第2話


 ここは、埼玉の田舎にある『北関東光化学ひかりかがく研究所』。

 光の反射、吸収、屈折。

 光の様々な影響を研究し、それを多分野に活かすための技術開発を目指す研究所だ。

 そして私が所属する、研究所内の『外灯研究室』。

 植物は昼の陽光と夜の闇の繰り返しを認識している。

 街灯などの明かりで夜も明るい状態は、農作物に悪影響を及ぼす事があるのだ。

 それを光害ひかりがいという。

 街灯などによる農作物への影響研究と、光害の少ない夜間光源の開発研究を行っていたのが、この研究室だ。

 人口光と月明かりや星明かりの違いを科学的に分析する過程で、私は偶然的に人口光とは違う月と星の光を大気中から検出する事に成功した。


 ある物質が人口光ではなく月光に反応して変化し、それを検出する事で月光量を測る。

 それはこれまでの、宇宙から届く『光』の認識を覆すものだった。

 空気中に存在する月光・星光の数値化に成功したのだ。

 また、数多存在する星々の明かりと違って地球から最も近く、研究も進んでいる月の光の数値化は研究も進みやすかった。

 『月光数値化システム』の確立に時間はかからなかった。

 このシステムは単に空からの光量を検知するものでなく、空気中から月光により変化する物質が作用する。

 目視できる光ではなく、空気中の物質の変化を検出するというものだ。

 空を見上げても月など見えないような明るい繁華街でも、そこにはどれだけの月光が存在しているかを数値化する事が出来る。


 本来の研究目的と離れてはいるものの、進化や大発見とはそういうものらしい。

 この月光数値化システムは他分野からも注目を浴びた。

 研究予算の増額、大規模な論文発表、連日の報道……。

 研究所の所長や研究室の室長はともかく、私個人としては嬉しくない誤算だった。

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