第18話 指令1

 一緒に夕食を食べている時にふとテストの順位を思い出した。


「そうだ、学年9位おめでとう」

「ありがとう。これも内海くんが色々と教えてくれたおかげだよ」

「そうは言ってもほとんど基礎的なことしか教えてないよ」


 高い順位を取れたのは長嶺の飲み込みの早さが異常だったからだ。普通はあんなに早く理解できないだろう。


「それがあたしにとって良かったんだよ。だからね、次回のテストの時も勉強教えてもらってもいい?」

「僕は全然構わないよ。教える側も勉強になるしね」


 鶴井とのテスト勝負もあるからな。本気で勝負するかは別として、しっかり勉強はしといた方がいいだろう。


「そうそう、沙織ちゃんのことだけど……ごめんね」

「どうして長嶺さんが謝るの?」

「あたしが沙織ちゃんに内海くんと勉強会したことを話しちゃったから……。それで内海くんが手を抜いてるって勘違いしちゃったみたいで」

「別に長嶺さんが謝ることじゃないよ」


 それに手を抜いていたのは事実だし。こう謝られてしまうと罪悪感を感じる。


「沙織ちゃんも悪い気があるわけじゃないんだよね。ただもの凄い努力家だから、能力があるのにそれを使わないことが嫌いなんだよ」


 鶴井が努力家だって? あんな涼しげな顔で学年1位を取りまくっていたあの鶴井が?


「だからね、内海くんが手を抜いたんじゃないかって思った勢いで押し掛けに行っちゃったみたい……。沙織ちゃんもあの後冷静になったみたいで反省してたんだよね。だから沙織ちゃんのことを許してほしいなぁ」

「許すも何も僕は元々気にしてないから平気だよ。ただ急なことで混乱しただけだし」


 急に怒ってきて、勝負を吹っ掛けてきて、混乱はすれど、鶴井に対し不思議と怒りは湧いてこなかった。それは図星だったからっていうのはあるかもしれないけど。


「良かった……。沙織ちゃんと内海くんが仲が悪くなったらどうしようかと思ったよ」

「仲が悪くなったらっていうけど、元々話したこともなかったけどね」

「その間にいるあたしがしんどいよっていう話だよ。今日ここに来るのも……」

「もしかして、今日急に来たのは鶴井さんのことを話したくて来たの?」


 長嶺はコクリと頷いた。友達想いというか本当に優しい子だな。体育祭練習で同じく疲れているだろうに、鶴井のためにここまでやってくるのだから。


「ありがとうね、長嶺さん」

「なんで内海くんがお礼を⁉」

「なんとなくだよ」


 もし、鶴井よりも先に出会っていたら……、もし、この長嶺の一面を早く知っていたのなら、僕は彼女を好きになっていただろうな。


「内海くんって、少し変わってるね」


 長嶺はクスクスと笑った。


     *


「それじゃあ、見送りありがとう」

「また学校でね」


 暗くなってきたこともあって、僕は長嶺を家の近くまで送り届けた。長嶺の家までは歩いて10分もかからなかった。


 最初こそは見送りはいらないと言っていたが、さすがに体育祭の練習で疲れているだろうし、何かあっても困る。家の近くまでということで長嶺から了承を得た。


 家に戻ってきた僕は郵便受けを覗いた。電話で言っていた通り、中には一枚のカードが入っていた。


―――――――――――――――――――――――


【指令1】

『体育祭当日、障害物競走の借り物選定にて、一番左の紙を引くこと』


・この司令のことを他人に話してはならない

・借り物の内容には必ず従うこと

・余計な詮索はしないこと


以上のルールを守れなければ、楠本久志とともに未来へ送還する。


――――――――――――――――――――――


 指令1と書かれているということは、今後も指令を出されるのは間違いないか。とはいえ、こちらには選択の余地はない。


 守らなければ、今の生活が奪われる。



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