第4話


 月光数値が犯罪心理に結び付けられるようになってから、世の中はおかしくなった。

 月光数値の高い日には犯罪が増える。

 罪を犯したくなる?

 罪を犯してはならないという抑制心が働きにくくなる?

 犯罪心理の分野に、具体的数値を割り出す月光数値化システムは大きな影響を与えたらしい。

 とは言え、新しいナノイオンの月光による変化数を測定しているだけなのだ。

 実数があったところで結局、月光と犯罪の関連理由はハッキリしていない。

 月光数値と犯罪件数が比例しても、月光数値が高ければ罪を犯しても仕方ないなどという理由付けになるはずがない。

 しかし私のそんな意見が、犯罪心理の分野へ届く事はなかった。

 すでに世界で一般化された月光数値化システムは、当研究所の範疇を超える分野に成長していたのだ。


 月光数値によって、罪の重さに配慮するべきなどと言い出す輩が出た時は驚いた。

 判断能力の欠如による減刑と同じだと主張していた。

 おかしな話だ。

 視界の悪い雨の日に交通事故を起こしても、減刑配慮などされないだろう。

 ただ犯罪抑制の立ち行かない地域が、月光数値を使って机上論を交わしているだけだろうと思っていた。


『犯罪時間』という言葉が生まれたのは、いつ頃だったろうか。

 海外の机上論だったはずが、法改正だの独自条例の施行だの。

 毎日どこかで、関連する進展の報道が続けられた。

 月光数値による犯罪への配慮などという、理解に苦しむ論調は収まる事がなかった。

 それでも私は蚊帳かやの外から、成り行きを眺めるほか無かった。

 政治家たちは、

「~ではないのではないのでしょうか!」

「そういう認識はありません」

 などと繰り返すばかりだったろうに。

 話題の旬を過ぎてマスコミも騒ぎ立てなくなるまで、日本社会に影響する事などないのだと思っていた。

 だがその感覚は海外において通用しないものらしい。

 システム開発国の日本が大きな立場を得られる事もない内に、月光数値計測と共に犯罪予測数値は世界で測定・記録される事になった。


 今では天気アプリで現在の気温や風速、雨量などと並んで月光数値・犯罪予想数値も表示されている。

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