2章 進む道は新たな未来

第4話 6月15日

 タイムリープしてやってきた日は6月15日であった。同窓会があった日は14日であったため、その日から単純に6年前に戻っただけのことらしい。


 この時期にタイムリープできたことは僕にとって都合が良いことだったのかもしれない。この時期であればある程度クラスメイトとも関係性が出来ているし、距離感を考えずに付き合えるのは良いことだ。


 もし関係がゼロからのスタートであったならば、相手だけ僕を知らないわけだし、今頃どう仲良くしていいか困っていただろう。


 正史で仲が良かっただけに変に絡みに行って引かれるのはごめんだからな。


 ただ都合が良いのはこの点だけであって、久志からすれば中間テストがすでに終わっていることは悔しかったに違いない。


 この高校でも1学期の中間テストは他のテストと比べてレベルが圧倒的に低い。その時に点数を稼げていれば後々楽になっていたはずだからな。


 中間テストでの久志の順位は281人中255位。後ろから数えた方が早いため、推薦を狙うのならば、これからのテストでは毎回100位以内に入る必要がありそうだ。


 とはいっても、100位ぐらいであるならば全教科の平均で70点取ればいいだけであるし、そこまでは難しくはないはずだけど。そこは久志の頑張り次第かな。


 僕の順位はというと10位であったため、次の期末テストもこの辺りを目指す予定だ。


 期末テストは7月の初めの週に行われる予定だ。まだ2週間強もあるし、しっかり勉強さえすれば十分巻き返せるはずだろう。


 そのためにはまず授業をしっかり受けることから始めるとしよう。


 今日の時間割は、1限数学Ⅱ、2限現代文、3限日本史、4限世界史、5,6限がLHRとなっている。


 どの教科も比較的得意な方であるので、先生に指名されたりしても問題はないはずだ。


 1限が始まる時刻になるとチャイムと同時に数学の先生が教室へやってきた。


「きりーつ、きをつけ、礼」

「「お願いします」」


 日直の挨拶と共に僕たちは頭を下げ先生に挨拶をする。小学校から高校生まで当たり前の習慣であったが、懐かしく感じてしまう。


 大学ではこういった挨拶みたいなのはなかったからな。これからはまたこの習慣をやるんだな。


 そう思うと少し高校の授業を受けるのが楽しみになってきた。


     *


 昼休み、購買でパンを買った僕は教室で寝込んでいる久志に近づいた。


「お疲れさま、ほらパン買ってきてやったからこれでも食べな」

「サンキュー助かるよ……」

「そんなに疲れたのか」


 顔を上げた久志の顔はひどくやつれていた。たった4時間程度の授業で人はここまでひどい顔になるものなのか。


「逆に何でお前は元気なのかをオレは知りてえーよ」

「え? 楽しいから?」

「うわ~」


 久志は信じられないものを見たかのような顔をしてドン引いていた。失礼な奴だな、まったく。


 僕だって別に授業は好きな方ではなかった。だけど、大学では1コマ90分であったから、50分の授業は短く感じるし、それに内容自体が懐かしくて楽しく思えた。


 それに先生に指名されることもあったけれど問題なく答えることが出来たからな。これなら、授業の内容を思い出すのも時間はかからなそうだ。


「オレなんて授業内容まったく入ってこなかったぜ……」


 久志の席は僕の席から後ろの方に位置していたため、時々様子を見ていたが、授業についていけず口をポカーンと開けている姿が何度も見られた。


 ある程度は覚えているのではないかと期待していたが、どうも久志の頭からはごっそりと抜け落ちているらしい。こりゃあ、勉強スケジュールを細かく作る必要がありそうだ。


 それでも授業をちゃんと受けようと意志は見られたので意欲的なところは問題がなさそうで一安心だ。


 これで真面目に授業を聞かないようであったらどうしようかと思っていたよ。


「不安だな……、オレ退学、ちゃんと回避できるかな」


 パンを食べながら大きなため息を吐く久志。不安になるのも無理はないか……。


 実際、入学時には300人いた僕たちの代も2年生の1学期の中間テスト時点で281人となっていた。1年生の間に19人の生徒が退学している。


 そして、今回の中間テストの結果を受けて18人が新たに退学した。その理由はもちろん中間テストで赤点を取ったからだ。


 先程中間テストは簡単といったのにこれだけの退学者が出ていることを不思議に思えてしまうかもしれないが、これはテストが簡単だったからこその落とし穴だった。


 1年生の後半の定期テストでは赤点のボーダーは平均点の半分で30点前後であった。だから、今回の中間テストもそれぐらいの点数を取ればよいと馬鹿な勘違いをしていた生徒が多くいたようだ。


 中間テストは簡単だからと油断もあったのだろう。大した勉強もせずにテストに臨んだ生徒がこれだけいたのだ。


 そしてほとんどの教科の平均点は80点前後、つまり赤点のボーダーは40点前後となった。そしてその結果、赤点をギリギリで回避しようとしていた生徒たちを学校側は一掃したことになる。


 これこそが学校側の用意した罠であった。テストが簡単なために赤点を余裕で回避できると思ったはずが、テストが簡単すぎたゆえに平均点が大幅に上がることとなった。


 その結果が退学者18人を出したことにつながる。


 久志は平均45点と本当にギリギリだったが赤点を無事回避することができた。もし勉強しろと口うるさく言っていなければ、今頃久志はこの教室にいなかっただろう。


「お前を退学させないために僕がここにいるんだろ?」

「恭也~」


 まるで神を崇めるかのように僕を拝み始める久志。どれだけ僕を当てにしていたんだか。もし、僕が過去に戻るのを嫌だと言っていたら、どうしてたんだろうか?


 いや、久志のことだ、どうせあの手この手で僕を巻き込むつもりだっただろう。


「勉強を教えるのはいいけど、楽な方法は取らないからな」

「望むところだ」


 僕を一緒に連れてきてくれた礼というわけではないが、しっかり卒業までは久志の勉強を見てあげるとするか。


 そもそもこの時代に僕を連れてきたのだって、心細いからと久志は言っていたが、本当は勉強を見てもらうことが目的だったのだろう。でなければ僕を連れてきた意味は……、


 あれ、待て。何かがおかしい。僕の頭の中で1つの疑念が生じる。


 推薦を狙いたいのなら、なんで久志は今日という日をタイムリープする日に選んだんだ?


「なあ、久志」

「なんだ?」


 僕の中で生じた疑念を久志に問いかけようとしたとき、タイミング悪く昼休みを終えるチャイムが鳴り響いた。それと同時に担任の先生も教室へと入ってきた。


「なんかあったか?」


 不思議そうに僕を見る久志に対して、やっぱりなんでもないと言って、僕は静かに席に着いた。


 まあ、今すぐ聞かないといけない話じゃないし、あとで聞くとしよう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回、ヒロイン登場。


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