7:00



7:00

日曜日にも拘わらず目が覚めた。



理由ははっきり分かってる。

今日が〖scrap rat〗の発売日だからだ。

目が覚めたと表現はしたけど、実際のところ一睡もしていないんじゃないかというくらい何度も携帯の時刻を見た記憶がある。

少なくとも、はっきりとした記憶は6時になる前の段階まで残っている。

それからもなんだかんだとエゴサをしたり気を紛らわす為に動画を見たり、やっぱり集中出来なくてエゴサに戻ったり、、。

いっその事ひと思いにやってくれと何度思った事か。


発売の発表があってから今日までの約四か月間。

相当な費用を掛けられた広告によって、〖scrap rat〗の映像はテレビでもネットでもどこに目を向けても視界に入る日々が続いた。

家に帰ってテレビを流し見てたら不意打ちをされ、SNSを見てたら突然目に飛び込んできて。

今日までずっと眠れなかったとかそういうわけではないけど、休みの日でも常に仕事の感覚が抜けなくて、ゆっくりと休まる事はなかった。

唯一仕事の事を忘れられたのは、皮肉にも安穏先輩と毎週日曜日にゲームをしてる時だった。

自社のものではない、昔からよく遊んでいたゲーム。

そこに没頭してる間だけは、社会人ではなく一人の子供に戻れたような、そんな感覚があった。

それに、相変わらず勝負系のゲームの差が先輩と縮まる事はなく、ほとんど快勝出来ていたのも没頭出来た一つの要因だと思う。

負けても楽しいと思える程、人間が出来てはいない。

あれだけ負けても不屈の精神で立ち向かってくる先輩を不思議に思うくらいだ。

自分だったら絶対にふてくされて二度と誘わないか特訓して上手くなるまで呼ばないと思う。

毎回毎回初めて負けたかのようなリアクションをする先輩を見て、もしかしたら一週毎に記憶を失ってるんじゃないかとさえ思った事もあった。

そんな先輩に心の中で感謝をする事はあっても、言葉に出す事は無かった。

多分、感謝の量は交通費と相殺したら跡形も無くなってしまうくらいだから。



「あと一時間、、、」



徐々に痛くなってきた腰を庇おうとベッドから降ろした身体を倦怠感が襲う。

目はしっかり覚めてるのに頭は働かないし身体も怠い。

このままではあと一時間後に控えた配信開始まで身体が持つ自信が無いと、まるで寝起きかのようなフリをする瞼を冷水で叩き起こした。

家からは会社のサーバーにログイン出来ないようになってるし、配信開始時刻まで待ってたところで売り上げ本数やプレイ状況が分かるわけではないのに、せっかくこの時間まで起きていたんだからと何故か突然眠気を自覚し始めた頭を言い聞かせる。

ついさっきまであれだけ駄々をこねてたはずなのに。

自分の身体が思うようにコントロール出来ないのはあまりにもエラー過ぎるだろう。



「あと30分」



刻一刻と配信開始の時間が迫ってくる。

SNSでは日付が回った時点で〖scrap rat〗がトレンド入りしていた。

予約本数も、完全新作とは思えない程で、つい最近出した大人気ゲームの最新作と比較しても遜色が無かった。

あれだけ何度も何度も確認してテストプレイも見たくなくなるくらいまでやり込んでもらったしやり込んだんだ。

気が狂っているとしか思えない程短時間で細かいところまでプレイするおかしなゲーマーの手に掛かったとしても、数日は何のエラーも見つからないと思う。


(完全にエラーが無いと言い切れないところがなんともなあ、、、)


見落としは無いと見送ったゲームに予想だにしないバグが見つかった事は何度もあった。

まるで一種の神隠しなんじゃないかと疑うくらい、何人もいるテストプレイヤー全員が丁度そこだけ見落としてるという事も何度もあった。

あの人達も例に漏れずおかしなゲーマー達だというのに。

一体、消費者達と何が違うのか。

これはゲーム業界における永久の謎の一つだと思う。フェルマーの最終定理も目じゃない。



「緊張してきた、、、胃がキリキリする、、、」



時刻は7:50。

配信開始まであと10分。

これを機にゲーム業界七不思議でも考えてみようかとふざけた考えを巡らせている内にあっという間に時間が経ってしまっていた。

SNSでは5分毎にカウントダウンをしている人や、おそらく許諾を取っていないであろう配信者が最速実況をしようとしているのが散見された。

いつもはそんなものを見ても我関せずで適当に流してたのに、今は気が立っているからか無性に腹が立って気が付いたら見付けては通報を繰り返していた。


「、、、あ」


そんな事をしていたらいつのまにか配信開始時刻は5分も過ぎてしまっていた。

元から載っていたトレンドの横に表示されている数字が更新をする度に数十単位で増えていく。

日曜日のかなり早い時間だというのにどれだけ暇なんだと、自分の事は丸ごと棚に上げて悪態を吐いた。

数ある投稿の中で注目度が高いのは自社の公式アカウントから出た宣伝や、外注していた部分を担当してくれたクリエイター達の実績報告。

学生時代はよく分からない怪しいクリエイターが投稿してるな、、。くらいにしか思ってなかったのに、数年ではあってもこの業界で過ごした経験値を持って見てみると、こんな凄い方に担当してもらったんだなとただの実績報告の投稿ですら感動を覚えた。

直接やり取りをしたわけではなくとも、制作段階で誰に何を外注してるかは知ってたはずなのに。



「バグは、、まだ無い、、、、か」



配信開始から30分。

あれだけ突然増えた〖scrap rat〗を含む投稿は、嵐の前の静けさを迎えた。

わざわざ朝早くから投稿する程心待ちにしてた人達は、きっと今頃ダウンロードしたばかりの〖scrap rat〗をプレイしていてSNSどころじゃないんだろう。

うん、きっと。

そう思わないと、もしかしたら駄目だったのかもしれないと考えてしまう。


自社製の家庭用ゲーム機を起動してダウンロード画面を開いても、今のところアクセスエラーは起きてないしレビューも付いてない。

配信開始した以外、まだ何の変化も見られなかった。

夜通し起きて漸く迎えた瞬間とは思えない程のあっけなさに拍子抜けさせられる。


「ふわぁ、、」


抜けてしまった緊張感を表すような欠伸が漏れ出る。

もう少し。

あともう少し、、。

ダウンロードページとSNSを交互に見てはぼーっとしてを繰り返す。

どこを見てもカウントダウンをしてた時のような反応の速度は明らかに失われてる。

このまま待っててもすぐに大きな変化が無い事を頭では分かってるのに、期待なのか不安なのか自分でも把握し切れない色々が邪魔をして、睡魔に従わせてくれない。



〖爪楊枝はどこにある?〗



、、、?何言ってるんだこの人。

安穏先輩から熟年夫婦のようなLINEが届いて頭に大量の疑問符が浮かんだけど、すぐに〖scrap rat〗の武器の事だと気付いた。

ゲーム内で使えるものは、あくまでよくゴミ捨て場や道端にあってねずみが武器として使えそうなものに限られる。

そんな中で、最長と言っていいほどの長さとゲーム内屈指の軽さを誇るつまようじは、攻撃の手数が増えて距離を取りながら戦う事も出来る序盤で手に入れる中では最強と言っても良いくらいの武器だ。

運が良ければ配信開始から間もなく一時間になる今でも見つける事が出来るけど、先輩はどうやら運が無かったみたいだ。

ただ、情報も出していない爪楊枝の存在をなんで先輩が知ってるんだ、、、?



「、、これか」



〖scrap rat〗で検索すると、すぐに最速攻略スレッドが立っているのが見つかった。

爪楊枝だけでなく、魚型の醤油差しに入ったポーションや、ゴミ袋の下に溜まったごま油で敵が滑って転ぶ罠を作れる事まで、色々な情報が既に手に入れられ始めていた。

中には、初見では到底一時間で辿り着けないような情報を公開してる人もいる。

特定条件下で仲間になってくれるキャラなんて、何回もプレーしないと出ない予想だったのに、、、。


(それだけ色んな人がやってくれてるって事か)


リアルタイムで更新されるスレッドを見て、漸く少しずつゲームが配信された事を自覚し始めた。

自分がこうしてネットを漁っている間にも、配信開始前から心待ちにして全力でゲームをしてくれる人達が沢山いるんだ。


そのゲームの原作が自分なんて、、、。


ほんの少し嬉しいが混じった信じられないが内側から滲み出た。

一応のエンディングがある〖scrap rat〗のエンドロールでは、当然原作者として自分の名前が載っている。

今までのプログラミングで一旦を担ったようなその他大勢の一人のような扱いではなく、堂々と大きく。

それも、〖生存戦争〗のタイトルと共に載っている。

映画を見に行った時に最後のほうに出てくる映画監督並の扱いで、エンドロールの制作を担当した人が気兼ねなく話せる関係だったら間違いなく止めただろうなと思う。

それくらい、あまりにも目立っている。

配信開始から一時間。

まだそこまで辿り着いた人は居ないとはいえ、今からソワソワしてしまう。

いやまあ、発売発表時点で公表はされてるからソワソワも何もないんだけど。



〖早く教えないと今から君の家に押し掛ける〗

「あっ」



爪楊枝の情報の出処を探るのに必死で、先輩に連絡を返すのを完全に忘れていた。

家を知らないのにどうやって押し掛けるつもりなんだろうこの人は、、と思いながら、比較的確率の高い入手場所を送っておいた。

確実に出るわけではないし、既にネットに情報が出ているからこれくらいの公式からの流出は大丈夫だろう。

むしろ、公式がしなくてもどんどん情報が出ていってるし。

この速度ならもう序盤のボスくらいまで倒した人いるかな、、、。








────ブーッブーッ


「んっ、、んぅ、、」


────ブーッブーッ


「電話、、?──ッ!!腰いた、、、」


着信のバイブレーションで目が覚める。

いつの間にか眠っていて、目を覚ましてくれた電話も出る前に切れてしまった。


「もしもし?」

「ねえ見た!?フリーゲームのランキングサイト!!」


フリーゲーム、、?

寝惚けて何が何だか分からないけど、今日が〖scrap rat〗の発売日な事は分かる。

電話をしてきた新山もそれは分かってるはずだ。

発表会でMC担当してたの新山だし。

そんな新山がなんでこんな大事な日にフリーゲームなんて。


「開いたけど、、、、え!?!?」

「気付いた!?凄くない!?一位だよ一位!」


フリーゲームランキング一位の欄には〖生存戦争〗が堂々と鎮座していた。

〖scrap rat〗じゃなくて〖生存戦争〗、、、?

なんで、、?

いやまあ〖scrap rat〗はフリーゲームじゃないからこのランキングには載らなくて当たり前だけど。


「私が推してるVTuberがいるんだけどさ。その人とか他の有名な人も、まだ〖scrap rat〗の許諾が降りてないから〖生存戦争〗プレイしてて、それで一気にダウンロードされてるみたい!ダウンロードページ一時的にサーバー落ちてるよ(笑)」


新山の言う通り、確かに〖生存戦争〗のダウンロードページにはアクセスが集中していて入る事が出来なかった。

新山の推しは前に聞いたから知ってる。

確か、業界最大手事務所の一番人気VTuberで、登録者は300万人を超えてたはず。

芸能人と同じで画面の向こう側の人の印象で、そんな人が学生時代に作った今や黒歴史とすら思っていたゲームを全世界に向けて発信してくれてるなんて、、。

信じられない。


「それ伝えたかっただけ!まだ配信してるから切るね!」

「あっ!、、、もう切れてる」


寝惚けた頭を覚醒させる猶予もくれず、新山は本当に伝えたい事だけを伝えて一方的に電話を切ってきた。

時刻は18時。

突然起こされて突然電話を切られたけど、あれが無かったら何時まで寝てしまってたんだろうと若干のありがたみを感じた。



《こんの糞ねずみがああああ!ぶち殺してやる!!!オラァ!!!!》



新山から送られてきた配信のURLを開くと、思っていた何倍も荒々しい声が聞こえてきた。

実際に声を聴くのは初めてで配信を見るのも初めて。

プロイラストレーターによって生み出された美麗な姿からは想像も出来なかった発言やテンションに、思わず笑顔にさせられた。

一応はアイドルVTuber事務所所属だったはずなんだけどなこの人。

アイドルっぽい姿とアイドルらしからぬ発言の数々。

そういうギャップがもしかしたら人気の秘訣なのかもしれない。


「スーパーチャットは、、、これか」


YouTubeの配信を見るのはほぼ初めてと言っていいくらいで、コメントの仕方も正しい楽しみ方も何も分からない。

でも、スーパーチャットという投げ銭システムがある事だけは知っていた。

なるほどなるほど、、。

額に応じて色が変わって、コメントも一緒に送れるみたいだ。


(名前、、、)


まあいいか。

どうせ製作者として名前出してるし、〖scrap rat〗のエンドロールでも知られる事になる。



〖作者さん来てるよ〗

《え!?!?!?世那さんが!?うそ!?どこ!!!!》



スーパーチャットを送って少し。

大量に流れる作者来てるコメントに反応したVTuberひらまさがどこかに身体をぶつける音と共に大げさに反応した。

イラストだと分かっているのにコロコロ変わる表情を見ると人間と大差ない感情を抱かされる。


《えっえっ!?!?!?ご本人ですか!?》

〖世那の同僚です。さっき配信のURL送ったので本人だと思います〗

《えええええええ!?!?!?》


ひらまさがとてつもない速度で流れるwwコメントの中から見つけ出したのは間違いなく新山のコメントだった。

ひらまさにコメント拾ってもらえた!!初めてなんだけど!!と大量のスタンプと一緒に送られてきてるし間違いないと思う。

同僚をダシにしてファンサを貰うな。


《おいおい誰だよ糞ねずみとか言ってたリスナーは。困ったもんだよ誰に似たんだ、、。おい誰だひらまさリスペクトだからとか言ったやつ。世那さんが見てるんだぞ》


同時閲覧者数5万人。

そんな数の人達の前で名前を呼ばれてる事が不思議でならなくて、自分の名前なのに全く別の人の事のように感じた。

名前呼ばれるなんてずるいという新山からの嫉妬のLINEは無視をしていいと思う。


《おっほっほ。素敵な敵ねずみ様だこと》


そこからは何故かお嬢様口調で配信し始めたひらまさだったけど、あまりにも薄過ぎるメッキは最初から無かったみたいに剥がれ落ちて、すぐに荒々しい配信者の姿へと戻った。

口は悪いし台を叩くしで中々荒々しいプレイをしてるけど、それでも引き込まれて、沢山の人に人気が出る理由が分かった気がした。

それに、ひらまさのプレイを見てると久々に自分もやってみたいと思えた。

変に上手過ぎず、作者側が意図して作った罠には全部引っかかってくれる。

ゲームに慣れるといかに早くクリアするかとか、細かいギミックを見つけるかとか。

何というかゲームに対して斜に構えてしまう事が多くなってしまうけど、ひらまさからは全くそれが感じられない。

今まで色んなゲームをしてきてるらしいのに、全然すかしてプレイしてる感じが無い。

攻略本なんて持ってなくて必死に一つ一つを全力で楽しんでたあの頃の気持ちを思い出させてくれる。

そんな感謝の気持ちも込めて、去り際にもう一度スーパーチャットを送っておいた。


《世那さん!?またスーパーチャット!?ありがとうございますホントすみませんリスナーが口悪くて、、、、。〖scrap rat〗も絶対プレイします!!》


濡れ衣を着せてリスナーに総ツッコミされるひらまさの姿を収めながら、そっと配信を閉じた。

自分に何が出来るか分からないけど、配信で〖scrap rat〗をプレイしてもいいと許諾が降りるように、担当者に掛け合ってみよう。

どの部署の誰が担当してるのかすら分からないけど。


〖生存戦争〗を実況配信してるのはひらまさだけじゃない。

今行われてる配信一覧で見ると、ざっと見ただけで10人以上が実況してくれていた。

流石にひらまさ以上に閲覧数が多い配信は無かったけど、それでもそれぞれに多くの閲覧者が居て、合わせると10万人は超えるんじゃないかと思う。

コアなゲーマー達に人気が出て累計8万ダウンロードをされていた〖生存戦争〗だったけど、今は唐突にダウンロード数が伸びてその数なんと15万。

たった一日。

もしかしたらもう少し前から伸びてたのかもしれないけど、確認した日にちの間隔ではたった一日。

それだけの時間でダウンロード数が倍になった。

〖scrap rat〗の事ばかり考えていて完全に眼中に無かったから、寝耳に水ってこの事なんだなと思わされた。

こんな事なら10円でも良いから料金を設定しとくんだった。



カチャ──カチャカチャ───

「肌は青色にして、、アクセサリーはマスクとサングラスでいいか、、」



19時。

朝から何も食べてないのに不思議と食欲は湧いてこなくて、まるで導かれるように自然な流れでソファに掛けてテレビのスイッチをONにしていた。



「声は、、、一番高いのにするか」



嫌という程テストプレイをしたのに、テレビを点けた流れのままゲームも起動して、慣れた手付きで〖scrap rat〗を起動した。

ダウンロードは原作者権限で発売前からしている。

でも、実際にキャラをしっかり作るのはテストプレイも含めて今回が初めてだった。

会社ではない。

平日でもない。

休日に家で一人で〖scrap rat〗を起動してる。

学生時代自分が思い描いて、でも色んなものが至らなくて拘って作り上げられなかった世界が、目の前の画面に繰り広げられてる。

そんな望外な感動がじわじわと身体の内側から滲んでくるのを感じた。

身体を震わせたり涙を流す程のものではない。

それでも確かに、今自分は感動してるんだと感じさせられる何かがあった。



《シテ、、、あなたが家族を支えるのよ、、、》



オープニングムービーで母親が敵対勢力に倒され、設定した名前を呼ばれると共に〖scrap rat〗の世界観が流れる。

幾つかあるねずみの勢力の中で地域最弱の主人公家族。

そんな中で大黒柱の父親はどこかへ行ってしまい、唯一の支えだった母親も倒されてしまった。

残された兄弟姉妹達を守る為、装備や施設を駆使し、地域最強の座を勝ち取れるか!?

舞台は下水道やゴミ捨て場なのにオープニングムービーや設定は原作よりも妙に凝っていて、SF映画のような壮大さを思わされた。



《まずは移動方法を覚えよう!スティックを行きたい方向に倒してみるんだ!》



どこからともなく現れた解説ねずみがチュートリアルを担当してくれる。

ここのプログラミングをしている時、チュートリアルだチュウという面白さの欠片も無いダジャレが何故か社内の一部で大流行した。

デスマーチが終わってみれば誰も一度も言おうとしなかったし、あの時は一種の集団催眠のようなものに掛かってたんだと思う。

ちなみに、この解説ねずみは終盤の重要キャラだったりする。

ネタバレ速報スレッドをオープニングムービー中に見たら既にそこまで辿り着いてる猛者が居た。

まあ、最短で5時間もあればひとまずのラスボスは倒せてエンドロールまで辿り着ける設定で作ってあるし、終盤のコンテンツを知られてしまっていても不思議ではない。

一応出会わないルートもあるけどほぼ確実に出会うし。



《緊急事態発生!緊急事態発生!敵に見つかってしまった!!急いで基地に戻らないと!!》



このゲーム最初の戦闘シーン。

武器を見つけて拾いに行こうとすると、見つけた武器との間に敵が突然現れる。

ゴミ捨て場が設置されたブロック塀のオシャレな形の穴から飛び出してくる辺りが実にねずみらしい登場の仕方だ。

このイベントで出てくるするねずみは序盤用ではない強さで、装備も着けてないレベル1の状態で攻撃を受けると一撃で倒されてしまう。

言わば逃げイベというやつだ。

ある一定距離逃げられればそれ以上は追ってこない設定で、制作サイドとしてもここは全力で逃げてくれたらいいという気持ちで作っている。

ただ、そういう場面でこそ挑みたくなるのがゲーマー。


〝別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?〟


脳内に聞き慣れた熱いセリフが過った。

テストプレイの時はより大多数の人が選ぶ選択肢という事で、この場面で戦う事は許されなかった。

戦いたいけど戦ってはいけない。

テストプレイの度に、そんなフラストレーションが溜まっていた。

戦うか逃げるかじゃなくどう戦うか。

敵の姿を捉えた瞬間それまで素直に従っていたチュートリアルねずみに反抗し、敵の攻撃を避けつつ急いで見つけた武器を拾いに走った。

戦うにも、前歯だけでは攻撃力が足りない。

勇気だけで立ち向かえるほどねずみの世界は甘くないのだと制作サイドであるからこそ強く理解していた。

ただ、武器さえ手に入れればこっちのものだ。

戦いの火蓋は切って落とされた───







「終わっっっったあ~、、、」


15分に及ぶ死闘の末、漸く敵を倒す事が出来た。

途中までは壊れたロボットのように退却を促す事しかしてこなかったチュートリアルねずみも、敵の体力が10%を切ると応援してくれるようになる。

しかも、それまで分からなかった体力の残数が目に見えるようになる眼鏡をプレゼントしてくれるというおまけ機能付き。

本来であれば数回戦闘シーンを乗り越えなければ手に入れられない装備がここで手に入るのは、中々大きいアドバンテージなんじゃないかと思う。

それを達成する為には約15分の間一度も攻撃に当たらず、且つ隙を見て攻撃を当て続けないといけないから、プラマイで言うとマイナス寄りなのかもしれないけど。

ただ、敵を倒した事で得られるアイテムや武器は序盤では敵無しになるくらい良いものだから、ここで掛かった時間を取り戻してお釣りが来るくらいにはしばらくストーリー進行が楽になる。



カチャカチャ───

「本当にゲームになったんだな、、、」



大都会東京から川を挟んで隣の県。

夜も始まったばかりのこの時間でも外は静かで、部屋の中にはカチャカチャと作業のように淡々とコントローラーを操作する音が響く。

家の中で自社のゲーム機で自分が世界観を作り上げたゲームをプレイしている。

あまりにも考えた事のなかった経験で、まるでこの部屋の中だけ夢の世界で隔絶された、自分しかいない妄想のように感じる。

一歩外に出てしまえばこのゲームも今まで制作に携わってきた時間も全部夢の出来事だったんじゃないかとさえ思う。

それくらい信じられない、擬音で表すならフワフワとした感覚だった。

その感覚に酔いしれているかと言われると、酔いしれられる程の実感はまだ湧いていない。


販売数を見て、レビューを見て、噂を聞いて。

これから何度も実感する為の材料は予期せず飛び込んでくるんだろう。

その度に少しずつ少しずつ、実感が湧いてくるんだと思う。

でも今は。

今だけは。

自分で作り上げたこのゲームを、子供の頃のような気持ちで純粋にプレイしようと思う。

ゲーマーじゃなくゲーム好きの少年だったあの頃に戻った気持ちで、〖scrap rat〗を楽しもう。

今世界でプレイしてくれている同志達と一緒に。

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