第13話 2人目の未練
長嶺が帰った後、僕は久志に電話を掛けた。
『どうした、何かあったのか?』
まるでこっちで何が起きていたかを知らなかったかのような口振りだ。とぼけやがって……
「何かあった? じゃないよ。長嶺さんに僕の家を教えてたんなら一言こっちに連絡しといてよ。こっちにも準備っていうもんが必要なんだから」
『は? ……ああ‼ ごめんごめん、連絡するつもりが忘れてた』
「次からはちゃんと連絡してよ」
『ああ分かってるって』
まったく、まだ家を教えたのが長嶺で知っている相手だから良かったものの、勝手に住所を教えるのは勘弁してほしい。
さすがに関わりのない人には教えないとは思うが住所を教えるのなら、まず一言ぐらい僕の方に確認してほしかった。
『それで何か問題でもあったか?』
「特にはないけど、ノート返しに来てもらったついでに一緒に僕の家で勉強を見てたぐらいだったから」
『は? 一緒に勉強してた? お前の家でか?」
僕の感性が間違っていないようで良かった。普通ならそういう反応だもんな。
「やっぱり驚くよね」
『そりゃそうだろ……、それにしても攻めたな』
「攻めるって何? 僕は違う場所提案してたよ」
『本当にそうか? 実はお前の方から提案してたとか……」
「それはない‼」
『冗談だよ、お前にそんな度胸がないぐらい知ってる』
本当に久志というやつは隙があれば人を弄るのが好きなやつだな。
「あ、そうだ、僕もお前に聞きたいことがあったんだった」
こっちばかりやられるわけにはいかない。こっちもこの時代に来てモヤモヤしてたことがあるんだ。
「お前、金山さんのことどうするつもりなんだよ」
『な、なんで、そんなことを急に』
明らかに動揺した口ぶりだった。電話越しでも十分伝わるぐらいには動揺している。
「昨日図書室で会ったんだよ。しかもそろそろだろ? 金山さんに告白されるの」
『ああ、期末テストの順位が張り出された日だな』
「しっかり覚えてるんだな」
期末テストの結果は全順位廊下に張り出される。その日はその発表をみるだけで授業は行われない。
赤点を回避した人たちは家に帰ったり部活に行ったりしてもいいのだが、基本は体育祭の練習に参加する人が多い。
そして、赤点を取った人たちはその場で退学手続きを行うことになる。
久志はこの日、教室まで金山が呼びに来て、告白されたはずだ。少なくともそう聞いている。
『俺はあいつのこと好きだったからな』
「じゃあ、また付き合うの?」
もちろん。そんな返答がされるだろうとは思いながらも聞いてみる。
『いや、付き合うつもりはない』
「どうして?」
『だってな、どうせ付き合っても振られることが分かってるんだぜ? それなのに虚しくはないか?』
「でも本当にアレって振られたってことなのかな?」
『連絡もなしにいなくなったんだ。フラレた以外に理由はないだろ』
そう、金山は久志の前からいなくなった。連絡1つもなく。
「でも、未来を知ってるのなら回避できるんじゃないの? 金山さんがいなくなったのっていつ頃だっけ?」
『今年の10月‥いや来年の6月頃だったはずだ』
「なんでそんなに曖昧なんだよ」
『分かんねぇよ、ただそれほどショックだったって、だけさ』
僕も気づけばフラれていたという記憶しかないので、久志と金山がいつ別れたかは覚えていない。というか、金山とのことは久志の口からしか聞いていないから知りようがなかったのだけれど。
『未来がわかってるって言うけどな、なんで俺はフラレたのか、全く分かってないんだ。これじゃあ、同じ過ちを繰り返すだけだ』
「じゃあ、金山さんに告られたら、断るの?」
『それは無理』
「おい」
『たぶん嬉しくて断れないだろうな』
「未練たらたらじゃんか」
久志も未だに高校時代の恋愛を引きずっていたということか。
『だから、告られないようにする』
「どうやって?」
『金山が教室に来る時間、別の場所に逃げる』
逃げるって……。同じ学校なんだからその日だけ逃げたところで意味ないだろ。
「それって一時凌ぎにはなるけど意味ないんじゃ」
『その後は流れでどうにかする』
「久志がそれでいいならいいけど」
久志が逃げたところでどうにかなるような問題ではないと思うけど。久志の写真を持っているぐらいだから、告白を断られるまでは何度でも会いに来そうだけどな。
まあ、これは2人の問題だし、僕には関係のないことか。
*
社会人になってからは1日の仕事の多さに追われて、1日が長く感じていたが、高校生に戻ってからは短く感じる。それは心からこの高校生活を楽しいと感じているからなのかもしれない。
この時代に来てからあっという間に時間が経った。気づけば明日が期末テスト1日目。久志には重要な部分だけを復習させるようにしてゆっくり休ませることにした。
明日から4日間、テストが行われる。今の状態でやれば100位近くまで狙えそうではある。だから変に無理をさせるよりは万全な状態で試験に挑ませる方が良さそうだ。
久志のことばかりではなく、自分のことにも集中しなければならない。暗記科目とは違い、国語や英語に関しては気を抜けば低い点数も取りかねない。
元々英語は僕の中では比較的苦手な部類に入る。最悪点数が下振れても良いように他の教科で点数は稼いでおきたい。
1200点中1000点ぐらいが10位の点数になるだろう。1000点ちょっとを取れるように点数を調整しよう。
鶴井の目に留まらずに、学年10位を取る、それが今回僕の目標だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます