻は昼頃、天気はやや曇り、学校にいる時だったら文芸部の部室で昼食をとっている頃だろう。

「……ふーっ」

 鬼束は自宅のパソコンの前で、一つ大きく息を吐いた。

 ちなみに鬼束の部屋は基本的には綺麗に整理整頓されているが、机の上には研究用に買った大量のライトノベルとアイディアのメモ書き。そして部屋の隅にはダンベルなどの筋トレグッズが置かれている。

 鬼束のことを知っている人間が見れば、非常に鬼束らしい部屋だろ言うことだろう。

 それはそれとして……。

 現在鬼束の目の前にあるパソコンの画面に映されているのは、『新人賞三次選考通過作品』と書かれたリンクの貼られた出版社のページだった。

 そう……今日は三次選考の結果発表日である。

 このリンクをクリックすれば通過した作品が表示される。

「大丈夫だ……あの内容なら落とされるわけがない」

 鬼束は一人そう呟く。

 前回の作品の欠点は徹底的に潰した。そして今売れてる作品の構成やキャラを分析し、徹底的に真似た。

 これで落ちるはずがない。

 三次選考なんて通過点だ。その上の最終選考も突破し受賞する、それ以外はありえない。

「……よし」

 指に力を入れ、マウスをクリックした。

 ホームページに現れるのは、箇条書きにされた選考通過作品。

「俺の作品……俺の作品……」

 心臓がバクバクするのを感じながら、マウスのホイールを回して下にスクロールしていく。

 三次選考ともなると作品の数は少ない。

 そしてすぐに一番下の作品まで表示され……。

(……バカな!! 無い!! 俺の作品が無い!!)

 もう一度確認する。

 ……無い。

 もう一度……何度も何度も確認するが……やはり鬼束の作品のタイトルはなかった。

「くっそ!!」

 ドン!! と机を叩く。

 落選。

 また三次選考落ち。

「……ありねえねえ。あの内容でなんで」

 鬼束はメールフォルダを開くと、そこには出版社からの評価シートが届いていた。

 その内容を見てさらに憤る。

「『編集者として、ここを推したいというところがありませんでした』……だと? ふざけんじゃねえぞ!! 編集者の癖にフィーリングでモノ語りやがって。売れるかどうかで考えろや。だからてめえのところ最近ヒット作出てねえんだよクソが!!」

 怒りに任せてもう一度、机を叩いたのだった。



   □□



「クソが……クソが……」

 翌日の昼休み。

 鬼束は部室で購買の菓子パンを大量に買い込んでやけ食いしていた。



「部長荒れてるなあ……」

「公募落ちたり、WEB連載のランキングが伸びきらなかったりした時は、毎回ああだからねえ」

「鬼束くん……」



 部員たちは触らぬ神に祟り無しとでも言わんばかりに、遠巻きにこちらを見ていた。

(ああくそ、せっかく普段節制と筋トレして筋肉質の体維持してるってのによお)

 だが、こういう時はどうしても止められない。

 むしろ下手に止めても長引くだけなので、こうなってしまうのは半ば諦めているところはある。

(クソ……うめえ、糖質と脂が沁みやがる……)

 普段から我慢している分、こんな時に食べる菓子パンがやたらと美味く感じるのも、明日からはこれを我慢しなければならないのかとイラついてくる。

 ちなみに、影山のやつは昼休みは文芸部の部室には来ないのでこの場にはいなかった。

 あの陰キャのことだ、今頃どこかの空き教室あたりで執筆でもしているんだろう。

(そういうところも、ムカつくんだよアイツは……)

 そこまで一日中気にして見たことはないが、影山のやつは落選したその日から何事もないかのようにラノベを読んで執筆をしていた。

 なのに自分は昨日から一日、全く執筆も読書もできていない。

 どうしても苛立ってしまってやる気になれないのである。

 あの綺麗事御花畑陰キャ野郎に創作技術で負ける気はさらさら無いが、ストイックさで負けているのは猛烈に癪だった。

「クソが……クソが……クソが……」

 そう呟きながら食べていると、さすがに山盛りに買ったパンも量が減ってきた。

 苛立ちも少しはマシになる。

 そして、最後の一つの袋を開けながら鬼束は考える。

(……しかし、どうしたもんか)

 今回の作品は、鬼束が分析を重ねて近年の読者の好みを徹底的に踏襲し、審査において減点される部分を潰した作品だった。

 理論上落ちるわけがないと確信していたのだ。

 もはや、審査員が上の選考に上げる作品のタイトルを間違ったのではないかと思いたいほどである。

(何が……何が足りなかった? どこで減点された?)

 色々と心当たりを思い返すが、特にこれといったものは思い当たらない。

 強いて言うなら、今回は三幕構成終盤の物語の仕掛けを少し雑にしてしまって、物語の起伏が少し弱くなってしまったところはある。

 そのせいで地味な感じに見えたのかもしれない。「編集者として推したいところがない」というあの抽象的な頭の悪い評価は、要はそういうことなのではないだろうか?

 それならば、次はハリウッド映画を改めて研究し直して、あっと言わせるプロットを組むことでその弱点を潰すことができる。

 そんな仮説を立てたが……。

(まあ……どうもしっくりこねえな)

 なんとなくだが……それは答えではない気がしてならない。

 分からない。

 まるで雲を掴むように、攻略の糸口がまだ見えてこない。

「……あの、鬼束くん」

「あ?」

「ひっ、ひい、ごめんなさい!!」

 不意に唯一の女性部員である犬飼が話しかけてきたので、思わず威嚇してしまった。

 いかんいかん。

 犬飼は一つ上の上級生だが、凄まじくビビリなのである。あまり怖がらせると部をやめてしまうかもしれない。人数が減ると部費が減るので非常に困る。

「ああ、すいません犬飼先輩……どうしたんですか?」

 鬼束はなるべく優しい表情と口調を心がけて、犬飼に話しかける。

「えっと……その……」

 何かを言いたそうに、俯いてゴニョゴニョとする犬飼。

 相変わらずなんにおいても卑屈な女だ……と先輩に対してながら思う。

 少なくともスタイルはいいのだから、背筋を伸ばして顔を上げてもっと堂々としていれば見栄えするだろうに。

(まあ、こういう時に話したいことを話せるようにするのが部長の務めってやつだな)

 ふんぞりかえっているだけのトップからは人は離れていく。

 どんな作品でもそうだし、中国の歴史なんか見ればそういうことの連続である。

「なんですか? どうぞ遠慮せずに話してください」

「えっと、その、実は私も最近知ったんだけど……」

 しばらくまた少しモゴモゴと「余計なこと言って迷惑かな……」などと一人で呟いた後に、ようやく思い切ったのか言う。

「実は、親戚にプロのラノベ作家がいるみたいで……一度ここに来て話をしてもらえるか聴いてみようと思うんだけど」

「!?」

 俺は目を見開いた。

「それは本当か!!」

「え、あ、はい……」

「どんなやつだ? どれくらい売れてる作家なんだ?」

 敬語も忘れて鬼束は食い気味で聞く。

 仮にプロだとしても、全く売れてない一、二冊出しただけの人間なら時間の無駄だから願い下げだ。

 しかし、それなりに長い期間実績を上げている作家なら……。

「え、ええと……アニメ化はしてるって言ってた」

「いいじゃねえか」

 アニメ化……それはライトノベル作家としては一つの大きな実績だ。

 基本的に原作が他の作品と比べて頭抜けて売れたからこそアニメ化するのだ。

 そういう結果を出している人間の話、是非とも聞きたい。

「……じゃ、じゃあ、聞いてみるね」

「ああ、頼む……じゃなくてお願いします。いやあ犬飼さんがいてくれてよかったですよ」

「う、うん……(やった)」

 鬼束がそう言うと、犬飼は何やら俯いてガッツポーズをとっていたのだった。

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