第50話 デートプラン

 土曜日、この日は久志がミナとデートする日だ。


 喫茶店で千順と別れた後、僕はすぐに久志を家に呼び出した。その日は部活もなく、家で過ごしているのが分かっていたからな。


 そしてデートプランを一緒に考えることにした。まず主軸にするのが、ミナが見たそうにしている映画だ。


 千順からミナが好きな映画はどれだろうかと調べたところ僕に紹介されたうちの一つであったので、すぐに見つけることができた。公開日も最近であったため、上映時間も複数ある。


 心配であったのは、ミナがすでにその映画を見に行ってしまっていることだったが、その辺は大丈夫らしい。


 千順曰く、最近忙しくて映画を見に行ける余裕がなかったらしい。それならばと、デート当日までミナがその映画を見に行くことがないようにしてほしいと頼んである。だからこそ、僕は安心してその映画を見ることをプランに入れられるということだ。


 そしてもう一つの問題はその映画化された小説は単体でも楽しめるとはいえ、シリーズものだったため、それまでの話を知っていた方が楽しめるというところにあった。そして久志は本を読むのが好きではない。


 この2つの問題が生じてはいたが、それはすでに解決した。こちらには莫大な本の数を誇る夕才高校の図書館と、久志の部活動の予定表がある。


 土曜日までの数日、久志を僕の家に閉じ込め、小説を読ませた。最初は凄く嫌そうにしてたが、ミナとデートをするためだと諦めたようで、頑張って読み切った。とは言っても300ページの本2冊分だけなんだけどね。


 今回映画化されたのは3冊目だからそれは読ませていない。先に内容を知ってしまうより映画を見た方が純粋な感想を話せると思ったからだ。


 2冊読み切ったところで、僕は借りて来ていたDVDを見せた。なんの内容かって? それはもちろん久志がこの数日読んでいたものだ。DVDがあるなら最初から見せろと久志は怒っていたが、ミナとこれからも付き合うなら本が嫌いなままだと困るからな。多少の苦手意識だけは消したかったんだ。


 だが、これで映画の方の問題は解決した。あとはこの映画の時間を決めるだけ。


 そしてその時間は16時からのものにした。その理由としては映画を見た後、そのまま夕食の時間に持っていくことで、夕食中に会話のネタが無くならないと考えたからだ。


 完成したデートプランはこんな感じだ。


14時 駅前の時計台の下で待ち合わせ。その後映画の時間まで映画館もあるショッピングモールで買い物。

15時半 映画館に到着し、グッズを見たり、飲み物を買ったりする。

16時 映画上映開始。(110分)

18時半 近くのレストランで夕食を済ます。

20時 解散


 ってな感じだ。できるだけボロが出ないようにデートは午後からにしている。時間が長ければいいってもんじゃないからな。


 僕と久志の中ではだいぶ良いプランだと思い、久志にバレないようこっそり千順にRIMEを送った。


 『別にまずくはないけどさ……』と返信が来て、なんとも微妙な反応だった。しょうがないだろ、僕デートしたことないから実体験がないんだよ。


 それでもNOと言われなかったから、まあ実行しても良いとのことなんだろうけど。


 とまぁ、こんな風に紆余曲折ありながらも無事デートプランが出来、当日を迎えた。ここからはあとは当人たちの問題。どうなろうと僕はサポートすることはできない。


 僕は久志に『頑張れよ』とのRIMEを送り、デートが上手くいくよう検討を祈った。デートの後にでもどうだったかを聞くとしよう。


     *


 午後1時50分。久志は待ち合わせの時計台の前にいた。ミナを待たせるのだけはだめだと分かっていたのか、ちゃんと集合時間よりも早く来ていたようだ。


 そんな久志の元へ、アイスシルバーの髪をたなびかせた少女が近寄ってくる。ただ、ここからじゃ遠すぎて2人の会話までは聞こえない。表情だけで想像するしかないな。


 そうは言ってもサングラス越しでは表情の変化も見にくいな。二人はどんなことを話しているのだろうか。


「珠奈様のバッグに盗聴器をつけている。これなら会話も聞けるぞ」

「ありがとうございます」


『今日私とても楽しみにしていました』

『俺もだ』


「凄いですね。はっきりと聞こえます……ってなんで千順さん、ここにいるんですか⁉」

「それはこちらのセリフだ」


 ちゃんと変装したはず。普段着ないような服や帽子、そしてサングラスまで掛けた。なんで僕だとバレたのだろうか。


「恭也も2人のことが気になって尾行していたのか」


 いくら2人だけの問題とはいえ、このデートプランは僕も考えているのだ。ちゃんと上手くいくのか心配になっても無理はないだろう。


「それは千順さんもですよね?」

「ああ、もちろんだ。SPとして仕事もあるしな。一応いつでも助けを入れられるところにはいるつもりだったからな」


 龍ヶ崎家とは名乗っていなくてもいつ狙われてもおかしくはないもんな。SPである千順が近くに待機しているのは普通のことか。


「それにしてもよく、ミナは盗聴器なんてOKを出しましたね。いくら身を守るためだとはいえ、デート中ぐらいは嫌だというもんだと思いましたが」

「もちろん黙ってつけているに決まっているだろ」

「え~~」

「ほら行くぞ。尾行するなら一瞬も目を離すものじゃないぞ」


 え、僕、千順と一緒に行動するの⁉

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