⑥
それから僕は間と村津君の三人でコンビニで買ってきたお菓子やジュースを飲食しながら他愛も無い話をした。主に間が話題を他の二人に振るような場面が多かった。間は多趣味であるし、何より話がうまかった。どちらかというと話し下手な僕と、緊張しているのか口数が少ない村津君では相性が悪いと思ったのだろう、間が頑張ってくれたおかげで僕もその場に居づらいとはあまり感じなかった。この大学について話していると、僕の大学時代に話題がついて話がうつった。
「そうそう、高梨は大学の時に大きな事故してさ、確か一年留年したんだよな?」
間が僕に尋ねる。
「休学だよ。お前と一緒にするなよ。」
僕が反論する。
「でもさ、単位を取れなかったのは同じことだろ。実際に同じ授業受けてたんだから一緒、一緒。」
僕と間が言い合っているのを見て村津君の口元が緩む。どうやら緊張がほぐれてきたようだ。
「間先輩と高梨さんはその授業で仲良くなったってことはそれより前はあまり話さなかったんですか?」
村津君が訊いてきた。
「そうだなー。確かにそれより前はほとんど話したことはなかったよな。グループも違ったし、高梨はサークルも入ってなかったよな?」
「うん。何に入ろうか迷ってるうちになんかもういいかなってなって結局入らなかったんだよね。それ考えたらこの授業で会わなかったら僕ら話すことすらなく卒業してて、こうして会うこともなかったんだろうね。」
「なんかすごく運命的ですよね。なんでもないような出会いがこうして何年も続いているって。良いなあ。」
村津君が羨ましそうに僕らを見る。間は少しはにかみながら笑う。
「なんかそう言われたら照れるけど、確かにそうだよな。あの時の出会いに感謝だよ、ほんと。」
「そうだね。」
僕も恥ずかしかったけれど、間の方をみる。本当に良い友達を持ったなと思った。
今日こそは自分の家に帰ると宣言した間が、論文もキリが良いところまで進んだから家に帰ると言うので僕と村津君も帰ることにした。間が続けてどこか居酒屋で飲むかと僕に訊いたが、流石に締め切り前に忙しいやつにそこまで付き合わせることはできない。また今度、暇な時に飲もうと断り、そのまま解散ということになった。僕と村津君は帰る方向が途中まで同じらしく一緒に帰ることになった。間を駅まで送り、二人で並んで道を歩く。
「あの、高梨さん。」
無言に耐えかねたのか村津君が僕に話しかけた。
「何?」
「僕ら、どこかで会っていませんか?」
反射的に村津君を見る。彼は、真剣に僕の顔を見つめ返した。少し考えたけれど、覚えがないので正直に答える。
「うーん‥。僕は初対面だと思う。もしかしてどこかであったことがあったかもだけど、ごめん。覚えてない。」
僕の回答を聞いた村津君がどことなく寂しそうな顔を一瞬したかと思ったが、すぐに元の穏やかな表情に戻った。
「そう‥、ですよね。僕の勘違いでした。忘れてください。」
そう言って誤魔化すように無理やり笑顔を作ったようにして笑う。ふとその笑顔を僕はどこかで見たような気がした。いつかも、誰かも覚えていないけれど、その笑顔はよく知っていたような気がした。困惑した僕に気がつかないのか村津君は歩を進める。それから僕らはほとんど会話することなく帰り道を歩いた。
「じゃあ、僕はここで。このマンションだから。」
僕のマンションに着いたので、村津君に声をかける。えっと村津君が驚く。
「僕もこのマンションですよ。一人暮らしなんです。」
「えっ。マジで。」
今度は僕が驚く番だった。僕は三階で村津君は四階らしい。ずっと同じマンションなのにお互いを知らなかったことがおかしくて二人で笑った。エレベーターで僕が三階で降りる。
「今日は楽しかったよ。また何か機会があったらよろしくね。」
「はい、僕こそお菓子ごちそうさまでした。おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
エレベーターの扉が閉まったのを確認して僕は自室のドアを開け、部屋の中に入る。ソファに座って今日あったことを思い返した。喫茶店に行ったこと、間と久しぶりにあったこと。すごく久しぶりに充実した休日を過ごしたなと思う。ただ、それ以上に村津君と出会ったことの方が僕にとっては印象深いことだった。僕は、自分が高揚していることに初めて気がついた。まるで、長年あっていなかった旧友に会った時のように。
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