第27話 校舎裏にて
3年生の全員リレーが終わり、午前の部の競技が全て終了した。
少しばかり予定時間を押しており、休憩時間の変更を知らせるアナウンスが響いた。休憩時間は13時までと大体1時間程で、昼食を食べるには十分な時間がある。だが、僕はというと金山との約束もあるからそうゆっくりもしていられない。
とりあえず、弁当の入った袋だけもって向かうことにした。金山の相談というのがなんであるかも分かっていないし、時間もどれぐらいかかるか分からない。すぐに食べれるように昼食は持っていって置いたほうがいいだろう。
本当は金山のところへ行く前に久志と話しておきたかったが、障害物競走が終わってからというもの、こちらに目を合わせてくれない。
ああなった久志は頑固なので、今は距離を置いておくことにしよう。あの反応的に嫉妬なんだろうな。僕が金山と仲良くしている姿がなんとなく気に入らなかったのだろう。今何か言ったところで久志は聞いてくれないだろうし、時間が解決してくれるのを待つしかない。
となれば、まず僕が片付けなければならないことは金山の件だ。久志の方は金山の方が終わってからでもいいだろう。
休憩時間に入ってすぐに校舎裏に向かったつもりだったが、すでに金山は来ていた。それどころか、
「来てくれたんですね、内海さん」
金山は弁当を広げ、座って待っていた。もちろん地べたに座っているわけではなく、レジャーシートをしっかり敷いている。
それに加えて折りたたみ椅子、折りたたみ机まで揃っている。さすがに準備が良すぎる。学校の体育祭で用意するようなものじゃないだろ。
「どうしたのこれ?」
「大丈夫ですよ、学校の方にはちゃんと許可を得ていますよ」
「そう……」
校舎裏には似合わないものばかりで、異物感を強く感じる。ここまでの道具を用意しているのはこの学校で金山ぐらいだろう。
「もちろん、内海さんの分も用意してありますよ」
金山が座っている反対側にも椅子が置いてあり、そこに座るよう促される。このまま立ち続けるというのも変だし、ありがたく座らせてもらった。
「去年もこんな風に食べてたの?」
「ええ、そうなんです。私としてはここまでやる必要はないと思っているのですが、レジャーシートの上だとしてもそのまま座ることは家の者が許してもらえなかったので……」
「それは厳しすぎるような……。というより金山さんってひょっとして良いとこのお嬢様だったりするの?」
今まで金山には気品が良すぎるように感じていたが、ここまで厳しいとそう感じてしまっても無理はないだろう。
「内海さんが考える良いとこ、というのはどれぐらいか分かりませんが、そこそこに家の名前は有名ですね」
「そうだったんだね。いろいろ合点がいったよ」
やはり金山の気品の良さはしつけの厳しさからきているものだったのか。しゃべり方も誰に対しても丁寧だったし、門限が早かったのもそれが理由か。
「いつから私がお嬢様だと思ってたのですか?」
「初めて会った時からだったよ。この学校自体そういう人が来ていてもおかしくはないからね」
話したことはないが、誰もが知っている企業の息子がいたりなど少数ではあるが、どの学年にもそういった人たちがいる。
「ただ、金山という名前は聞いたことがなかったから半信半疑だったけどね」
僕の知る限りでは金山という苗字で有名な人は聞いたことがない。一度でも目にしていれば覚えていそうだが、ニュースとかでも聞いたことがなかった。それに誰一人として金山がどこかのお嬢様だという話をしていることすらなかった。
「知らないのも無理はありません。そもそも、金山というのは私のお父様の旧姓なんです」
「旧姓?」
「はい、お父様は婿養子として、お母様と結婚したので、名前が変わったんです」
別に苗字が両親のどちらのものなのかは大した問題ではない。なんで金山が急性の方を名乗っているのかの方が気になってしまう。単純に離婚したとかそういった理由なのか。ただそれだと、未だに金山が家の指示に従って動いている理由にはならない。
「勘違いしないでくださいね。別に離婚したとかで、名前が変わったわけではありませんから。両親どちらとも健在ですし、とても仲良しですから」
「それならどうして旧姓の方を名乗っているの?」
「おじいさまの言いつけなんです」
何故か嫌な予感がしてくる。もしこの続きを聞いてしまったら後には引き返せないそんな予感が。
「金山さんもう話さなくてい」
「私の本当の名前は、龍ヶ崎珠奈」
僕の制止が金山の耳には届かず、金山の口からボロボロと情報が零れだす。
「私のおじいさまは、龍ヶ崎吾郎です」
聞きたくなかった……。僕は生きて帰れるのだろうか。背後に現れた2つの気配に対してどう逃れようか。
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