第23話 図書室再び

 明日はいよいよ体育祭。テスト期間が終わってから毎日のようにあった放課後練習は、設営準備や委員会活動などで今日は行われない。


 本番は明日だというのに前日に無理をして、怪我をしたりしたらもったいないないし、練習がないことはちょうど良かったのかもしれない。


 部活や委員会にも所属していない僕は暇となったわけで、そうなったときの僕の行き場所は決まっている。部活で忙しそうにしている久志を置いて僕は教室を出て行った。


    *


 ここに来るのは久しぶりだ。放課後に練習があったせいでなかなか来る時間が作れなかった。僕は読み終わった本を持って、図書館にやってきた。


 返却手続きをした後、本を一冊も選ぶことなく、僕は3階にある読書スペースへと真っ先に向かった。図書館に来れなかったこともあり、最近は直接会えていなかったからな。


 待ち合わせをしていたわけではないので、確実にいるという保証はないが、辺りを見回せば、すぐに見つけることができた。僕がそちらの方へと近づいていくと、相手もすぐに気づいたようで、読んでいた本を机に置いてこちらの方を見てきた。


「お久しぶりですね、内海さん」

「そうだね、久しぶり」


 最後に金山と会ったのは期末テストの順位発表の日以来。時々RIMEでやり取りしてはいたが、こうして直接会うのは久しぶりだった。


「もしこの後ご予定がないのであれば、一緒にお話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」

「うん、僕も金山さんと話したいと思ってたから」

「では、5階へ行きましょうか」


 いつもの元気そうな金山でホッとした。あの日金山が僕たちの教室にやってきたのは久志に会いに来たからだった。なのに、その日久志は逃げて教室にいなかったし、落ち込んでいないか心配であった。


 RIMEでは元気そうにしてても実際は分からないし、会ってみて安心した。今日金山に会いに来たのもそれが理由の1つだった。


 5階につくと、お互い好きな本を紹介したり、感想を言い合ったりして時間を過ごしていった。


「明日は体育祭ですね」


 そろそろ帰ろうか、という時間になって金山が体育祭のことを話し始めた。


「同じチーム同士、頑張りましょうね」


 この学校は1学年8クラスあり、4チームに分かれて競うことになる。AB組は赤チーム、CD組は青チーム、EF組は白チーム、GH組は緑チーム。僕たちE組と、金山たちF組は白チームとなり、同じチームとなっている。


「そうだね、お互い頑張ろうね」


 優勝したから、ビリを取ったからといって損得があるわけではないが、せっかくの行事だ、楽しまなければ損だ。こうやって大勢の人数で優勝をかけて勝負するのは高校を卒業すれば機会がないからな。自分が活躍できるかは置いといて、全力で楽しむつもりだ。


 鶴井との練習の成果もあってか、タイムも当時と同じぐらいまで戻ってきたし、足を引っ張ることもなさそうで良かった。


「内海さん、あの‼」


 目の前にある机から体を乗り出し、普段の金山らしからぬ大きな声が響いた。


「どうしたの? 急に」


 いつもと様子の違う金山に驚きつつも冷静に話を聞こうとしたが、


「いえ、やっぱりなんでもありません」


 言いにくいことだったのか、すぐに落ち着きを取り戻し、椅子へと座りなおした。金山がなんでもないと言うなら、こちらから何か聞くのはよくないだろう。


「何か言いたいことがあれば遠慮なく言ってね。いつでも相談乗るから」

 

 久志のことで悪いこともしたし、もし相談されることがあれば全力で協力してあげるつもりだ。


「ありがとうございます。もし、私の中で整理がついたら……その時は相談したいと思います」

「うん、分かった。その時は話を聞くね」


 金山はもう家に帰らなければならないとのことだったので、僕たちは図書館を出た。

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