親友に1人は嫌だからと巻き添えで高校生をもう一度やり直すことになりました。

第55話 恋愛相談

「それで、さっきの見てたんだよね？」

　見ていないと苦しい言い訳をすることも出来るだろうが、瀬川から逃げようとしてしまった時点でそれも難しい。それならば出来るだけダメージを抑えるべく正直に話す方が良い。

「うん、見たよ。瀬川さんが誰かに告白しようとしてるところ」

「内容まで言わなくていい」

　顔を真っ赤にさせ、口を押さえようとしてくる瀬川を軽くかわす。

「……避けられた」

　何不満そうな顔をしてるのだろうか、明らかに強そうな攻撃を交わさない人なんていない。だって怖いもん。

「瀬川さんこっちに来ちゃって良かったの？」

「ん？」

「だって、誰かに告白しようとしてたんでしょ？　僕が見たところからでは瀬川さんしか見えなかったから相手は分からないけど、待たせてない？」

　再び顔を真っ赤にさせたかと思えば、今度は頬を膨らませ、ぷいっと顔を背ける。

「れ……しゅ、だったし」

「え？」

「だから、あれは告白してたんじゃなくて、その練習をしてたの！　博昭（ひろあき）に言う前にね」

「……」

「あ、」

　ひょっとするとこの子はアホなんだろうか。噂から想像していた人物とは大きくかけ離れている。聞いてもいないのに、恋焦がれている相手を勝手に喋ってしまっているし。

「流石は元学年2位だね……、言葉巧みにウチの好きな人を聞き出すなんて」

　いや、キミが勝手に喋ったんだよ。こればっかりは僕に非はないと思うんだけど。

「まぁ、いいよ。知られて困るようなことじゃないしね」

「そうなんですね」

「無理矢理記憶を飛ばそうと思ったけど、内海には簡単に避けられそうだし、それに内海にバレても大丈夫」

「前半の怖いことを言ってるのは聞かなかったことにするとして、僕のこと信用してくれているんだね」

　初めて話したはずなのに、瀬川からの評価は結構高いようだ。

「そうなのか？」

「いやいや、初めて話したのにすでに一定の信頼があるのって、凄いことだと思うよ」

「初めて……？　ああ、そういうことね」

　えっ、何その反応。まるで話したことがあったみたいな感じなんだけれど。

　どう思い出そうとしても、この学校で瀬川と話した事はなかったはずだ。それは、正史だって同じこと。こんなインパクトのある瀬川と話せば忘れる事はないだろう。

　それなのにこの反応ってことはどこかで話したことがあるってことだろう。一体いつのことなんだろうか。

「ごめん、もしかして今日がはじめましてじゃない？」

　失礼を承知でそんなことを僕は聞く。ここで繕ったとしても後々バレた時のことを考えれば最初から正直に話しておいた方がいい。

「そうか、キミは覚えていないんだね」

「ごめん」

「いや、いいさ。昔一度顔を合わせたぐらいで記憶に残っていないのも無理はないからな」

　とはいえ、瀬川は僕のことを覚えているんだよな。一体どこで出会っていたんだろうか。

「昔っていつぐらいのこと？　教えてくれたら思い出すかも」

「ウチが参加したパーティで会ったとしか言えないな」

「パーティ？　どんな？」

「それはあまり言うなって言われていてな、答えられないんだ」

　どんなパーティで出会ったか知りたかったが口止めされているならしょうがない。それにしてもパーティか……、どれぐらいの規模のことを指しているのかあ分からないから何とも言えないが、僕が何かのパーティに参加した記憶はない。

　中高での体育祭や文化祭での打ち上げは参加したことはあれど、それをパーティというのかも正直怪しい。そもそもそれぐらいのもので口止めされるというのも変だし、一層なんのパーティに参加していたのか気になる。

「本当に覚えてないのか？」

「え、あぁうん」

「そっか、だったらウチのお願いを聞いてくれたら教えてあげてもいい」

「でも、口止めされてるんじゃないの？」

「絶対言うなとは言われてないからな。それに参加者であった内海に言ったところで何も問題はないはずだからな」

　参加したパーティがどんなものであろうと今後の人生に関わることはないだろうが、一度気になってしまったらどうでもいいことも知りたくなってしまうもの。せっかくおしえてくれるというのならそのチャンスは掴みたい。

「それじゃあお願いっていうのは？」

「博昭（ひろあき）って分かる？　上澤博昭（うえさわひろあき）」

「もしかして前回のテストで3位だった？」

「そう！　今回こそは勝ってやると思っていたんだけど、あと少しのところで負けたんだ」

　思い返してみれば、いつもこの2人は上位に名前を連ねていた。お互いがライバル視をしていただけに、瀬川が上澤のことを好きだとはな。

「なるほど、上澤との仲を取り持って欲しいってことか」

「そんなはっきりと言わないでくれ」

　顔を真っ赤にさせながら机をバンッと叩く瀬川。怖いというイメージしかなかったが、意外と可愛らしい一面も持ち合わせているようだ。

「一応聞いておくけど、いつまでに告白したいとかあるのか？」

「いいや、別に決めてはいないけど、早い方が良いかなとは思っている。博昭、意外にモテるから」

　意外というか、勉強も出来て顔もそこそこ良い奴がモテないというのは考えづらいけどな。瀬川が目立っているせいで潜んでいる子もいそうだろうな。

「分かった。じゃあ決行は文化祭にしよう」

「はっ⁉」

「嫌なら別に今から上澤を呼び出してもいいけど」

「それは困る……」

　この手に関してはぐいぐい行きそうなイメージの瀬川であったが、少し話してみるとだいぶ慎重派に感じた。今の関係性を維持するのと、関係性に変化が起きることを天秤にかけた時、明らかに瀬川は関係性の維持を無意識に選びそうである。

　意外と臆病なのだろう。声や態度で虚勢を張っているだけでたぶん心は誰よりも繊細。それが瀬川いずみという女の子。だから自分に自信を持てずにいる。

「普通に告白するよりも文化祭みたいなイベントの方が成功する確率は上がる」

「そうなのか」

　ほら、適当な嘘に信じた。ムードも大事かもしれないが、結局のところ相手が自分を好いているかであるし、根本的な部分ではムードなんて関係ない。雰囲気に流されるようなタイプであれば効果はあるかもしれないが、上澤には効果は薄いと考えられる。堅物だからな……

　とはいえ、臆病な瀬川には文化祭で気分を高揚させた方が、すんなりと想いを伝えられるだろう。だから瀬川という女子だけで考えれば、成功率は何気ない日々よりも行事などの方が高くなる。

「まぁ、僕に任せておいてよ。良いプランを考えてあげるから」

「本当か、助かるよ」

　さてと、文化祭までも時間がないし、いろいろと考える必要がありそうだ。

「でも、内海ってさ。彼女いないよね？」

「……」

　僕は何も答えることが出来なかった。