17
目が覚めると村津君が目の前にいた。
「おはようございます、高梨さん。」
口調から村津君だということに気づく。少しがっかりする。少し村津君と話しているとどうしても優と話したくなった。確認しておきたかったのだ、優が存在していることを。だからこんな言葉が口から出てしまったのだと思う。
「優、いるかな?」
だから村津君のその時の表情にすら注意を向けることはできなかったんだ。彼は多分苦しんでいたのに。その後の優の言葉に全てかき消されてしまったから。
「なんだ?尚。」
声は一緒なのに全く違う口調に話し方。優だ。ほっとする。優は確かにここにいる。話しているうちに村津君のことすら忘れてしまったようだった。ただ優と話しているのが心地よかったから。だから、優からこんなことを言われるとはつゆとも思わなかった。
「これからは俺が答えている時でも、村津柚慈と話しているということを忘れないでほしい。」
え?村津柚慈?なぜ?自分の表情が固まっているのが分かった。どうしてそんなことを言うんだ、僕が話しているのは君なのに。でも、村津君のことを思えば当然のことだった。実体を持たない優を優先して村津君のことを蔑ろにするのはおかしい、冷静に考えれば分かることだ。それでも、僕は君と話したい。
「頼む。」
優の言葉は強く僕の心に響いた。友人の頼みだ、聞かないわけにはいかない。
「分かった。そうする。」
僕は、喉の奥から絞り出すように声を出す。
「ありがとう。」
「じゃあ、自分の部屋に帰るね。」
僕は立ち上がり、ソファにかけていた上着をきながら村津君に話しかけた。
「あ、はい。」
言いながら村津君が椅子から立ち上がる。どうやら玄関まで送ってくれるようだった。僕は玄関で靴をはく。
「あの、高梨さん。これからも会ってくれますか。」
靴を履き終わり村津君に向き直る。村津君の身長は僕より十センチ程度低かった。だから僕は少し俯きながら答える。
「もちろん。事前に連絡してくれたら大丈夫。君とはいい友達になれそうだ。」
村津君の顔が明るくなる。
「ありがとうございます。では、また連絡しますね。」
「うん。楽しみに待ってるよ。じゃあね。」
「はい。さようなら。」
僕は扉を閉め、自分の部屋に向かうためエレベーターへと歩を進める。そういえば優は僕より身長が少し高かったな、そう考えているといつの間にか自分の部屋に着いていた。
シャワーを浴び、少し眠気が襲ってきたので寝室へ移動する。昨日はソファで寝たので熟睡できなかったのだろう。中途半端な時間であるが少し眠ることにする。ベッドに横になり目を閉じる。瞼の裏に浮かんだのは十年前に見た優の顔だった。
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