第2話 たった1つの後悔

「お~い、大丈夫か?」


 目が覚めると僕はどこかの公園のベンチで横たわっていた。見覚えのない場所に戸惑った僕はバッと勢いよく立ち上がり辺りを見渡すが……


 急に立ち上がったせいか、立ち眩みを起こし、再びベンチへと崩れ落ちる。


 うっ……、気持ち悪い。


「そんなに飲めないくせに飲み過ぎなんだよ」


 久志は呆れながらも水の入ったペットボトルを渡してきてくれた。僕はありがたくそれを受け取り、半分ほど飲みほす。


 なるほど、どうやら僕は店で酔いつぶれてしまったらしい。いつもならセーブしているのだが、自分でもなんで酔うまで飲んだのか覚えていない。


「歩けるか?」


「まあ、少しなら」


 多少ふらつきはするものの、もう少し休めば問題なく帰れそうだ。


 1つ疑問に思うのは、何故久志はあんなに飲んでいて酔っぱらっている様子がないのだろうか。絶対僕より飲んでいるはずなのに。


 久志の酒豪っぷりにはいつも驚かされる。もし僕が久志と同じ量のお酒を飲んでいたら今頃病院のベッドだっただろうな。


 左腕にはめている腕時計に目を向ければ時刻はすでに0時を回っていた。同窓会が何時に終わったのかは分からないが、久志はずっと僕が目を覚めるまで側にいてくれたのだろう。


 いったいどのくらい時間酔いつぶれていたんだか。店に入ったのが20時前で記憶があるのもそのあたりだけだ。


 それにしても、久志もよくここまで1人で僕を運ぶことができたな。いくら酒に強いとはいえ、多少は酔っていただろうに。


 携帯を取り出し、地図アプリでこの場所を確認してみれば同窓会が開かれていた店からここまで距離はずいぶんとある。それともここまでは自分の足で歩けていたのだろうか。まったく記憶にないが。


 ある程度酔いも醒めたところで僕たちは歩き始めた。すでに終電は無くなっているため、今日のところは久志の家に泊めてもらうつもりだ。久志の家もここから歩いて時間がかかるが、それでも僕の家と比べれば全然近い距離だ。


「なぁ、恭也」


 10分ほど歩いたところだろうか、久志は急に歩みを止めた。


「もし、もう一度人生やり直せるって言ったらやり直したいって思うか?」


「なんだよ、急に……」


 急にしゃべり出したかと思えば、よく分からないことを久志は言い出してきた。


 人生をやり直すだ? 


 真面目な雰囲気を出して聞いてくるものだから反応に困る。たかが冗談話に真剣に聞いてきているのだろうかコイツは。


「どうなんだ?」


 真面目に答えてくれと言わんばかりの目を見て、僕は素直に思っていることを伝える。


「やり直せるっていうのなら、確かにしたいよ」


 心残りならあった。あの時、鶴井に告白しなければ僕はどういった道へ進んでいたのかどうしても気になってしまう。何度告白しなければよかったかって後悔してきたことか……


「良かった、その言葉を聞けて安心した」

「何がだ」


 久志は僕の答えに満足したのか、僕の疑問には返答せず、笑顔で小さなアナログ時計のようなものをいじり始める。


「何をいじっているんだ?」

「やり直すなら高校2年生でいいよな」


 僕の声が聞こえていないのか、僕の疑問はスルーされた。


 それにしてもやけに具体的に聞いてくるんだな。そこまで妄想話に話を膨らませたいのだろうか。それならその妄想話に乗ってあげるとしよう。


「そうだな、そりゃ高校2年生の方がありがたいな」


 僕にとってのターニングポイントは2年生の修学旅行だ。それより前の日ならばどこだって構いやしない。だって、当日告らなければいいだけ、なんと簡単なことか。


「ありがとう」


 何故久志は僕に対してお礼を言ったのか分からなかった。


 差し出された時計を見てみれば、僕たちが高校2年生の時の年月が示されていた。


 そして、その時計が突然輝きだしたかと思えば、僕は急激な眠気に襲われ、その場に倒れこんだ。

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