第16話 謎の電話
「疲れた……」
何故か突然怒った鶴井がやってきたり、体育祭の練習もあったりと、今日は精神的にも肉体的にも、どっと疲れる日だった。体中が悲鳴を上げる中、なんとか無事家にたどり着くことができた。
久しぶりの運動ということもあってか、思うように身体を動かすことが出来ず、何度か転ぶことが多かった。
しっかり準備運動をしておいて良かった。もししていなかったら、軽い怪我では済まなかったかもしれない。
明日から練習も本格的に始まるからな、今日は身体をしっかり休めて明日からの練習に備えよう。
『プルルルル』
突然、携帯が鳴る。誰からであろうかと携帯を見て確認をするが、見覚えのない番号だった。
誰かは分からないが、急用で掛けて来ていたら後々面倒なことになりそうなので、電話に出ることにした。
『内海恭也だな』
その声は明らかに人の声ではなかった。変声機を使って声を変えているのだろう。
「誰?」
『まだ、キミに名前を教えるわけにはいかない』
なんだコイツは。急に電話を掛けてきたかと思えば、名前も名乗りもしないとは。どう考えても関わらない方が良さそうだ。
『おっと、電話を切るのは止めた方がいいぞ』
電話を切ろうとしていたのが分かったようで相手は先手を打ってきた。
「切ったらどうなるの?」
『元の時代に強制的に返還する』
「は? どういうこと?」
『内海、そして楠本久志。キミたちは“ミネサヴァ”を使ってこの時代にやってきた』
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なんでコイツはそのことを知っているんだ。
『なんで私がそのことを知っているのか不思議なようだな』
電話の相手は僕の心を見透かしているようだ。
『この時代にお前たちを送った、つまり“ミネサヴァ”を与えたのは私なのだから、知っていて当然だろう』
「ということは、あなたが70歳のおじいさんか」
『え? 70歳?』
淡々と話していた謎の人物が初めて動揺をあらわにした。
『あいつ、私のことなんて説明したんだ』
「あいつ?」
『いや、こっちの話だ。なんでもない』
あいつというのは久志のことだろうか。ミネサヴァを持ってきたのは久志だったし、それ以外には考えられないか。ただそれよりも、気になることがある。
「それで強制的に送還するってどういうこと?」
『そのまんまの意味だ。私の要望に応えてくれなければ、元の時代に返すだけだ』
久志が言うには元の時代には戻れないとのことだったはず。
『ただ、戻すだけじゃないぞ。当然ながら、この時代での記憶は抹消させてもらう。つまり、ここ3週間の苦労は無に帰すということだ』
それはつまり、久志も僕も何も得られずに元の時代に帰ることになる。しかも記憶さえ残らない。それでは、この時代に戻った意味がなくなる。
「それで要望っていうのは?」
『話が早くて助かる。内海恭也、キミには私の協力者になってもらおう』
「協力者?」
『ああ、これから一年、私はキミに対して指示を出す。キミはそれをこなしてもらうという簡単なお仕事さ』
……一年。この言い方だとこれから何度もコイツの命令を聞かないといけないということだ。
この時代で過ごす利点を人質に取られているとはいえ、素直にコイツの話を聞く必要はあるのか。
『私の力を疑っているようだな』
「それはそうでしょ。いきなりこんな電話をもらって、協力者になれって言われてもね……」
『キミは過去をやり直せる。私は協力者を得られる。とてもWin-Winな関係だとは思うがね』
「……」
僕が何も言えずにいると、『ピンポーン』と来訪者が来たことを伝えるチャイムが鳴り響いた。
『そうだね、だったら私の力を見せてあげよう』
僕が来訪者の確認をしようとすると、電話口からそんな言葉が聞こえた。
『キミの家に来た人物を当てようじゃないか。ずばり、長嶺結夏くんだね』
まさか、と思いつつ、のぞき穴で確認すると、電話の主の言う通りやってきていたのは長嶺だった。
『どうだね、当たっていただろう。どうだ、これで信用してもらえたかな?』
「いや、僕の電話番号を知ってたぐらいだ。家の場所もどうせ知っているはず。どこからか見張ってるんじゃないのか?」
訪ねてきたのが誰かぐらい当てようと思えば当てることができる。
『うーむ、キミもなかなか疑い深いね。それじゃあ、いいだろう。長嶺くんの来訪の目的を当てようじゃないか。キミに夜ご飯を作りにきたはずだ』
そんなまさかと思いながらも僕は、玄関の扉を開けた。
「やっほ~内海くん」
「今日はどうしたの?」
「この前勉強しに来た時に、料理を振る舞ってあげるって言ったじゃない? それで今日が良いかなって思って来ちゃった。体育祭の練習で辛そうにしてたし、ごはん作るの大変かなって思ってきたんだけど、お邪魔だった?」
「いや全然。ただ、ちょっと散らかってるから、ちょっと待っててもらっていい?」
「うん。急に来ちゃったし、待ってるね」
「ありがとう。そんなに時間はかからないと思うから」
僕は扉を閉め、携帯を耳に当てる。
『どうだ、言った通りだっただろう? 私は未来を見通すことができる』
コイツは神様かなにかなのだろうか。長嶺が食材をもってたりしていたら、料理を作りに来たと予想できるかもしれないが、長嶺は何も持っていなかった。
それに長嶺の料理の件は久志にしか話していない。この時点で、他人が知る由もない。
「僕に何をしてほしいの? 目的はなに?」
『最終的な目的はまだキミにも教えることができない』
「そうですか」
『嫌そうにするなよ。そもそもお前らが余計なことをしなければ、こんな早くに動く必要はなかったんだ。こうして接触するのももう少し後にするはずだった」
余計なこと? 一体なんのことだろうか。この世界に来て変わったことと言えば僕と久志、そして長嶺の順位の変動ぐらいだと思うが。それがコイツの余計なことなのか?
『時期が来ればちゃんと教える。まずは、キミにやってもらいたいことを伝える』
「分かった」
どんな無理難題を告げられるのかと覚悟したが、謎の人物から告げられたことはあまりにも拍子抜けするような内容だった。
『体育祭当日、障害物競走の借り物競走にて、一番左の紙を引くこと』
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