第2章 新たな依頼は……

第52話 指令2

「それじゃあ、さっそくだけど文化祭も近いことだし、何をしたいか話し合ってね」


 2学期始まって早々、担任の石澤先生により文化祭の説明が行われた。説明と言っても開催日時とどんな店を出すか決めた後ちゃんとプロットを出すようにと言われたぐらい。


「じゃあ、ここからは2人にお願いするね」


 2人というのは文化祭実行委員である渡会と根本。あらかじめ委員会のメンバーで話あった思われる内容を説明し始めた。


「先生からもあったように今年の文化祭は10月1日と2日の土日に開催です。来週の月曜日までにプロットを出さなければならないので、この時間で何をやりたいかを決めたいと思います。他のクラスと被った場合は抽選になるみたいだから、第三希望まで考えようかな」


 渡会の説明を聞き、クラスメイト達が各々にやりたいことを提案していく。


「お化け屋敷で良いと思う」

「いや、せっかくなら劇をやりたいな」

「喫茶店でも良いと思うけど」


 様々なアイデアが飛び交う中、僕は違うことを考えていた。文化祭に興味がないというわけではないが、1度経験していることなので、この先の展開は分かっている。僕や久志が変に口を出さなければ、このクラスはお化け屋敷をやることになるはずだ。


 別に僕はお化け屋敷で良いというよりももはや楽しめれば何でもいいと思っているので、クラスに任せようというのは昔から変わっていない。久志も特に何か意見を言うこともなく、クラスで出た意見に対して頷いているぐらいだ。


 なので話合いはクラスに任せ僕は自分のやるべきことを考えているのだ。僕のやるべきこと、それは謎野から来た新たな指令だ。


『今日の放課後、2階の会議室に来ること。そして、窓から下の様子を見ること』


 とまあ、今回も具体的なことは教えてくれず、曖昧な感じになっている。前回の障害物リレーのこともあるが、何故1回で全部を教えてくれないのだろうか。1度にすべてを言ってくれた方がお互い楽だと思うんだけどな。


 あの時だって、『借り物競争のところで決められた紙を取れ』としか書かれていなかったのに、結果的に龍ヶ崎家の問題に関わる羽目になった。確かに初めから龍ヶ崎家のことを話されていたら渋ったかもしれないが、結局従わなければ元の時代に戻すと脅されていたわけだし、どの道協力していたはずだ。だったら最初から話してもらった方がこちらの気持ちも楽になるというのに……


 そんな不満を謎野に言ってやりたがったのだが、こちらからのメッセージは完全に無視を決め込んでいるようで、いくら送信しても返事は返ってくることはなかった。それはつまり、言われたことだけをやっていろということなんだろうな。


 どうせ指令に逆らうことはできないんだし、今は与えられた指令の意味を考えるとするか。僕は再び送られてきた指令を思い出し、何が起きるかの予想をしておくことにした。


 窓から下を見ろというのは、会議室から見えるのは校舎裏であるから、そこで何かが起きるということなんだろう。問題なのは今日のという部分。今日は午前中で授業が終わるため、放課後がいつもより早いということ。時間指定されていないので、下手すれば授業が終わってから長時間見張ることになってしまう。


 まぁさすがにそれはないだろうけど、1,2時間は覚悟した方が良いかもしれない。時間を書かなかったというのは謎野にとっても正確な時間が分からないということだろうし、気長に待つしかない。


 帰りのHRが終わるのが大体12時30分ぐらいだし、その後すぐに会議室に行けばいいか。別に今日はバイトも入ってなければ、久志との勉強会の予定もない。これを幸いと言っていいのか分からないが、時間は十分にあるからな。校舎裏の方に意識を向けながら本でも読んで過ごすとしよう。


 もしミナに危険があるのなら最初からミナの近くにいろみたいな指令が来るだろうし、そこまで大きなことに巻き込まれることはなさそうだし、そこまで気は張らなくてもいいはずだ。ミナも今日は予定があるようだし、千順と一緒にすぐに帰るだろうからな。


「それじゃあ、そろそろ時間だから自分がやりたいと思うものに手を挙げてもらおうかな」


 気づけば黒板には複数候補が書き並べられており、多数決で何の店をやるかを決めるタイミングになっていた。


 僕は当時何に手を挙げていたのかを思い出し、それ通りに手を上げることにした。僕の1票で何かが変わるわけもなく、僕のクラスの第一候補はお化け屋敷となった。


 やはり、余計なことをしなければ未来は変わらないのかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る