月の魔力・その数値化による顛末。

天西 照実

第1話 プロローグ


 大学で私が吹上ふきあげ研究室を希望したのは、吹上隆司たかし教授の『月夜における光源活用』や『光害ひかりがいによる農作物の実態』などの論文に興味を持ったからだ。

 内容こそ珍しいものではなかったが、着眼点や幅広い視野からの解説が面白かった。

 吹上研究室での経験が、あの就職先で活かせると思ったのが私だけではなかったというだけ。

 吹上教授と、私たちの就職先は関係がない。


【吹上隆司研究室による間違った教育】

 ――有名な教授の名前を使って、間違った教育などと書くのはお門違いだ。

【満月のロマンが犯罪の温床に?】

 ――満月の夜に起きた犯罪が、月光の研究者たちの責任に繋がるはずはない。

【〇〇大臣、犯罪時間に豪遊?】

 ――満月の夜に増える犯罪に、汚職や職権乱用が含まれるのかを記載しろ。


 コンビニの雑誌コーナー。

 目立つ見出しに反論を添えながら、私はゴシップ誌を数冊、手に取った。

 ついでにチョコとグミ……レジ横のピザまんを購入。

 雑誌とお菓子のレシートを、分けてもらうのも忘れてはいけない。



 私の所属する研究所は以前、世界的な新システムの考案者として祭り上げられていた。

 現在は、悪の根源というレッテルを貼り付けられている。

 好意的にもてはやされた当時よりも、研究所や幹部連中は世間の注目を浴びている。マスコミや、報道を名乗る配信者とやらに追い回さわれる日々だ。

 世論への対応策を練るため、大衆が目にする情報源が必要なのだろう。

 テレビやラジオ、ネットニュースは研究所内で確認できる。新聞も研究所に届く。さらに書店やコンビニで売られているゴシップ誌すら参考にするため、私がお使いに出されているのだ。

 私は注目を浴びていないものの、普段は研究所にこもりきりだ。

 たまに使いへ出るのも息抜きにはなる。



 私は現在、地上へ到達する月光を遮断もしくは改質する研究を進めている。

 私がこの特異急務を課せられている理由を述べる前に、これまでの経緯を説明する必要があるだろう。


 満月の夜は猟奇殺人が増える。昔から、具体的な数値で証明されていた事実だ。

 人間への月の影響力に、私はロマンを感じたのだ。

 いつか専門的に研究してみたいと思っていた。

 それだけだった、はずなのに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る