第23話 春休みと親友からの招待
気がつけば三月も下旬。
祐馬たち在校生は体育館に集まって、修了式を行っていた。
体育館のステージに立った校長の無駄に長いありがたいお話や生活指導の先生の春休みの過ごし方の注意点の説明など話している。
欠伸を噛み殺しながら聞いている生徒や立ちながら意識を手放しそうな生徒もちらほら見受けられながらも、約一時間ほどの終了式を終えた。
「やっっっっと終わったー」
体育館を去り廊下を歩いていたところで、隣にいた蓮司が両手を天に伸ばしたあと「あー。ねみー」と大きな欠伸をしては目元に溜まった涙を拭った。
「蓮司、終了式半分寝てたな」
「しょうがなくね?眠いんだから」
祐馬の右斜め前に立っていた蓮司が、時折り頭がカクンと落ちてはハッとして、目を擦ったり欠伸する口を手で覆っていた。
「祐馬は真面目に聞いてたんか?」
「要所要所は聞いてたけど内容はあまり覚えてない」
「あれはもはや寝てくださいって言ってるようなものだから。一定のトーンで話す興味ない話は子守唄と一緒だから」
寝てしまうのは仕方ないと言わんばかりの口ぶりの蓮司だが、言いたい気持ちはなんとなく分かった。祐馬は蓮司のように寝そうになることはなかったが、長々と話を聞けるほど集中力はなく、半分聞き流すくらいでぼんやり聞いていたし、何度も欠伸をしそうになっていた。
「それにしても明日から春休みかー。一年あっという間だったなー」
「そうだな。四月からは一応先輩だもんな」
四月からは二年生になる祐馬だが、部活にも委員会にも所属しているわけでもないので、他学年と接する機会はない。あるとすれば学校行事くらいだが、基本自分から話しかける性格ではないので、祐馬からすれば後輩がいようといまいと正直あまり関係がないのだ。
教室に入り担任が戻ってくるまでの間、少し時間があったのでクラスメイトたちは談笑を始めている。
祐馬が席に着くと「そういや……」と蓮司が呟き、椅子ごとくるりと回転させた。
「祐馬。春休み何かご予定は?」
「特に何も」
祐馬にとって長期休暇は家で過ごす時間が増えて時間の潰し方に迷う期間であり、高校生とは思えない寂しい時間でもある。
当の本人は全くそんな雰囲気を見せるわけでもなく淡々と答えていて、清々しいくらいの即答ありがとうと、蓮司はカラカラと笑い声を上げる。
「んじゃさ。ライブ見に来てくれよ」
「ライブ?」
「そっ。ライブ。実は春休みに近くにあるライブハウスに出演することになったんだよ。これまでにも何回か出演しててさ。他のところに比べたらまだまだ少ないけど、最近ちょっとずつファンの人も増えてきてんだよな」
「おぉ。すげぇじゃん」
詳しいことは分からないが、ライブハウスに出演するには観客が聴けるくらいの最低限の実力がなければ出演できないと聞いたことがある。
以前、蓮司に弾き語り(半強制的)を聞かされたことがあるのだが、ギターボーカルを担当しているだけあって歌もギターもかなりの腕前だと素人ながらそう思った。時々指に絆創膏を巻いて学校に登校してきたときもあったので、学校でも家でも欠かさず練習していることは、言わなくても良く伝わっている。
とは言え、蓮司の所属している軽音部の演奏を聞いたことは一度もないので全体のレベルまでは知らないのだが、少なくともライブハウスに出演できるくらいの実力はあると考えてもいいだろう。
何より学外でのライブに出演するためにわざわざライブハウスにまで連絡を取ったり、そのための準備を行なってきたその行動力は素直に尊敬の念を向けた。
「聖奈もライブによく足を運んでくれてるんだ」
「そりゃ彼氏のギターボーカル姿は生で見たいだろうからな。蓮司が呼んでんの?」
「いや。バンド仲間。正直あまり見られたくないんだよな」
「え、なんで?」
「緊張するから。ミスするところ見られたくないし」
そうならないように毎日練習してんだけど、と蓮司は付け足す。彼女の前ではかっこいい自分で居続けたいという思いがあるからこその言葉だろう。
ミスは誰にでもあることだし、仮にしたとしてもそんなことで聖奈が蓮司のことを嫌いになるなんてことはあり得ないと、この一年二人を近くで見てきた祐馬が保証して言える。
「ライブっていつ?」
「春休み始まってから最初の土曜の夜」
「分かった。観に行くよ。楽しみにしてる」
「おっ!やった!これでまた俺たちのファンが一人増えたぜ」
「ファンになるかどうかは演奏を聴かせてもらってから決めることにするわ」
特に大した用事もない祐馬が断る理由もない。
せっかくお誘いをいただいたのだし、ライブハウスがどんな雰囲気なのか興味もあったので、行くことに決めた。
「今のうちに俺たちが売れる前に書いたサインやろうか?近い将来売れたときに高い値で売れるかもよ?」
「それはまだいらん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます