第四章『決着オーバーレイ』
そしてサウィン先遣隊基地の現在。作戦会議の終了から短針二回り。
即ち二時間の足止めをしたスカーレットは吐血しており、若干へこんだコンテナの壁に背を預けて倒れていた。
浅い積雪を踏む音が近づいて来る。この戦闘の勝者だろう。
レオンハルトは徐に、一閃を浴びせたスカーレットの腹部に触れる。
「良かった。千切れてはいなさそうだ」
「レディの、体を、勝手に弄るのは……失礼じゃ、ないかな」
血を吐くスカーレットに、レオンハルトは神妙に眉を顰め、
「レディ?……あぁ、そうだな。女性には優しくしないとな」
腹の内出血を確かめてから、無傷の男は立ち上がった。
「お前さん、事故ったモービルに相乗りしてただろう?近場に倒れてなかったから、もしやと思ったが。あそこから退避出来たんなら、これも大丈夫だと思ったんだ」
苦し気に深く呼吸するスカーレットは、視線で天を仰ぐ。
「公務員の、スーツ、なんだから……この程度の、衝撃……吸収して、くれなきゃ」
「氷楔連盟の公務員って逞しいんだな」
レオンハルトはつい遠くなった視線を、スカーレットに戻す。
「お前さんの狙いは時間稼ぎか?派手な手榴弾で遠方にも分かる合図を送り、その間にトラップセラーが破壊工作を仕掛ける算段でも立ててたんだろうが」
読まれている。二時間もあれば、流石に狙いに気付くか。しかしスカーレットは、口の端をにやりと上げた。
「確かにそれが成功すれば、最善の結果になるだろう。貴方たちに増援が居なければ、ね」
細められていたレオンハルトの目が見開く。
「当然そう考えるさ。まさか、これだけの戦力で、連盟と一戦構える訳じゃないだろう?」
グランギニョールもレオンハルトも、第七空挺舞台の規模から見れば脅威だが、この基地に滞在してる部隊は、一国の戦力と渡り合うには数が少な過ぎる。
「貴方たちがそうやって、基地内へ意識を向けてくれれば、基地外への脱出も少しは容易になる」
「まさか……」
「だから貴方の推測に、訂正すべき点が一つ。合図を送ったのは私ではなく、彼女の方さ」
目の前の女でないならば、一体誰が?その合図で敵が全員動き出したなら、スカーレットが自分たちの前に姿を現す直前、何があった?
「っ⁉︎そういうことか!」
レオンハルトは自陣の魔女が飛び去って行った方角へ首を曲げ、腕輪型の通信機のスイッチを乱暴に押した。
◇◆◇◆
東方へ二十キロ、第七空挺舞台にとっては十キロ西方の森林上空。
雲の晴れ間から差し込む月光を反射して、仄かに明るくなった積雪に照らされる。
周囲から細く白い煙が数点立ち上る中、ヴィットーリアは木の天辺に腰掛けていた。
「つうかさぁ、まだやる訳?いい加減飽きてきたんだけど」
正確には自身にかけた魔法で、不安定な木の先に座る体を支えているのだが、魔女は特に消耗した様子もなく端末を弄っている。
彼女が見下す先にはスノーラビットの本体が倒れていた。周りの棺たちには、引っこ抜かれた木々が、まるで標本のように刺さっている。
ヴィットーリアが声をかけたのは、点々と散らばって倒れている第七の整備班だった。医療班からスノーラビットの補助を引き継ぎ、基地に戻れない
ふいに棺の一つが稼働音と振動で雪を舞い上げるが、ヴィットーリアはそちらを見向きもせずに、新たな大木で押さえ付ける。
「だぁかぁらぁ、無駄だっつってんのが……何だ?てめぇ」
ヴィットーリアは立ち上がり、地べたに這いつくばる隊員の一人の元へ舞い降りる。
地肌を一瞬触っただけで、細身の魔女は己と一緒に大柄な成人男性を宙に持ち上げていく。
「その目。まだ何も諦めてない、まだ何か期待している、しめしめ今に吠え面かかせてやんぞってクソうぜぇ目ん玉しやがって」
外側から圧力をかけられ、軋む体に隊員は野太い悲鳴を上げる。
「てめぇらの希望はこのザマだ!アタシが全部摘み取ってんだから、動こうったってロクに集中出来ないのがその証拠だろ」
先程押さえ付けるのに使った大木を、何度も何度も、執拗に本機へ打ち付けていく。
辺りに希望を砕かんとする地鳴りが鳴り響き続ける。
「前哨戦のクソ
隊員の目が驚愕と絶望に染まる。体全体が段々と歪んでいく。
魔女が三日月型に口角を上げ、魔法の圧縮により血肉の雨を振らせる——直前。
ヴィットーリアの通信機がコールを鳴らす。お楽しみを邪魔された魔女は、相手の名前に顔を顰めながら通話に出た。
『グランギニョール!今すぐそこから退避しろ‼︎その機体に魔女は乗っていない‼︎』
「……は?」
文句の一つでも言ってやろうとしたのに。レオンハルトの切羽詰まった声量をぶつけられ、開いた口からは飾り気もない疑問が溢れる。
咄嗟に、魔女が乗っている筈のスノーラビット本機へ振り向く……その時には既に、重力操作で加速した棺が目と鼻の先まで迫っていた。
ゴッと鈍い音と振動の反響が上がり、棺桶を顔面にぶつけられた魔女はぶっ飛ばされる。
着地点で木々が薙ぎ倒され、数十メートル転がった跡に雪どころか土煙が舞う。
黒と花色の髪をたなびかせるユスティーニの帰還だった。
魔法が途切れ落下した男性隊員を保護した仲間たちが、次々に空を見上げ歓声を上げる。
「間に合った、みたいかな?」
全速力で帰って来たユスティーニは、荒くなった息を整えていく。
本機の隣へ降りたユスティーニの元へ、整備班の隊員たちが集まる。
飲料水を手渡す者、開いた傷をガーゼで塞ぐ者、足の怪我を診て冷却剤を準備する者。
宛らピットインしたレーシングカーへスタッフが駆け寄るように、次の飛翔に向けて準備が始まる。
「インターン生の救出と不朽体の回収は完了、今後の対策も司令部と連絡し合ったから」
水の入ったボトルを口に運ぶユスティーニへ、女性隊員がタブレットを見せた。
「第一、第二機関砲、タービンの損傷、残弾七割及び五割。第一反射砲、砲身の風穴が重度に達しており正常起動不能。第二反射砲、炉心伝達回路三割破損。第一冷熱砲、異常無し。第二冷熱砲、砲口の歪みを確認、想定屈折角十八度。平均修復率四八.二%です。ご参考に」
「ありがと。貴方たちは整備基地で車両班のサポートに回って」
ボトルを隊員に返し、冷却スプレーが当たりやすいように足の角度を緩く捻る。
「了解!さっきのスカッとしたぜ。ありがとなー」
ユスティーニの首にタオルをかけてた隊員が、興奮気味に握り拳を振っている。
汗を手早く拭いてから、持ち上がりかけていた口角を引き締めて、魔女を吹き飛ばした方角を向く。
「決着、つけないとね」
◇◆◇◆
サウィン基地から五キロ地点。第七が展開した基地へ向け、軍用車両が唸りを上げていた。
開いたルーフの隙間から身を乗り出したレオンハルトは通信機に呼びかけている。
「グランギニョール、応答しろ!無事なのか⁉︎」
ヴィットーリアが飛んで行った方角から、衝撃を確認していた為、固唾を呑む。
凹凸の酷い道なき道を走行する揺れだけが暫く続いた後、ノイズを吐いていた通信機が再び繋がる。
『ブッッッッ殺す‼︎‼︎』
地を這うような怨嗟のたっぷり詰まった呪詛が飛び出して来た。
『足を潰した後全身剥製にして鹿の隣に並べてやる‼︎‼︎』
車両の後方、基地の方から鉄筋の崩れる音が響く。
メンテナンスの終了したグランギニョールを無理やり飛翔させたのだろう。レオンハルトたちの乗る車両を追い抜き、東の空へ消えていった。
「……ご立腹でしたね」
ドライバーが通信機に声を拾われないように、こっそりと状況を窺ってくる。
「早いこと手を打たないと、被害が止められなくなりそうだ」
レオンハルトは通信先を、ヴィットーリアから強襲中隊の隊長へと切り替えた。
『すまない。魔女が
「図られたのは俺もだよ。やっちまったものはリカバリーするしかない」
レオンハルトの長い戦歴の中でも、魔女狩り同士の戦いは例が少ない。
ましてや、裏切った
「お嬢は怒り浸透だ。自分の手でとどめを刺さないと納得しないだろう。音響兵器で一斉に仕留めさせる」
絨毯爆撃を得意とするグランギニョールは弾の消費も激しい。ブリヤートを内包する連邦との決戦前に、これ以上の消耗は避けたいところもあった。
『それは相手方に対策されているだろ。効果が薄かったと報告を受けているぞ』
相手は元々グランギニョールが所属していた部隊だ。恐らくは相殺音波、ないしは
「だから、その対策を行なっている拠点を直接叩いて無力化する。スピーカーの巻き添えを喰らったら元も子もないから、あくまで少人数でな」
レオンハルトはグランギニョールが飛んで行った遠方の夜空を睨む。
目指すは短期戦。速攻で、ウラン・ウデまでの道筋を開かなければならない理由がある。
『そうか、つまりお前が』
〈最強〉が、その道中に立ち塞がる第七空挺舞台を、障害として認めた。
「あぁ、俺が出る」
◇◆◇◆
『ねぇ重力操作の超高速飛行めちゃくちゃ凄かったんだけど‼︎あれだけスピード出していて静電気殆ど流れないんだ!空気膜なのが一番の理由だろうけどぶつかった塵の排斥が早いんだよ後自分から取った湖の水分も湿度管理に回されてると思うんだけど光の屈折どう対処してんの視界良好でびっくりだよ次は冷静に観察したいからもっかい乗せてくれないかな?あぁぁぁ‼︎
「お前まさか本人にもそのテンションで接してないだろうな?」
サウィン基地から離れた林にて、脱出を成功させたオリヴィエたち斥候班は、仮の防衛ラインを築いていた。
通信先は東の端にある包帯所にて、待機していた医師に保護されたミシェルだ。
恐らく望遠鏡か何かで、十キロ先で起きている魔女同士の再戦を観測しているのだろう。
中間である十五キロ地点では、一時撤退していたサウィンの強襲部隊と、それを追っていた臨時偵察班が睨み合っている。
その一部が迂回して、こちらに合流出来るまでもう少し時間が掛かるか。
オリヴィエたちの次なる役目は、この分隊と合流して強襲部隊を挟み撃ちに牽制すること。
そして、敵基地からの増援を食い止めることだ。
武器を全ては取り戻せなかった。奪えた資材もごく僅か。
それでも、せめて相手の最大戦力、その一角だけでも切り崩せるよう作戦を張り巡らせる。
『い、いやぁ、緊張してたのかな。体がっちがちの頭くらくらで上手くお話し出来なかったというか』
「そりゃ緊張じゃなくて低体温症だろ。頭のネジ世界最深の湖に沈めてきたのか?」
『そ、そうかもしれない』
目頭を押さえて呆れの溜め息を吐いたオリヴィエは、なるべく優しい声音に努めた。
「遠足前日のガキじゃねぇんだ。後は本業に任せて休んでろ」
『どちらかというとテスト返却前のドキドキに近——』
通話を一方的に切る。
まるで草木がざわつくように、準備に奔走していた隊員たちが異変を伝播していく。
西より、奴が来る。
オリヴィエは前方に感じ取った気配へ向けて、無理やりにでも挑戦的な笑みを浮かべた。
「そら、おいでなすったぜ」
国境線の森林は密度にムラがある。最短を目指して直進しようとすれば、飄々と聳え立つ木々が邪魔をして、車両は入れない。
遠回りになるが迂回をするか、スノーモービル等幅を取らない雪上車を使うか、もしくは、
『そっちへ向けて前進中の歩兵発見!数は……一人?兵装は話にあった大剣型杭打ち機を確認したぜー』
無人ドローンを先行させていた臨時偵察班、オリヴィエの同僚であるコーンロウから連絡が来る。
ミシェルとの通話の直前、スカーレットからの通信がオリヴィエの元へ届いていた。
何で俺の連絡先知ってんの?というオリヴィエの至極真っ当な疑問を受け流し、息も絶え絶えに伝えて来たのだ。『根詰まりを掃除したとしてもあの杭打ち機が使えるのは数回、だが使わない方が厄介だから、壊れた後は短期戦を推奨する』と。
言われなくても、あの怪物と長期戦など考えただけでゾッとするのだが……
レオンハルトは杭打ち機を背負い、道なき林の密集地帯を進んでいた。
陸上の短距離走選手が目を見張る速度を維持しながら、オリヴィエたちが仮設した防衛ラインに近付いていく。
すると木々の隙間から顔を覗かせたのは、二対の無人ドローンだ。備え付けてあった小型の銃口の照準をレオンハルトに合わせる。飛行能力を落とさないよう弾数自体は少ないが、遠距離攻撃に出れない巨漢の迎撃に遣わされた。
連続する軽快な狙撃音に、レオンハルトは背中の杭打ち機を手に取りこれを防ぐ。
ふいに、東方を走る車両の中からドローンを操縦していた臨時偵察班の同僚は、暗視カメラに映っていたレオンハルトの姿を見失う。
二メートルの巨漢は、木の幹を蹴り上げドローンの高度に身を躍らせると、一台を野球のボールのように、二台目へ打ち付けて破壊した。これで接敵まで残り四キロ。
レオンハルトは走りながら大剣を振り上げ積雪を巻き上げる。はらはらと舞う細氷の、不自然な動きを読み回避行動に移る。直後、男の真上を銃弾が通り過ぎた。三キロ地点に並ぶ斥候班からのライフル弾を、射出に伴う風の動きを細氷を通し視認して躱していく。
レオンハルトの視界が完全に斥候班を捕らえた——刹那、一発の弾がレオンハルトの斜め後方から放たれる。隠れ潜んでいたスナイパーライフルによる狙撃だ。
斥候班がこの短距離で退避しなかったのは、レオンハルトの注意を自分たちに向けさせ、この不意打ちを成功させる為だった。
かくして視界の外、意識の外からの、回避不能防御不能の一撃がレオンハルトの頭に迫り、
——見た。
レオンハルトは狙撃の銃弾が飛んで来る方角へ、確かに首を曲げた。
そのままぐるんと、巨体がぶれた。
……それだけ。最強は未だ健在である。認知した狙撃手の方角へ、杭打ち機の杭が射出される。狙撃手はライフルを抱えて弾かれたように退避する。背後で自分がうつ伏せになっていた場所が景気良く吹き飛ぶ。
「五百後退!第二陣のインターバルを——」
斥候班の班長が全てを言い終える前に、眼前に地響きが到着する。部下への指示出しに後ろを向いていた班長は、自分に影を落とす相手へ振り返る。
レオンハルトは左手を差し出す。班長は警鐘で一杯になった頭では意味も分からないまま、流れに逆らえず、震える右手を差し出した。
ぽとりと、七ミリ弾が掌に返される。
この男は、直感で狙撃に気付き、それが回避も防御も不可能と判断し、受け止めたのだ。
左手で弾丸を掴み、握力でその勢いを殺す形で。
班長から乾いた笑いが溢れた。部下たちも萎縮して動けずにいる。
一閃。なす術なく彼らは宙へ薙ぎ払われ、ばたばたと降り注いでいく。
スペックを把握し、弱点を洗い出し、標的を個人に絞り倒す為の準備をした。だがそれも、強運と第六感を味方に付けられては瓦解してしまう。
脅威の反射神経と瞬発力、怪力無双、無限と錯覚するスタミナと耐久性能。そこに直感まで付随した、完成された武人だ。
それが目視できる距離まで接近してきたところで、オリヴィエたちの後ろにブレーキ音が鳴る。臨時偵察班と医療班、兵装を詰んだ装甲人員輸送車だ。オリヴィエは躊躇わなかった。
「よしきた一発お見舞いしろ!」
「えぇええ⁉︎対戦車ミサイルですよ?費用対効果知ってます⁉︎」
運転席のドアを開けて顔を見せたのは、いつぞやポイント
「いいから!あいつらに爆風の被害が出ない距離まで引きつけてから吹き飛ばせ!」
オリヴィエの切羽詰まった催促に押された女性隊員は、車両に備え付けられた砲身を操作していく。木々の隙間から狙いを定め、着弾の時間を計算し、スコープに男の顔が映った瞬間、
ノズルが火を吹く。受け止めようものなら肉体が微塵となる砲弾が敵を捕ら——
——レオンハルトは杭打ち機で砲弾を薙ぎ払う。
瞬きの後、男の真横で爆炎が弾けた。
着弾の衝撃で爆発するまでの刹那の間で、ミサイルを殺傷圏外まで打ち飛ばしたのだ。
「……あ、あー、わ、分かったー。きっと彼、性転換手術を受けた魔女なんですよー。だから見た目が男性でも、魔法が、魔法が、使えるんじゃなきゃ、説明が、付かない、です、よ」
恐怖の原因は相手を知らないことからくるという。それを払拭しようと女性隊員が震える声で閃くが、
爆風を浴びながらも、威風堂々とレオンハルト・フリューリングは防衛ラインに辿り着く。
「てめぇ、小隊規模の妨害を散歩コースにするんじゃねぇよ」
迎え入れるオリヴィエたちの武器は、捕まる前の装備と比べると心許ない。
歩兵用の装備を持つ者が数人、残りは無人偵察機等の機材回収に勤しんでいる。
「サウィンが侵攻する理由は分かった。トラップセラーは
レオンハルトの足が、漸く止まる。
「お前たちが攻め入る正当性は、もうこっちで解決したんだ。今退けば、サウィンは魔女を私欲に使う国へ義憤の出兵をした、で終わるんだ。お互いアイツらには迷惑被られたなって共通の土産話持って、解散には出来ねぇのか?」
オリヴィエだけが、レオンハルトを注視し続けた。今出来ることは、背後の全員にとっての目になることだった。
脱出してきた隊員も合流した輸送車の偵察班も、作業する手を止めずに相手の答えを待っている。
「確かに、戦わずに済むならそれが一番良いだろうな」
トラップセラーが技術情報の内容を知っても戦争が起きないのは、軍部との癒着が薄く、総司令が徹底した平和主義者だからだ。
ならば、軍部と密接に繋がっている機関であれば、どうなる?
トップが戦いを望む者であれば、どうなる?
「だがそいつは元帥の——皇帝陛下の考えを改めさせるには、ちょいと弱いな」
もとから緊迫していたオリヴィエたちに、更なる緊張が走る。レオンハルトは大剣の矛先を此方に向け、
「悪いな。疑わしきは罰しろ、
その宣戦布告にオリヴィエは舌打ちして返す。
「そうかよ。つまりてめぇらぶっ飛ばして、皇帝の出鼻を挫いてやるしかないってことかよ」
緊急時の為に待機していた隊員たちが、レオンハルトに倒された仲間を引きずって合流したところで、オリヴィエはアサルトライフルを構え直す。
説得も失敗に終わった今、残された道は一つだけ。
「行け。殿は俺が努める」
レオンハルトも一人徒歩で遣わされた訳ではない筈。迂回ルートを走っているであろう敵の存在を考慮し、他の隊員はそちらの対処に当たるべきと考えた。
「そんな一人じゃ無茶ですよ!」
「早くしろ!対戦車ミサイルをぶっ飛ばす威力の杭打ち機だぞ⁉︎お前が乗ってる唯一の移動手段だって潰されるかもしれねぇだろ!」
女性隊員は涙目で輸送車後方のドアをスライドさせる。機材を回収し切った仲間たちが次々と車内へ転がり込んでいく。
「増援呼ぶからな!」「死ぬんじゃないぞ」「このノブレスオブリージュクソ野郎が!」
好き勝手に激励を飛ばす仲間が車体を揺らす。女性隊員の無理くりなハンドル捌きで方向転換をして、オリヴィエの元から発車して行った。
「……ったく、何でこの流れで俺が罵倒されなきゃなんねぇんだよ」
それを見送りながらぶつぶつと愚痴るオリヴィエと、どこか要領を得てないレオンハルトだけが、この場に取り残された。
「俺が単騎で来たのはそっちの戦力を分断する為だが。まさか本当に、
傲慢とも取られる一驚だが、ここまで見せつけられた戦績を考えれば納得せざるを得ない。
だから一人が残り足止めをする。スカーレットは二時間を成し遂げたのだ。それを頼んだ自分が出来ないなど、泣き言は許されない。
「護衛の七人は俺がやった。お前らの事情も知らない内に……死亡確認はしてねぇが、諜報員も見殺しにしている。俺に文句の一つでも言いたいんじゃねぇのか?」
「そいつは俺からお前さんへの用向きで、お前さんがここに残る理由にはならないだろ」
傲慢にほ傲慢をぶつけるように、足の震えを押し潰すように、畏怖を飲み込んで、一介の隊員は最強の壁に喧嘩を売る。
「そりゃ決まってる。このオリヴィエ様があの中で一番強くて、一番足手纏いだからだよ!」
脇腹でえげつなく変色した痣の痛みを噛み殺し、オリヴィエはライフルの引き金を引いた。
◇◆◇◆
第七空挺舞台基地に在中する空挺内部。テントを破壊された通信科は司令部と拠点を合同していた。合計十三台のドローンで撮影されている戦場各地の映像を壁一面のモニターが映し出し、室内を照らす中。計器とパソコンを操作するオペレーターたちの背後で、通信長の大尉は指揮官との連絡を取り行っていた。
「不朽体はこちらで回収、救出したインターン生は包帯所にて保護しました」
『窃盗団は全て白状したよ。投資家を騙る白人種に魔女の
元々はアレクサンドリアの一件で起こしたミスのカバーだ。責任者である指揮官はその処理を終わらせた。言外に
『その上で、帝国の動きに変わりは無いんだな?』
「はい。サウィンの侵攻は続いています。更なる増援の存在も報告されていますが、そちらの詳細な戦力は未だ把握出来ていません」
連邦の軍事力と渡り合うつもりなら、それ相応の戦力が後方から迫ってきている。
グランギニョールを率いるこの第一陣、先遣隊を無力化し、帝国側の指揮官に戦略的撤退を判断させる。現在トラップセラーが打てる手はそれだけだ。
『海外派遣統括局からの助太刀は現在未明だ。どの空挺舞台も間に合う距離の任務に当たっていない。戦況は?お前たちだけで押し戻せるか?』
希望的観測を求めるというより、現在どれだけ押されているかの状況確認だった。
現場指揮を副官に任せている彼女も歯痒い思いなのだろう。
「現状、対結界戦車八台は
『こちらは救援の交渉を続けるが、それが間に合わなかった場合は、か』
「えぇ。スノーラビットによる敵最大戦力グランギニョールの撃破。そこに全てが掛かっています」
目指すは短期決戦。第五次世界大戦が勃発するかの分かれ目に、第七と先遣隊、最後の戦闘が始まる。
ユスティーニはスノーラビット本機の外郭を足場に、再搭乗を試みていた。
体勢を整える時間稼ぎに、ヴィットーリアを弾き飛ばした地点へ二基の棺を追撃させる。
ヴィットーリアは蛇のような曲がりくねった回避行動を見せ、猫を思わせるしなやかさで上空へ躍り出た。
遥か後方の星空から一つの黒い影、グランギニョールが駆けつける。
各々が
『精々間抜けな死に顔を見せろよ
『あなたが
互いの放った砲弾が中心でぶつかり合い、金属の衝突音と衝撃波を生み出した。
グランギニョールに備わる無数の砲身が伸び、まるで竜種の翼のように展開されていく。
『——
操縦士本人の音声を認識し、怒りの咆哮が解放される。
迫り来る砲弾の津波に、スノーラビットは棺の
機動性を低下させた変わりに、角度を捻り表面で弾を滑らせて捌いていく。
星空を映し取ったと錯覚する程の火花と爆炎の中でも、雪の兎は冷静に防御に専念する。
角のように伸びていた三門の曲射砲から、五つの弾道が連続で打ち上げられた。
白煙で放物線を描く砲弾は鎌首をもたげ、棺の盾を通り越して本機の頭上に落ちてくる。
スノーラビット本機はそれを紙一重で避けながら、グランギニョールへ接近していく。
背後で落下した曲射弾道が白銀の森を吹き飛ばす。
スノーラビットは残ったロケットを劇場へぶち撒ける。グランギニョールら
整備地に展開された対結界戦車からの支援砲撃。鋭い弾頭の方が先に着弾する速度だ。
それにより結界を破壊して後から追いつくロケットで攻撃するつもりか……ヴィットーリアはそう推測し、後退しつつ砲口から火を吹かせる。
『しゃらくせーんだよ!』
発射された弾は徹甲弾の一つに当たると、その場で豪炎と炸薬を撒き散らし、続く徹甲弾とロケットを制していく。
『徹甲炸裂焼夷弾⁉︎』
『邪魔するんじゃねぇ!』
もう一撃が、スノーラビットを支援する戦闘車両へ向けて狙いを定められた。
これを躱せば地上の基地は火の海になる。スノーラビットが間に入り、四基の棺を重ねて
先程とは比べ物にならない衝撃波が後ろへ突き抜ける。結界に亀裂が入り、棺が飴細工のようにオレンジ色に溶けていく。
『アッハハ、本当に庇ったぁ!よくやるぜ、装甲諸共黒焦げになるって分かってたクセに』
棺ごと押されていくスノーラビットを嗤うヴィットーリアの声に、ユスティーニは小さく、本当に小さく笑みを浮かべた。
『どれだけ溶かされても、氷は何度でも同じ姿を見せてくれる』
『あ?』
赤いエラー画面に埋め尽くされたユスティーニは、音声認識による機能の解放を始めた。
「
棺の中心から青い膜が走る。それは操縦士の声音を識別し、解除される制限。
「
焼夷弾による溶解が止まる。それは特殊な文言を入れることで発揮される、
「
棺の外殻が、本来の静謐さを取り戻していく。
『無駄なんだよ。これでてめーも消し炭、に、し……?』
棺が勢いの弱まった焼夷弾の軌道を逸らす。基地から見ても明後日の方角で、赤黒い爆炎が煌々と立ち昇った。
後には白く輝く棺、自己修復されたスノーラビットの砲身が残っている。
『形状、記憶合金⁉︎』
そのスノーホワイトの特色を受け継ぐスノーラビットは、己の外殻を修復する性能を持っていた。
『ナメクジかよ気持ち悪ぃ』
親指の爪を噛むヴィットーリアに、ユスティーニは余裕を持って降伏を薦める。
『何度だって私の後ろは守り通す。これ以上皆んなを傷付けさせたりしない。無駄弾を使いたければどうぞ』
前回の戦闘で焼夷弾を使わなかったのは、弾数が少なく出し惜しんでいたからだろう。
それを使い切ったとなれば、外殻を治すだけの棺でも応戦は可能だ。
『イキがってんじゃねーぞ脳味噌すっからかんが。アタシの主砲にぶち抜かれたの、もう忘れたの?』
そう得意げになって、
(——……いや、待て)
ふと違和感に気付く。同じだ。お互いが砲を撃ち合って、お互いが決め手に欠け、拮抗した状態を打破する為にグランギニョールが新たな主砲を撃ち込む…最初の会敵を繰り返しているだけだ。
このままでは再びスノーラビットは甚大なダメージを喰らい、劣勢に持ち込まれてしまう。相手もそれには気付いている筈。
ヴィットーリアは第七をバカにはするが、そこまで間抜けだと過小評価もしていない。
『てめーら。何を企んでやがる』
『……っ!』
◇◆◇◆
脱出組が仮設した、なけなしの防衛ラインは破壊の限りを尽くされていた。
木々は倒れ地面は抉れ、
荒地の中心にはレオンハルト…それと巨漢に胸倉を持ち上げられ、宙に浮いたオリヴィエの姿があった。
肋と肺が圧迫されて呼吸がままならない。流血した頭は朦朧としてくる。
手足の先は痺れて動かず、弾を撃ち尽くしたライフルが滑り落ちた。
底が切れた懐のポケットからは携帯端末が零れ落ちる。
「どう、して……」
「?」
まだ口は動いてくれた。何もかも失ったが、それでも弁を振るう。一秒でも長くこの男の足を止める為に。
「技術情報を盗み出したり、ニカンドロフを捕縛しようとしたり、てめぇらの目的は魔女と託けた
喉の鋭利な痛みから鉄の味が這い上がってくるが、構わなかった。
「それを、どう平和的に利用する?……医療、技術の向上か?それとも、どうしても生き返らせたい故人でもいるのか?……なぁ、てめぇらの上司が、それを悪用しないって、どうして、言い切れる?」
魔女の保有数が最も多い帝国が、その量産体制を敷かない理由は見つからない。もし本当に強力な魔女の再生体が兵器運用されれば、帝国の脅威度は今よりずっと上昇するだろう。
「陛下の性格からして、誰かのコピーを量産するとは考え難いが、絶対にあり得ないと断言出来ないのも確かだ。いざ持ち帰った技術で、大勢の故人が現代に蘇り、周辺諸国……いや世界から反発を受ける可能性は勿論有る」
周囲の惨状を築いたレオンハルトは、恐ろしく落ち着いた声でオリヴィエを肯定する。
「だからそうなった時、再生された魔女も人間も皆んな俺が守らなきゃな」
「なんで、」
顔ぶりは真面目そのもので、冗談を言っているようには見えない。だからこそオリヴィエは絶句して、次の言葉に間が空いてしまう。この男は今なんと言った?
「性格も戦い方も暮らし方も違う奴らが、一度に増えたら大変だろうけどな。俺は、例え魔女でも、例えその出生が禁忌の技術でも、互いの流儀で理解し合いたいと思ってるさ」
「何でそこまで考えが及んで、そこから先の思考を肥溜めにぶち込めるんだよ⁉︎」
喀血が胸倉を掴む腕に吐き散らされる。レオンハルトは僅かに瞳を見開いてから苦笑を浮かべた。
「昔、同じようなことを言われたよ。思考が
笑みがすっと消え、ゼニスブルーの目がボロボロなオリヴィエを正面から見据える。
「お前さんの言うことは最もだ。この考え方は机上の空論にすらならない妄言でしかない……だからこそ、それが本当に実現出来るかは、お前さんたちで証明するとしよう」
掴んでいた手が解け、オリヴィエはその場に倒れ伏す。
レオンハルトはそれ以上何をするでもなく、東へ向けて歩を進めて行った。
このまま一点突破のレオンハルトと満遍なく砲弾をばら撒くグランギニョールのコンビが、第七を蹂躙していくのだろう。
だがレオンハルトの剣筋は、あれだけ派手な結果を撒き散らしておきながら、巨人がヒヨコを殺さず握るようで、殺意が全く込められていなかった。
手加減されて負けた。完敗だった。
(惨めだ)
レオンハルトは不安要素との和平を本気で証明するつもりのようだ。オリヴィエが生きるのを許されているのが、その最たる証拠。
脅威と見做されていない。だから殺さない。道端の蟻をわざわざ踏みに行く大人などいないのだから。
優先度でいえば、武勲によって地位を得た訳ではないニカンドロフを下回っている。
(惨めだ)
王族の鷹狩りに使われるシロハヤブサは、その美しい羽毛から王族の威光を分かりやすく可視化させるステータスの一つだが……今のオリヴィエは正にそれである。
後はとどめを刺すだけの状態にまで追い詰められながら、きれいにきれいに見逃される——敵の誠実さと寛容さを表すトロフィー。
(惨めだ)
レオンハルトには第七を皆殺しにするつもりはなく、連邦やブリヤートにも私欲で侵攻する気もない。ただ上官の命令を、どちらの被害も最小限に、犠牲を出さないように遂行するつもりのようで、この先起こる大戦についても同じスタンスを貫くのだろう。そこに自分の理想を捻じ込む気概すら見せ付けられた。何だそれは。舞台の上の主人公か。
(惨めだ)
瞳から生温かいものが流れて、急速に冷えていく。抵抗する気力は粉々に打ち砕かれた。
今からレオンハルトと再戦する為に追い掛けて何になる?もう一度、圧倒的実力差で捩じ伏せられるに決まっている。
(挑めば挑むだけこっちが惨めになる!)
もういいだろう。己は十分に戦っただろう。どうせあの男を先に行かせても、死人など出ないのだから。
そう、自分を納得させる言い訳を並べて……地面に落ちていた端末が、コールをずっと鳴らしていたのに気付く。
正規隊員の仲間内であればインカムを使う筈なのだから、相手の候補は一人しか居ない。
『良かったやっと繋がったー。冷静に考えたらあんたの連絡先しか知らなくて焦ったよ』
寒空の下に横たわり、打ちひしがれているオリヴィエのことなど知る由もないミシェルが、砂漠でオアシスでも発見したかのように声音を弾ませた。
『実は作戦が相手に勘付かれたっぽくて、行き詰まってるんだ。このままだとジリ貧だから、教えて欲しいことがある。あっ、
「………………は?」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。医療班に引き取られて適切な治療を受けているのではなかったのか。最も安静にしているべき一人ではなかったのか。そんなオリヴィエの当惑も、ミシェルは置き去りにする。
『感情面や人格面の話になるとさ、こればっかりは会ったこともない自分じゃあどうしようもないから……?、おーい、聞こえてる?通信不良?それとも——』
何てこともない素朴な疑問を浮かべるように、ミシェルはオリヴィエの現状を突き刺した。
『——聞こえた上で死んだフリでもしてる?』
端末の前で無の極地になっていたオリヴィエは、言の葉の鈍器で頭を殴られる。
——わたくしは貴方様に、生きた屍になって欲しくないのです——
思い出すのは、炎の夜メイドに諭された願いだった。
——流されないで、諦めないで、全てを失っても残されたものを、どうか捨てないで——
何が、あの男を先に行かせても死人など出ないだ。ならここで項垂れているゾンビは何だ。
起き上がったところでレオンハルトは戻って来やしないのに、不貞寝をしているのはどこのどいつだ。死んだフリとは言い得て妙だった。
「クソったれが……何でお前が戦場に出てんだよ」
情けなさで地面を握る指に力がこもる。
『?……だって他の隊員たちは皆んな忙しなく動いてるから、今手が空いてるの自分しか居ないじゃん』
全く悪びれずにこれである。もうそんなことは、やらなくて良い筈なのに。
インターン初日に任務先へ突然飛ばしたブラックっぷりが影響を与えているのか?それとも元よりバカヤロウなのか?
ミシェルの無茶ぶりせずとも特攻していく様に、オリヴィエは体を起こしながら辟易した。
「あいつに動いて貰う方法なら知ってるさ」
脇腹の痣の痛みで吐き気がしたが、構っていられない。体中の軋みに鞭を打つ。
「それを教えるのはやぶさかじゃねぇが。今お前たちの方に、もう一人やべぇ化け物が向かっている。そいつを……」
貧血でふらつく体へ、もう一度血を巡らせるように胸を鷲掴む。
「そいつを、止める手段が要る」
◇◆◇◆
互いの基地の中間地点には、複数の戦闘車両が沈んでいる。
先遣隊と第七の拮抗状態にあった戦域は、レオンハルトの到着で戦況が一気に傾いた。
「被害は?」
介入と同時に戦車の群れすら撃沈させた男は、強襲中隊の隊長へ短く問う。
「お前が来るまで牽制し合っていたから、軽微なものだ」
強襲中隊の役割は魔女を失い敗走する敵の追撃、奇襲。確実に制圧する為に選ばれた戦闘員たちに負傷者は居ない。
「なら、このまま一気に基地を制圧して、相殺音波を無力化する」
生身で突入したレオンハルトにも傷は無く、変化といえば精々杭打ち機の排出口から黒煙がたなびいているくらいだ。
「噂以上にやべぇ」「魔女ともやり合えるんじゃ」「あ、有り得る」
この先遣隊に配属されて初めてレオンハルトの実戦を見た者たちが、口々に恐れ慄く。
「そう、おっかなびっくりになるなよ。流石に今の俺じゃあ
その大剣目掛けて、最後の手榴弾を投げつける。
杭打ち機が黒煙を上げているのは、排気と吸気を行う機構が根詰まりを起こした後も使用を続けていたからだ。
内部からの圧力と外部からの攻撃により、機体には着実に罅が入っていた。
今の手榴弾により、その亀裂は決定的なものとなる。
「そんなに死体を蘇らせたいなら、背中を蹴り飛ばしゃ良いんだよ。王子様のキスより可能性はあるだろ」
何処からともなく投げかけられる青年の声に、中隊の隊員たちが周囲を見回す。
「お前たちは先に行け」
爆煙を払ったレオンハルトが、後方を警戒し一斉にライフルを向けた部下たちに促す。
第七の車両群を沈めた男の言葉を、疑う者は居なかった。相手の基地へ向けて自陣の車両に手早く乗り込んでいく。
その中で、レオンハルトは中隊長の肩を掴み引き寄せる。
「俺にもしものことがあれば、指揮権はお前に移る訳だが。どうしても判断出来ない時は後続を指揮しているアルベルト中佐に助言を請え。お前は好かないだろうが、生き残ることに関してならあの男は信用出来る」
「レオンハルト、お前まさか……」
レオンハルトには誰が来ているのか検討が付いていた。あそこから追って来るのならば、秘策があるだろうことも。
「なぁに勘だよ、万が一のな。ちゃんと追いつくから、心配するな」
中隊長はどこか納得いかない表情を呑み込んで、部下を引き連れてこの場を後にした。
残されたレオンハルトは、背後に向けて驚嘆を投げかける。
「……お前さんの端末を解析して、
「うるせぇな。
予想通りの青年の声がした方を振り返り、
「何もそこまで死に急がなくても良いんじゃないか?」
木の影から姿を現したオリヴィエは、憂いを帯びた顔で再びレオンハルトと対峙する。
「質問に質問で返すけどよ。俺の端末で学生相手に、俺に成りすましたのはてめぇか?」
「指示を出したのは俺だよ。会話からお前さんの口調をエミュレートして、実際に成りきったのは電子小隊の奴らだが。その学生だって、いきなり見知らぬ敵に逃げろって言われるよりかは冷静に対応出来るだろ」
つまり電算室でオリヴィエが気絶させた者たちが、ミシェルへ味方を装って会話していたのだ。今日初めて話したオリヴィエの、嘘は吐いてない言い分。ミシェルには疑う余地も無かっただろう。
「そうだな。まんまと騙されていやがったよ。で、その学生は今、てめぇが兵隊を差し向けた後方で奔走してやがるときた」
「⁉︎」
レオンハルトの堅い顔が初めて崩れる。信じられないものを見るように、眉が顰められた。
「ほんと馬鹿だろ?医務室で大人しくしてりゃ良かったのによ。隊員の目を掻い潜って、一番弱い民間人が戦場を駆けずり回ってるんだ……俺だけ寝ている場合じゃねぇだろ!」
オリヴィエの諦観めいていた、疲れ切っていた顔に、火が灯る。
あの炎の夜に無力さを知って。打ち砕かれた自尊心を支えようと貼った
もう己に出来ることは無いと諦めた矢先に、こんな戦場で何も持たなくて良い筈の子供が、何一つ諦めずに活路を見出そうと、こちらの背中を蹴り飛ばすのだ。
ここで立ち上がらなければ、それでも残った何かすら、泡沫となって消えるだろう。
「死に急ぐも何も、屍にならない為にてめぇを止めるんだ‼︎」
オリヴィエは最後の兵装である対人ナイフを、鞘から抜き取った。
「……そうか。その覚悟があるのか。なら、相応の態度を示さないとな」
致命傷を受けていた杭打ち機から、無機質な合成音声が流れる。
『〈
亀裂が開き、ボロボロと杭打ち機が崩れ去っていく。
その中から、音叉のような、極東に伝わる十手のような、長剣が現れた。それには強力な仕掛けが内包されている訳でも、最新鋭の技術が積み込まれている訳でもない。レオンハルトが二十年間命を預け続けた、即ち彼にとって最も使い易い、ただの鋼の剣である。
使いづらい武器を与えて、その実力を社会に受け入れられる程度まで下方修正する。それは魔女を
つまり立ちはだかるは、人の身で魔女と肩を並べられる者。
「我々は
「サウィン第一
「——命を張れよ、英雄‼︎」
「歯ぁ食い縛れよ、小僧‼︎」
二人の男が踏み込むのと同時に、二機の
鋼剣が薙ぎ払ってくるのを、ナイフで庇いながら身を下に捻る。刀身の接触面から散る火花を眼前に、オリヴィエはレオンハルトの懐に潜り込む。だかここで安易に心臓部は狙えない。
鋼剣を振った勢いを利用した回し蹴り。既に次の攻撃が来るとオリヴィエも学習している。
故に、相手の膂力を逆手に取り、自身の首へ吸い込まれる蹴りへ、ナイフを突き立てた。
「っ⁉︎」(クッソ硬ぇ!)
手応えはあったがプロテクターと筋肉に阻まれ、有効打にはならない。
そのまま喰らった蹴りにより二十メートル程吹っ飛ばされた。当たることを前提にしていた為、受け身は取れたが安心していられない。
鋼剣の横一閃が今度は周囲の木々を幹から切断し、それが地に落ちるより先にレオンハルトはこちらへ一本ずつ打ち込んでくる。
オリヴィエが合計三本の針葉樹を紙一重で躱した矢先へ、その男は既に迫って来ていた。
上空で撃ち合われている砲弾の破片が煌々と降り注ぐ中、二人の剣戟が始まる。
攻勢に出たのはオリヴィエだ。唯一勝る手数の多さで、レオンハルトを防御に集中させる。攻撃は最大の防御というが、この男に攻撃を許さないのが最善の防衛手段だった。
それでも剣撃が振り払われるのならばひたすら回避に専念する。風圧だけで総身の毛が逆立つのを押し潰す。
スカーレットはこれをやってのけたのだと、掴み所の無かった保安官への評価が上がってしまい乾いた笑いすら漏れた。
鋼剣が振られるより前に、回避が間に合わないと判断すれば、最大威力が発揮出来ない初動へナイフで喰らい付く。
最初の一手から次の手を、相手がどう動くつもりか予測する。駒を動かす盤面と同じだ。
幾つもの手が予測されようものなら、どれか一つに賭けた。運も何もかも全て有らん限りを尽くさなければ、この場に食い止めることは出来ない。
そうやって騙し騙し渡り合うオリヴィエの左頬が粟立つ。直感と呼べるものだったが、彼にそれを理解する暇は無かった。対峙するレオンハルトも同様で、二人揃って危機が花開いた側から退避する。
直後、どちらかの
「……俺を流れ弾で殺そうと思ってるなら、お前さんもただじゃ済まないぞ」
「誰が『俺ごと撃てー』なんかするかよ。自己犠牲精神でてめぇに喧嘩売っちゃいないぜ」
着弾点は丁度地下水脈が枯れた地点であり、支えの薄い地面が崩れ落ち、陥没していく。
消し炭が撒かれた底無しの空洞を、散りばめられた炎が舐め取る。
火の粉が舞う最中、二人の戦闘も続行される。鋼剣の初動を読んで去なすオリヴィエだが、横から伸びてきたレオンハルトの腕に首を掴まれる。
振りかぶられた?と、遠心力で足に血が貯まるのを感じた時には、大木目掛けて投げ飛ばされていた。
空中で身を捩り、両足で大木に着地する。幹がしなる音が足裏から伝わる中、オリヴィエの視界からレオンハルトが消えた。動揺を呑み込んで地面から上空まで視線を滑らせた先に、男は居た。
「マジかよ⁉︎」
グランギニョールがスノーラビットの下へ回り込み、掃射を行っていた時。ふと機体の右肩に生体反応を感知した。ヴィットーリアが振り返れば、
「木を遮蔽物にして徹甲弾を凌ぐのもありだがな、あまり敵機に上を取らせない方が良いぞ」
自陣の指揮官が額縁の上に掴まっていた。
『⁉︎⁉︎⁉︎うっせーばーか!通信機で言えよ文明の利器も使えねーのかヒト科ゴリラ属!』
少し右へ高速移動していたら普通に轢いていたのだが、分かっているのか?動きを把握された上で今しかないと接触を図られたのか。
「お前さん、ブツ切りしてから通信を繋げる余裕も無かっただろ」
やれやれと肩をすくめ額縁から手を離したレオンハルトが、そうぼやきながら地表へ落下していく。
端無くもそれを見送ったヴィットーリアだが、空を裂く飛行音が真上から降って来た。
意識を戦闘用の電子画面と砲身の矛先へと集中させる。
上空から急降下してきたスノーラビットは、反熱砲から噴き出すバーナーを双剣のように扱いグランギニョールへ斬りかかる。
『あーしつこい、しつこい、しつこい!頭に人参吊り下げられた訳でもねーのに、関係の無いてめーらが何でそこまで食い付いてくんだよ』
歪んだ砲口から火花を放出させる紅蓮の熱線を避けながら、グランギニョールは機関銃を撃ち込む。
『貴方たちの本当の狙いを把握したから。五度目の大戦なんて起こさせない。被害に遭う殆どが、何も知らない人間なんだもの。真実を知ったからこそ、私たちには止める責任があるの』
スノーラビット本機の両肩から二基の棺が顔を出し、砲弾を撃ち落とす。
『人間なんかに本気で守る価値があると思ってんの?おめでたい頭じゃねーか』
体勢を立て直したグランギニョールが、嘲笑と共に二対のレーザー光線を浴びせかけた。
『——……価値があるからとかじゃなかった』
『あ?』
『魔法は人を守るのが当たり前のこと、生まれた時からそう教えられたから。犠牲に切り捨てられる人を見たくないなら、私が守ってあげなくちゃいけないと思った』
『………………』
『そうだね、傲慢だよ。でも皆んなの、あの子の本気に助けられたから……』
寂しさを無くす資格を、今なら持っても良いのではないかと、思えた。
『皆んなと少しだけでも溝を埋めたい、距離を縮めたいと感じても良いって思えたから。だから貴方には退場して貰う!』
心臓が悲鳴をあげた。傷の痛みが全身で渦を巻いた。それでも、
——それでも、あの真夜中を星空を内包した瞳は、美しかった。
オリヴィエからの評価は影響したと思う。けれども、傷つくことも厭わず伸ばされた手を、触れた温もりを守りたい感情は、自分だけに灯された願いだと信じる。
『そう。そーやってギセイシャの中に自分を入れない仕草、見ていて反吐が出るんだよ』
ヴィットーリアが再び一斉掃射の音声認識を始めようとしたところで、
『あー、あー、聞こえてる?これもう通じてます?』
スノーラビットのスピーカーを通じ、突然聞き覚えの無い声が場違いに飛び出してきた。
「聞こえてるよ。私にも、相手にも」
ユスティーニの報告の仕方からして、何処かの誰かはヴィットーリアに用件があるらしい。
『よぅし。グランギニョールの設計なんだけど、本来の主砲は
『なんで一目でアタシの
『気色悪い⁉︎ゔ、うん。当たってるなら、尚更不思議なのがその新しい主砲だよ。
ヴィットーリアは親指で首を掻っ切る仕草をしてその指を下へ向けた。
『何で?決まってんだろ、魔女が殺せないからだよ!帝国でのし上がるのに、アタシが辿り着く先に、必要なものがグランギニョールには無かった。だから
中指を立てられた誰かさんは、しかし淡々と、毅然と切り返す
『だったら最初から帝国に行けば良かった。でも君にはトラップセラーに加入して、裏切る過程が必要だった』
気の進まなさは最高潮だったが、必ず彼女を刺激しなければならない為、腹を括る。
『帝国に数多居る実力者の中では自分は埋没してしまうから、比較して魔女の少ないトラップセラーに居れば、
話しながら脳内で整理するのは、先程オリヴィエに教えてもらった
(『いいか?あの女は口が悪くてイイ趣味してやがって傲慢で実力を鼻にかける、持った教養を使う気のないキレやすい不良娘だ。捻くれていて口も悪い』)
(「突然の自己紹介?」)
(『はっ倒すぞ。いいか?てめぇだったら、少し棘を含めて褒めてやれば一発だろうぜ』)
その後オリヴィエに、やっぱり同族嫌悪してる?と聞き返せば無言の圧をかけられた。
『つまり君は帝国へ行った時点で
学生……ミシェルは頷きつつ、滅茶苦茶に良い笑顔で問い掛けた。
『——身の程を弁えた賢明な判断だ!ママに教えてもらったのかな?』
『
答えは詠唱となって返された。超速空気砲の起動が始まる。
『
通信室に緊張が走る。突き刺さる個人への殺意で、ミシェルの体は一瞬硬直する。
今からミシェルだけでも避難させようと、オペレーターが学生の肩を掴む。
マイクから引き離されかけたミシェルが、最後に一言だけ、彼女の背中を押す。
「いけるかい?スノーラビット」
『っ……!任せて。かっこいいところ、見せてあげる』
一度完膚なきまでにこちらを貫いた大砲の前に、再びその身を晒しながら、ユスティーニは己を鼓舞した。何よりも、その瞳の期待を裏切りたくなくて。
一方その頃の地上。針葉樹を足場に落下の勢いを殺し、レオンハルトは着地する。その一瞬の隙をつき、オリヴィエが背後から斬りかかった。
直感で奇襲を気取ったレオンハルトが、振り向きざまに鋼剣を横に薙ぐ——が、その一閃は空振りする。オリヴィエは背中を狙ってはいなかった。相手が直感で対応することを前提に、最初から次にくるであろう回し蹴りの左太腿へ、身を低くしてナイフを突き立てた。
刺したナイフを軸にして、アーミーブーツの回し蹴りを、レオンハルトの顎へ叩き込んだ。
人間である以上、顎の揺れは脳に繋がる。隙を作ったと確信した直後、相手と目が合う。
鋼剣の振り戻しが、オリヴィエの胴体を薙ぎ払った。
くぐもった呻き声を上げて地べたを転がったオリヴィエが見たのは、己に向けて振り下ろされる鋼剣。咄嗟に頭を避ければ、眼前の地面が割れる。
「さっきの蹴りはかなり効いたぞ。だが——」
レオンハルトがもう一度、剣を振り上げた。這いつくばるオリヴィエに躱す時間は無い。
『
上空から、怒りを内に込めた静かな死刑宣告が聞こえてくる。
「『——これで終わりだ』」
オリヴィエとスノーラビットへ、同時にとどめが刺されようとして、
『えっ?……あっ、きゃぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっっ‼︎‼︎』
真下からの爆裂と破片に晒され、その身を切り焼かれた操縦士が膝をついて悲鳴をあげる。
「ヴィットーリア⁉︎」
レオンハルトが手を止め、グランギニョールを見上げ、
刹那、宵闇が首を垂れる何千何百の光が、男の網膜を刺し貫く。
光の暴力が落ちて来ると分かっていて、俯き目を覆うオリヴィエが思い返すのは、ミシェルからの提案だった。
(『奇襲や不意打ちも直感で対処されるとか、天が二物三物与えてるんだけど。それなら相手の意思で罠に掛かって貰おう』)
(「第七で準備出来る物にも限度はあるぜ」)
(『覚えてる?テルミット反応。あれは別に爆弾を作る為の現象って訳じゃない。酸化物を還元する手段、その過程で高熱と光を発する。つまり閃光弾の原理に採用されているでしょ』)
ポイント
夜の帳に紛れ込んだ黒と鈍色の粉末は、ヴィットーリアの悲鳴を合図に、スノーラビットのバーナーが着火させた。
結果、上空に五十メートル規模のスタングレネードが光の奔流を撒き散らす。仲間の悲鳴に反応したレオンハルトの視界は焼き切れた。
スタングレネードによって無力化出来る時間は、平均的に約五秒とされている。
最強の、五秒間が奪われた。オリヴィエは弾かれたように飛び起きる。
一秒——対人ナイフを右肺目掛けて三撃入れる。防弾ベストに阻まれ、傷は浅い。
二秒——危険を感じたレオンハルトが瞼を押さえたまま後退するのを、追撃しに行く。
三秒——プロテクターが確実に入っていない部位を狙おうとするが、相手が牽制に振り回してくる鋼剣を、木の幹を足場にして躱す。掠っただけで頬が裂けた。
四秒——駆け上がった木から地上へ向けて幹を蹴る。己の体重と自然の重力全てを込めて、相手の首の根本へ深々と対人ナイフを突き立てた。
対人ナイフがその本領を発揮し、男の猛々しい肉体を切り裂こうとして……止まる。
五秒——レオンハルトが壊れた
オリヴィエが産まれる前から戦場に立っている軍人は、己の肉を切らせて相手の位置を固定したのだ。視野が生きていたら頸動脈をぶち破られていただろう。それでも致命傷に近いのは変わらない。肉と骨が軋みを上げる。今まで味わったことの無い激痛が傷口から足の裏まで伝わり、一周して頭へ巡り脳で死に変換される。
「「ああああああああああああああっ‼︎」」
血管の千切れる音を、お互いが幻聴した。
「止まれ!もう止まれ、レオンハルト・フリューリング‼︎」
オリヴィエのナイフが、レオンハルトの首から胸部にかけて一閃した。
鮮血が飛沫となって噴き上がり、二人を濡らす。最初に膝をついたのはオリヴィエだった。
「悪いな。昔の俺を見ているようで、ついうっかり……熱く、なっちまった」
顔を上げる体力も残ってないオリヴィエとは逆に、レオンハルトは夜空で戦うグランギニョールを映す霞んだ瞳を細める。その手から、
「しかし、驚いた」
鋼剣が、二十年命を預けた
「綺麗事が言えるくらい、強くなれたと、思っていたんだが、な……」
精神を粉へと削り、全身で血の味を噛み締めながらも、オリヴィエは言葉を紡いだ。
「あんた程の傑物に、俺は会ったことがない。他の誰も追いつけないくらい、あんたは一人で強くなり過ぎた……だから、」
その巨体が、後ろへ——
「だから、独りで死ぬしか、なくなるんだ」
深い深い奈落へレオンハルトは落下し、オリヴィエ一人が、取り残された。
焼け焦げた雪の森に、静寂が訪れる。
動けないオリヴィエは暫く耳を澄ましたが、男が底から這い上がってくることはなかった。
上空のヴィットーリアは、真っ二つに割れた舞台の横で両肩を抱いていた。
『な、何が……何が、起きたの。どうして、アタシの、主砲……』
震える声音で、血の流れる頭で理解しようと、爆裂した主砲を凝視するヴィットーリアに、これは受け売りだけど、と前置きして応じたのはユスティーニだった。
『
『それが、何だっていうんだよ!』
グランギニョールは体勢を立て直そうとしているが、操縦士の困惑と負傷が魔法に反映されて、本来の機動性を失っている。
『だから、砲口から入り込んで、弾詰まりを起こさせた』
『そんな反応一つも——』
『本当に?取るに足らないって見逃してない?私の血が付いたハンカチ』
「⁉︎」
連邦からの脱出時に、ミシェルが拭った血の付いたハンカチ。ユスティーニの生きた細胞が染み込んだまま低温保存され、戦いの最中に操作されていた九つ目の飛翔体。
勿論どれだけ
『それじゃあ、これが最後通告。降伏して』
六つの棺が、砲口を外側にして放射線状に結集する。そして本機との間に、今まで参戦していなかった七つ目の棺が添えられる。
「降、伏……?」
ヴィットーリアは引き攣った鬼の形相で、残された砲身をスノーラビットへ向ける。
『ふざけるな、ふざけるなぁ!アタシは帝国で必ず頂点を引きずり落とす!アタシを嘲笑った奴等も全員地獄に落とす!てめーみたいな
『……
答えは詠唱となって返された。六つの棺を一面にして、回路が氷晶のように輝き出す。
『
ガイドレールが、発光する花弁のように展開されていく。
七つ目の棺に秘めた電力を解放させながら、ユスティーニはスノーラビット設計士の言葉を思い出した。
(「ムーンラビットの超火力をスノーラビットではプラズマで再現している。が、色々と成長途中の代物でね。弾速が既存兵器より遅い。高速戦闘下では日の目を見ることは無いと思うけど……もし使う機会があれば——それは一瞬であれ、
膨大な青白いパルスの輝きを浴びるグランギニョールは、機体を軋ませながら砲口のエイムを合わせた。
『アタシはやれる……やれるんだ、やらなきゃ、舐めるんじゃねぇ!
『
凝縮された熱線が夜空を切り裂いた。
掃射を焼き払い、グランギニョールの防壁を食い破っていく。
負傷していなければ躱せた筈の熱波が、コックピットを飲み込む。そして、
魔女の戦いは、烈火の如き爆裂により終幕となった。
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