第28話 龍ヶ崎家
この国で一番敵に回してはいけない一家。それが龍ヶ崎家である。そしてその現当主が龍ヶ崎吾郎である。
彼の持つ権力は非常に強力で、この国を自由に動かせてしまうとさえ言われている。
龍ヶ崎家がこの国を動かすほどの力を持っている反面、後継者争いが絶えない。ほとんどの分家は力のある分家の隷属となったり、酷い場合にはその家ごと消される。そのことはあくまで噂であり、多くの人が冗談半分に思っていたが、10年以上前に、龍前家が潰れたことによって真実味を増した。
龍前家は先ほど挙げた2つの家と並び立ち、かつては御三家とまで言われていた。その龍前家が突然力を失ったことで噂は本当であったのだと誰しもが思った。龍前家が潰れた背景にはなんでも、龍前家の当主とその妻が殺され、その子供も未だに消息不明らしい。
犯人は捕まったようだが、動機は龍前家への恨みによるものだと自供していたらしく、他の分家が関与していたかさえ分からなかったらしい。
そのような事件があったのも僕が幼い頃のことだし、知っていることはテレビでやっていたドキュメンタリーで得たことだけだ。それ以上のことは知らない。そもそもそのドキュメンタリーすらすべてが正しいかさえ確かめる方法はない。
ただ1つ、確かなことがあるとすれば、目の前にいる金山はあの龍ヶ崎吾郎の孫であるということだけ。それを不幸にも知ってしまった僕はどうなってしまうのだろうか。
僕は背後に現れた2つの気配への対処方法を考えるが、どう頑張っても逃げることは無理だろう。金山が龍ヶ崎吾郎の名前を口にするまで一切気配を感じなかった。それはイコール今までも金山の側にはこの2人のSPのような人たちが常に監視していたということだ。
「内海恭也……いや」
「下がりなさい」
SPが僕の肩に手を乗せ、今にも連れて行こうとした時、金山の鋭い口調がSPに向けられた。
「彼は私の友人です。手を出すことは許しませんよ」
「いや、しかしですね。この者はあなた様の素性を知ってしまった」
いや別に僕が暴いたわけじゃないんですけれど。勝手に金山がしゃべっただけですけど。そう言ってやりたがったが、どうもそういう雰囲気ではないので黙っておく。
「いいのです。彼は信用できる方です。それに私が勝手に本名を伝えたのですから、それで彼を拘束するのはあまりに理不尽ではありませんか」
「それはそうですが」
「いいからあなた方はもう下がってください。これ以上騒ぎになって人が集まってしまう方が、おじいさまにとって都合が悪くなることではありませんか?」
金山の圧に押されたのか、それとも龍ヶ崎吾郎への不利益を考えたのかは分からないが、SPたちは「分かりました」とだけ残し、姿を消した。
SPの姿が見えなくなると、ふぅーと息を吐いて金山はカップに入ったお茶を1口飲んだ。そのような光景を見て僕が金山に対して思ったことは
「本当にお嬢様だったんだ……」
であった。驚いたように目をパチパチさせる金山。
「こんなことがあったのに、最初に出た言葉がそれですか?」
SPに向けた口調から、いつも僕へと話す優しい声に戻ったことでホッとした。
「そう思っても仕方ありませんじゃないですか。SPの方まで護衛についていたのですから」
「内海さん、その敬語気持ち悪いのでいつも通りにしゃべってくれませんか?」
「いや、変な口のきき方をしたら、今度こそ殺されるかと思って」
金山は僕の敬語をお気に召さなかったようで、ジトーっとした目で僕を見てきた。
「大丈夫ですよ。あの2人が動くのは私に生命の危機に陥った時だけです。口調ぐらいでいちいち出てこられたらめんどくさいじゃないですか」
「それなら安心だよ」
敬語もやめてくれと言われたことだし、今まで通りのしゃべり方で金山と接することにしよう。
「それで、なんで金山さん……龍ヶ崎さんは旧姓の方を使ってるの? おじいさんの言いつけとは言ってたけど」
「えっと、名前の方は金山と呼んでくれるとありがたいです。それと、旧姓を使っている理由としてですが」
「それは私から話しましょう」
また出た。気配も無しに突然現れるものだから心臓に悪い。というか金山の話では生命の危機以外では出てこないんじゃなかったの。
「もう勝手に出てきて」
金山は呆れたような口調であったが、それでもSPは戻る気はなさそうだ。
「恭也様は珠奈様の秘密を知ってしまわれた。であるならば、この先幾度となく私たちの争いに巻き込まれることになるでしょうから、しっかりした説明をしといた方がよろしいでしょう」
「分かりました。では、話してあげてください」
「畏まりました。これは今から1年半前の話になります」
え、なんか長くなりそう……。弁当食べる時間あるかな?
現在の時刻は12時30分。競技開始まで残り30分。
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