第56話 一片
「あのさ、確かに内海だけじゃ頼りないから他にも誰かを連れてきてって頼んだのはウチだよ。でもなんで珠奈さんを連れてくるのさ」
瀬川から恋愛相談に乗った日から数日、土曜日となったこの日、僕は図書室に訪れていた。その時、彼女のいない僕だけだと不安だから他に信用できる友達を連れて来てくれと言われたので、ミナを誘うことにした。
「なんでって、こう見えてもミナには彼氏がいるから先輩としていいアドバイスができると思ったから連れてきたんだよ」
「恭也さん、こう見えてもっていうのは少し失礼ではありませんか?」
僕の紹介の仕方に顔を膨らませて怒るミナをよそに瀬川は頭を抱えていた。
「だからってなんで珠奈さんなんだよ……、普通に話すのだって恐れ多いっていうのに……」
なんでこんなに瀬川はオドオドしているのだろうか。ただの女子高校生にここまでビビっているのはおかしい。
……まさか、
「ねぇ、瀬川さん。ひょっとしてだけど」
僕は声を潜めてそっと言った。
「ミナの正体知ってる感じなの?」
こんな質問を本来してはいけないのは分かっている。これで勘違いだったりしたら問題になるからだ。ただ瀬川の反応を見ているとどうしてもミナのことを知っていないとは思えなかった。
瀬川は僕の言葉に対して黙って頷いた。
「ミナ、このこと知ってた?」
瀬川が萎縮してしまっていることなど気にせず、自分のペースでお茶を飲んでいたミナに確認をする。
「ええ、瀬川さんとは昔交流がありましたから。とはいえ、それは親同士の話であり、私は名前と顔を知っていたぐらいです。まさか、同じ学校にいたとは知りませんでしたけど」
それならそうと早く教えて欲しかった。てっきり、この学校でミナのことを知っているのは僕だけだと……、ん、待ってじゃあ。
「瀬川さんがミナのことを知ってることを千順は知ってるの?」
いつからミナのボディガードをしていたかは知らないので、瀬川のことを認識していない可能性がある。ミナの正体を知った僕を殺そうとしたぐらいだ。それは瀬川にも当てはまる。
「知らないと思いますよ。千順が私のSPを始めたのは私が中学生になった時ですから」
「少し2人とも待ってて、すぐに戻るから」
僕は急いで図書館の入口へと向かった。久志とのデートの時のことを考えるに、十中八九今日もミナに盗聴器を忍ばせているはず。
そう思い千順がこちらの元に向かってくると予想したのだが、予想通り千順は図書館へと入ってこようとしてきていた。
「ストップ、ストップ‼︎」
その後、千順に順序立ててしっかり話したことでなんとか納得してくれた。
*
「まさか、お姉さんまで近くにいるなんて、今日は驚いてばかりだ」
僕が必死になって千順のことを止めている様子を上からミナと見ていたようで、疲れて帰ってきた僕にそう言ってきた。
「千順さんのことも知ってたんだね」
お姉さんって言っていることから、たぶんミナの実姉だと思っているのだろうな。SPをしたのがミナが中学生時代からだとはいえ、千順は小さい頃からのミナを知ってそうだったし、瀬川はどこかでミナと一緒にいるところを見たのかもしれないな。
「詳しい理由は話せないんだけど、ミナの正体については内緒にしててくれる?」
「それに関しては安心してくれ、なんとなくの事情も分かるからな。珠奈さんのこたは絶対に話さないと誓う」
「助かるよ、ありがとう」
とりあえず一安心というところか。恋愛相談の助けになればと思い、ミナを呼んだのが予想外の展開となった。
「確認したいんだけど、他にミナのことを知ってる人はいないよね?」
瀬川のように僕や千順が知らない人がいる可能性もある。今日みたいなことにならないよう知っておけるところは知っておきたい。
「たぶんいないとは思いますよ。幼馴染の2人も龍ヶ崎の性は名乗らず、金山で付き合っていましたから」
「へぇー、幼馴染がいたんだ」
「はい、良い友達でした。中学生の頃までは本当に仲が、良かったのですが高校生になる直前から途端にお二人とも大人びてしまい、いつの間にか疎遠になってしまったんですよね……」
それでミナはいつも1人でいたのか。
「その2人っていうのは?」
「ごめんなさい、こればっかりは恭也さんにも教えられません。お二人からしたら私のことは忘れたかったのかもしれませんしね」
「でも……」
「良いんです。それに私にも新しくお友達が出来ましたからね」
僕の顔を見てニコッと笑う。自分で思うのもなんだが、そのお友達の中には自分も含まれているのだろうと感じる。それに結夏とも仲良くなれている。ミナがこれでいいというなら口を出すのは野暮というものだろう。
「2人で仲良く話しているところ申し訳ないけど、ウチの他にも珠奈さんのことを知ってる人いるぞ」
「誰?」
「博昭」
「上澤さんもこちらの学校だったんですね。うっかりしていました」
おいおい、しっかりしてくれよ。以外と知ってる奴多いじゃないか。
「なんで上澤はミナのこと知ってるんだ?」
「知らないのか? 博昭の家も会社をいくつか経営してる名のある家なんだぞ。まぁ、龍ヶ崎家や御三家には及ばないが」
「ええ、おじいさまも良い取引先だと話しておられました」
「昔はウチの家も博昭ぐらい栄えていたんだけどな……今じゃ落ちぶれてしまっている」
なるほどだいぶ見えてきた。上澤も瀬川も名のある家柄だったから、龍ヶ崎家と関わりがあった。
待て、それじゃあ瀬川の言っていたパーティというのはそういった家の集まりだったってことだろうか。僕と会ったというのもそれほどのパーティだとするならば、僕の家もそこそこ名があったということなのだろうか。
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