第3話
月光により変化する『物質』とは、世界的に流行したコロナウイルスを洗浄するために開発されたナノイオンの一部だ。
ウイルスを吸着して、感染不能状態にするらしい。
WHOが環境や動植物への影響がない事を異例の速さで認め、全世界で行われたナノイオンによる空気洗浄。
決して、農薬のように上空から散布するようなものではなかった。
自然界にも存在する物質を、人工的に拡散しやすく変化させたナノイオン。
それを発する装置を通した空気を、風と共に流すというものだ。
薬剤散布と勘違いした一部の人々が騒ぎ立てたが、それもすぐに鎮まった。
『感染爆発中では追い付かないローリスクローリターンな対策ではあるが、安全は保障されている』
という説明だったと記憶している。
当研究所とは遠い分野の話だ。
当時は専門外の内容に、様子を眺めているばかりだった。
ナノイオン発生装置には日本の技術も使われているという報道を聞いたが、私は『さすが日本の技術~』などと呑気に聞き流していたのだ。
以前はニュースで、コロナウイルス感染者数が連日伝えられていた。
しかしそれも聞かなくなり、マスク着用も自己判断に任される事になっていた。
感染者数がゼロではなくても、すでに終息しているという意識の人々が空気洗浄に強い関心を持たなかったのも事実だったのだろう。
ナノイオン発生装置は、ワクチン接種よりも早く全世界で実現した。
そして、その後。
ナノイオンが、月光により変化している事が判明した。
空気洗浄には問題のない変化・変質ではあるが、それによって月光数値を測る事が可能になった。
その繋がりを発見し、月光数値化システムを組み上げたのが当研究所の研究員。
――私だ。
ナノイオンの月光による変化を数値化する事で、その場にどれだけの月光が存在しているのかを測る。
私の発見は研究所の成果として認められ、研究は驚くほど速く進んだ。
月光数値化システムの発表後、同システムによる海外での月光検知実験が行われた。
そしてすぐに夜間犯罪数と月光数値の関連性が、明らかな数字として証明されたのだ。
世界的に見て犯罪の少ない日本では、はっきりしなかった部分だ。
月光数値の高い夜。特に満月の夜には犯罪が増える事が立証されたと言える。
実用化は海外が先だった。
毎日の月光数値が記録されるまでに至り、社会に取り入れられたのだ。
……そこまでは良かったのだが。
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