3章 過去は目まぐるしく変わる
第14話 出会う日は変わらない
長かった期末テストも無事終わり、僕たちは順位が発表されるのを静かに待っていた。
12教科のテストは午前中のうちに、すべて返されたため自分たちの点数はすでに知っている。僕はというと1200点中1021点と大体だが、狙った通りの点数が取ることができた。
久志も784点と、7割以上を取ることが出来なかったけれども、まずまずの点数となった。正確な平均点は発表されてはいないが、一番低かった教科である英語でも52点となんとか半分を超えることが出来ていたので、赤点は無事回避することができていた。
これで100位以内に入れていれば良いのだが、7割を取ることが出来なかったことでそれも厳しく思える。次のテストで100位に入れるかは今後の頑張り次第といったところかな。
校内にチャイムが鳴り響いたことで、A組から順番に自由時間となった。全クラス一斉に自由とならないのは混雑が予想されるからだ。順位表は1週間張り出されていて今すぐ見る必要もないが、結果は早く知りたいところ。
多くの生徒がまず順位の確認をしにいくのだろう。チャイムから15分ほど経った頃、僕たちのクラスもようやく自由時間となった。
さてと、僕と久志の順位は何位だろうか。僕は1位から順に順位を確認していった。
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1位 E組 鶴井沙織 1168点
2位 A組 鬼龍瑠依 1154点
3位 B組 上澤博昭 1107点
4位 B組 瀬川めぐみ 1098点
5位 D組 平井康人 1072点
6位 C組 大鳥静華 1064点
7位 F組 新井篤人 1055点
8位 A組 馬場慎之介 1054点
9位 E組 長嶺結夏 1034点
10位 E組 内海恭也 1021点
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「良かった……」
狙い通りの順位が取れていて安堵の声が漏れた。やはり長嶺は上位に食い込んできたか。11位の点数が1014点と7点差であったので少し高い点数を取っておいて正解であった。
まさか本当にトップ10に食い込んでくるとは恐ろしいものだ。今後も気を引き締めておかないととんだ伏兵に喰われるかもしれないな。
さて、問題の久志の順位は何位だろうか。さすがに上から数えた方が早いはずだ。11位から続けて名前を見ていく。
――――――――――――
107位 E組 楠本久志 784点
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100位以内に入れなかったとはいえ、まずまずな結果だろう。前回の中間テストから大幅な順位アップだ。
久志の順位を確認した後、僕は教室へと戻ることにした。なかなか順位表の前からいなくなる人が少なく、にぎわっていたからだ。
教室で今回の順位について久志と話そうとしたのだが、久志の姿はどこにも見当たらなかった。どうやら、以前電話で言っていた通り金山から逃げたのであろう。
ったく、そのことを知った身にもなってくれよ。
「こんにちは、内海さん」
「1週間ぶりだね、金山さん」
そんなことを思っていれば目の前に今一番会いにくいであろう人物が現れた。
「総合成績10位おめでとうございます」
「ありがとう」
「内海さんがあんなに頭が良い方だとは思いもしませんでした」
「バカそうに見えてた?」
「いえ、そういう意味ではありません。傷つけてしまったのなら謝ります」
「全然、気にしてないから頭下げないで」
礼儀が正しすぎるせいもあってか、やろうとすることがいちいち大袈裟だ。本当にどこかのお嬢様じゃないだろうかとさえ思えてくる。
この学校にも何人ものお嬢様が入学していたりするので、有り得ない話ではないが、久志に恋をしていることでその線はないだろう。
ちなみに金山の順位は891点と37位であった。50位以上は接戦であるため少しのミスで順位が簡単に変動する。
「それでこのクラスに来た用件は?」
本当は聞くまでもなく用件は分かっているのだけれど、一応それらしい質問だけはしておく。
「えっと、楠本さんって今いらっしゃいますか?」
正史通り、金山は今日という日に久志に会いに来た。
「さっきから見かけないんだよね。まだ学校にはいるとは思うんだけど」
「そうですか……」
「ごめんね」
「いえ、また別の機会にきますね」
久志は僕にどこへ逃げるか教えずに教室から出て行った。もし教えてもらっていたら、金山に場所は教えていただろうから教えずに逃げたのは英断だろう。
こんな久志に会えずに悲しそうな顔をしている金山の姿を見たら、耐え切れずに居場所を吐いていただろうからな。
「それじゃあ内海さん、また図書館でお会いしましょうね」
「うん、今読んでる本が読み終わったら行くね」
金山は僕に一礼した後教室から出て行ったが、その後ろ姿はなんとも寂しそうであった。
かわいそうなことをしたな。できることなら協力はしてあげたいけれど、久志の気持ちも考えるとな。素直に応援できないのがむずがゆい。
もし久志が心変わりをするようなことがあれば、その時は喜んで協力するとしよう。
とまあ、これ以上2人のことを考えてもどうすることもできないので、僕はバッグから本を取り出した。
家に帰らず教室に残っているのは、この後体育祭の練習が始まるからだ。授業のないこの日は、より長い時間練習に充てられる。
というわけで多くの生徒が居残って練習が始まるのを待っている。まだ始まるまで時間もかかりそうなので、のんびりと本を読み始めた。
夢中になって本を読んでいた僕だったが、コツコツと誰かが近づいてくるのが分かる。気にせず読んでいたのだが、その足音は僕の目の前で止まった。
何か僕に用かと思い、顔を上げると、
え? なんで、君がここに?
「なんで手を抜いたりしたんですか?」
そう話しかけてきたのは、鶴井だった。しかもその顔には怒りの感情が見られた。
一体何がどうなってんだ……
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14話にしてやっとプロローグのセリフを回収することが出来ました。ここからがいよいよ物語が動き始めます。
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