第41話 失う辛さを知っているから
「おい、どこまで行くんだ?」
「いいから、黙ってついてきて」
夏休みに入ってすぐ、長嶺から夏祭りに行こうと連絡がきた。初めは夏祭りなんてめんどくさかったし断ったていたのだが、ついには脅してきたので渋々従うことにした。
まったくいくら計画のためとはいえ、俺を酷使しすぎじゃないだろうか。これで俺を生徒会長にしてくれなかったら計画すべて恭也にばらしてやるからな。
「そっちに何があるんだ?」
「黙ってついてきてって言ってるのに……、花火を見るんだよ」
「花火だぁ? なんで俺がお前と見る必要があるんだよ」
「あたしだって、楠本くんと見るぐらいだったら恭也くんと見たいよ」
「だったらなんで俺を誘ったんだよ」
コイツの考えていることがまるで分からない。どう考えても計画とやっていることがまるであっていない。
「ほら着いたよ」
「ここで見るのか?」
辺りを見回すが、誰も人がいない。こんなところで花火が見えるのだろうか。花火が見える場所ならもう少し観客がいてもおかしくはないと思うが。もしかして、他に目的があるのか。
計画の全容を教えてくれているわけではないので、情報を得るには長嶺の行動を見逃すことができない。しばらく観察して様子を見ていると、長嶺は携帯で誰かと連絡を取っていたかと思えば、突然ふらっと歩き出した。
「おいどこに行くんだ?」
「用件は済んだからね。もう自由にしていいよ」
「は?」
「じゃあね~」
結局アイツは何がしたかったんだよ。さんざん俺のことを連れまわしたかと思えば、こんなところに置いていくし。
「どうすっかなー、ほんとに」
一人で花火を見るっていう柄ではないし帰るか。俺が来た道を戻ろうとすると、前から誰かがやってくるのが分かった。
「なんだよ、戻ってきたのか?」
「へぇ?」
「え、なんでここに⁉」
長嶺が帰ってきたかと思えば、やってきたのはミナだった。
「花火を見に来たんですよ」
「1人で来たのか?」
「いえ、先ほどまでは恭也さんと一緒にいました」
恭也の名前を聞いて胸が痛くなった。あの体育祭の日から自然と俺は恭也のことを避けていた。もちろん恭也のことが嫌いになったわけじゃない。俺がダラダラとしているうちに、ミナがアイツの良いところに気づいてしまっただけのこと。それで恨むというのは違うからな。
「それで恭也はどこにいるんだ?」
「もう帰りました」
「はぁ~?」
なんだアイツ、デートに来てたんじゃないのかよ。こんなところに彼女1人置いて帰ったのか? いや、アイツのことだ。それはない。
「楠本さん、よければ一緒に花火を見ませんか?」
「別にいいけど……」
ミナは柵の方へと歩いて止まった。どうやらそこがベストポジションのようだ。
「楠本さん、どうです私の浴衣は?」
「……とても似合ってるよ。似合い過ぎて顔が見れないぐらいだ」
「似合ってるのに顔が見えない? おかしな話ですね」
クスクスと笑うミナに俺は目を合わせられない。体育祭の一件で俺は気づいてしまっているからだ。俺はミナのことが好きだと。
「そんなにキョロキョロしてどうかしたんですか?」
「いや、恭也のやつが近くにいないかってな」
「どうして恭也さんが?」
どうも1人で帰ったとは信じられないからな。ケンカしたとかで一時的に離れているだけで、案外近くで様子を見ているんじゃないかって思ってしまう。
「いや、だって恭也と付き合ってるんだろ?」
「誰がですか?」
「誰って……」
会話が嚙み合わずお互いに首を傾げる。するとミナはポンと手を叩いた。
「そうでした、楠本さんに伝えなければならないことがまずありました」
「伝えなきゃいけないこと?」
「はい、体育祭でどうやら勘違いをしていたみたいなので」
体育祭? 勘違い? なんのことだ?
「私と恭也さんは付き合っていませんよ」
「はぁ? じゃああの告白は」
「あれは恭也さんに向けたものではありません。ただ練習に付き合ってもらっていただけです」
練習? じゃああれは俺の勘違いってことか……。その言葉を聞いて俺はどっと力が抜けた。
「大丈夫ですか?」
なんだ良かった。後悔しないんで済むんだ。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと驚いただけさ」
「なら良かったです」
俺は自分の気持ちにこれ以上嘘はつけない。そう思っていると自然に口から言葉が漏れた。
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
「ええぇ?」
ミナは俺の突然の告白に手をパタパタとさせ、困惑しているようだった。
「本気で言っているのですか?」
「ああ、本当だ。二度と離したくない」
「少し告白にしては重い気もしますが」
ただ俺にとっては嘘偽りのない言葉だ。俺は2度も後悔をした。恭也にミナを取られたと思ったとき、そしてミナが俺の前からいなくなった時。
「ちゃんと私のことを好きで居続けてくれますか」
「ああ、約束する」
「私の家族が厳しくても大丈夫ですか?」
「ああ、頑張って認められるようになる」
「私の気持ちを受け止めてくれますか」
「ああ、受け止めてやるさ」
どんな辛いことが待っていようと構わない。ミナを失った気持ちに比べればなんともないさ。
「じゃあ、久志さん。こちらこそお願いします」
いつの間にか花火の音が鳴り響いていたことに俺たちは全く気づきもしなかった。
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