第12話 高嶺の花と不良?
次に麻里花と出会ったのは放課後のこと。
小腹を空かせた祐馬は、帰宅途中近くにあるコンビニに立ち寄って、家に帰ろうと店内を出たとき、帰り道を歩いていた麻里花とばったりと目が合った。
祐馬の手を塞いでいる揚げ物を見るや少し訝しんだ目で見られたので、祐馬も思わず顔を顰めた。
「何か言いたそうな目だな」
「こんな時間に間食なんて食べたら夕飯食べられなくなってしまいますよ」
「大丈夫だよ。男子校生の食欲舐めんな。てか成長期真っ盛りなんだから腹減るんだよ」
「その食欲を朝ごはんにも向けるべきなのでは?成長期なら尚更」
耳の痛い話に聴覚を遮断したかったのだが、手が塞がっていたので「へいへい」と軽く受け流すように返事をして、揚げたてのコロッケを一口食べる。サクッと仕上がった食感に牛肉とじゃがいもの美味しさが口の中に広がり、祐馬の頬が若干緩んだ。
その姿をジッと見ていた麻里花は小さな声で呟く。
「買い食いをするのは不良ですよ」
「……は?」
思いもよらない言葉に祐馬から素っ頓狂な声が漏れた。
「えっと……不良?俺が?」
「はい。立派な不良です」
一瞬耳を疑ったが、麻里花の口からは確かにそう言ったように聞こえたので、もう一度繰り返すがどうやら聞き間違いではなかったようで、祐馬は小さく吹き出す。それが癪に障ったのか、麻里花から一層の冷たい視線が注がれる。
「何がおかしいのですか」
「いやいや。だとしたらこの世にどれだけの不良がいんだよ」
複数人でコンビニに集まって大声で騒いだりゴミをその場に捨てるのは、学校の品位を下げるし近所の苦情だって入るので、やってはいけないことだって高校生はもちろんのこと、小中学生だって少し考えれば分かる。
だが誰にも迷惑をかけなければ、学校帰りにコンビニに立ち寄って買い物をするくらいは許容範囲だろう。
学校帰りの買い食いは学生たちの楽しみの一つと言っても過言ではない。祐馬だって毎日とはいかないまでも気が向いたときにふらりと立ち寄っている。その楽しみだけは侵略されたくない領域だ。そもそもバレなければいいとすら思っている。
「ちなみに雨宮は買い食い……」
「やったことありません」
「ですよねー」
真面目で優等生な麻里花のことだ。買い食いという行為に抵抗があるのかもしれない。
それに家柄がそれを許さないのだろう。雨宮家のご令嬢が何らかのトラブルに巻き込まれようものならそれこそ大問題に発展しかねない。
「それにしてもまた随分とお買い物されましたね」
麻里花の目は祐馬の手首にぶら下がっているコンビニ袋へと向けられる。中はお菓子とペットボトルで膨らんでいた。
「これ?休日に食べる用のお菓子。と、朝食のストック」
祐馬の休日の過ごし方は、バイトがない日は大抵家で勉強かゲームの二択。これは一人で宴をやっているときにいただく貴重な食料だ。
そして祐馬には欠かすことのできないカロリーバー数箱もコンビニ袋の中に姿を隠している。
「毎日食べてて飽きないんですか?」
「飽きないな。好きだから」
「そうですか」
「あぁそうだ。あとこれ。おにぎりありがとうな」
祐馬は周囲を軽く確認したあと、鞄にしまっていた巾着袋を取り出して麻里花に渡した。
同じ学校の人にこの現場を見られるのは麻里花も嫌だろうと思ったからだ。
「はい。で、どうでした?」
「美味かったっす。でもあの梅干しはめっちゃ酸っぱかった」
「あれ。従来の梅干しをはちみつ漬けしてかなり甘味が増しているものなんですけど。もしかして梅干しはあまり得意ではないのですか?」
「特別食えないってわけでもないけど、あまり好き好んでは食べないな。具で言えばシャケとかツナマヨとかおかかとかの方が好きかも」
「なるほど……」
麻里花は小さく頷きながら、手帳とペンを取り出してメモを書き出した。その光景を祐馬を目を丸くしながら見つめていて、
「なんでメモしてんの?」
「好き嫌いは把握しておかなきゃでしょう」
「把握する必要あります?」
「だってあなたが食べるものを作るのですから」
は?と祐馬は首を傾げる。
理解が追いついていない祐馬を取り残して、麻里花は続けて口を開く。
「その堕落しきった生活リズムは早いうちに治しておかないと将来痛い目に遭いますよ。これはその最初の一歩目。まずはしっかりした朝ごはんを食べることからです」
「えっ。これから毎日作るの?」
「毎日は作れませんよ。平日のみの週二、三日程度です。わたしにだってやることがあるので。ただ朝は栄養機能食品ではなくてちゃんとご飯を食べて欲しいと思っているだけです」
麻里花の見立てだと、その生活を送っていけばそのうち祐馬が自然と朝食を食べるようになると踏んでいるらしい。
「でも一条くんが迷惑だから辞めろと言うのであれば辞めますので」
「別にそんなことは思っていない」
もちろんだがカロリーバーより米の方が腹持ちがいい。実際今日はいつもよりも腹が空くのが遅かったし、あと普通におにぎりが美味かった。少なくとも迷惑だなんてことは微塵も思わなかった。
それならいいですけど、と麻里花は手帳とペンを片付ける。
「それではお先に失礼します」
「おう。気をつけてな」
麻里花は颯爽と帰り道を歩き出す。
祐馬もコロッケだけ食べてからこの場を去ろうと思い、二口目を頬張る。
しばらく放置していたせいで、出来立てのコロッケはすっかり冷めていた。
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