17話

 ゴミ袋を片手に、家に帰った私は部屋に直行します。


「菜乃葉ぁー! ご飯よー!」


 一階からお母さんの声が聞こえてきます。

 私はため息を吐いて、ゴミ袋を床に置いた時、違和感を感じました。


「…………あ……れ?」


 部屋に散乱したゴミの数々。それらが微妙にズレているような気がしたのです。

 綺麗に整頓されているわけではないこですが無造作というわけでもありません。鼻を噛んだティッシュも、カップラーメンのゴミも、アレの日のナプキンも、ちゃんと、考えられて、決められて、配置されているのです。

 嫌な予感がして、私の宝物が保管された机の引き出しを開けます。

 そこにはガラスケースに並べられた200本はゆうに超えるプラスチック製のストローがありました。先端にはそれぞれ歯形がついています。


「ああああああああああ!!!」


 私は大きな声を出してしまいました。自分でも驚いて、口を塞ぎます。


「……ぁぁ……」


 それでも漏れてしまう声。

 綺麗に並べられたストローの羅列に、不自然に一本分の隙間ができていました。


「…………な、なくなってる……」


 私は周囲を見渡します。

 ない。ない。ない。ない。ない。

 どこにもありません。

 頭を抱え、訳が分からなくなって、掻きむしります。

 ですが、犯人なんて1人しかいないじゃないですか。

 私は部屋を飛び出して、一階に向かいました。


「ねぇ!!」


 リビングに入るなり、私は怒鳴り声をお母さんにぶつけました。


「な、なに? どうしたの? 菜乃葉」


 お母さんは困惑した様子で私を見てきます。あくまでシラを切るつもりのようです。


「私の部屋! 勝手に入らないでって言ったじゃん! なんで約束破るわけ!?」

「な、なんのことよ?」

「うるさいっ! 嘘つくな……!」

「ね、ねぇ、ちょっと落ち着いて」


 なんだか、無性に腹が立って、悔しくて、涙が出てきました。


「お、お母さんまで私に嘘つくの……!? ムラケンと一緒じゃんっ……! 許さないから……!!」

「お、落ち着いて、本当に……ひゃっ……」


 お母さんが私に手を伸ばしてきたので、私はそれを払って弾きます。

 お母さんは痛そうに手を抑え、悲しそうな顔を、私に向けました。それを見て、私はハッと我に返ります。お母さんに手をあげたことを後悔しました。

 そんな私の気持ちなんて当然分かるわけもなく、お母さんは怯えたように言います。


「な、菜乃葉の部屋には入ってないから。ね? し、信じて……? だ、だって、菜乃葉の部屋には鍵が付いてるじゃない? か、鍵は菜乃葉しか持ってないのよ?」

「……じゃ、じゃあ、誰が」


 誰がめるのストローを盗んだの?


「お、お母さんじゃないわ」

「…………」

「ほ、本当よ……?」

「…………」


 私はやるせない気持ちになって、お母さんに背を向け、リビングを出ます。


「ちょ、ちょっと待って! 菜乃葉! な、何かあったらお母さんに絶対に言ってね……!?」


 私はお母さんを無視して、部屋に戻りました。

 しかし、それから私の部屋の物が勝手に無くなることが増えていきました。

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