第7話
ここからは
月光の数値化を実現した当時、私はこの『外灯研究室』の室長と交際していた。
婚約はしていなかったが、さりげなく指輪のサイズも聞かれていた。
まだ夏の内からクリスマスの予定は絶対に開けておいて欲しいと言われ、ディナーの約束をしていたのだ。
しかし、その前に私は月光の数値化を実現してしまった。
これまでにない成果に研究所の所長は大喜びし、研究費用増額により数値化システムの開発も実現した。
その頃の室長は、私よりも所長と会う時間の方が長くなっていた。
そんな事で私は、内容の重大さを理解していたのだ。
論文発表前、室長に、
「これから常識を覆す発表によって、この研究と研究所は世界中から注目される事になる。マスコミが
と、言われ、別れを告げられた。
嫌がっても交際が続くわけではない事くらいわかる。
――いや。当時すでに、別れを嫌がる理由も無くなっていた気がする。
私は二つ返事で、彼との交際を終了したのだ。
それでも彼が私との交際中、私の話を親身に聞いてくれていたのは事実だ。
犯罪の増える満月の魔力を科学的に証明したいなどと言う、実用性に遠い研究馬鹿の話をだ。
そのおかげで、彼は研究内容を深く理解している。
論文発表や記者会見でも、開発者として的確な解説をし、質問にも答えていた。
著名人の集まるパーティーにも出席するようになった彼は、利権に関わる資産家の令嬢と結婚した。
そして犯罪時間の減刑などという、後にトラブルが起きそうな話が持ち上がってすぐに離婚されたらしい。
彼からの別れ話を私が快諾したので、彼も所長も疑わなかった。
私は『絶対に目立ちたくない』という理由で、研究論文発表会への出席を拒否したのだ。
数人の前で成果報告をするだけでも、私が酷く
それでも詳細情報を他へ売るだの、結果を見てから権利主張をするのではないかなどと多少は勘ぐったのだろう。
所長によって内密に誓約書が作られ、私はサインした。
この研究はその重要性を認める研究所全体の協力結果であり、個人の功績ではないと理解している事をここに証明する……そんな内容の誓約書だった。
あの当時、自分たちが開発者として権利を得る事を重視していた所長と室長は、誓約書が自分たちを守るものとしか考えていなかったことだろう。
現在は、私の手元にある誓約書の写しが彼らを矢面に立たせ、私の身を守っている。
これまで、私の名前は全く知られていないのだ。
突然、新しい研究者名を出して「実は彼女が~」なんて話を出しても、利益を奪っておいて責任を追及されたら押し付けるという事ですか? と、さらに批判を呼ぶだけだろう。
おかげで私は現在、批判祭りの標的にならずに済んでいる。
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