16話

 翌日、ひかりちゃんが学校に来なくなりました。

 昨日のことも聞きたかったのですが、大切な友達なので、心配のほうが少し勝ります。だけど、ひかりちゃんには申し訳ないのですが、めると2人きりで過ごす時間が増えて嬉しい、という気持ちが一番大きくて、一番強いです。

 そうして、何事もなく三日が過ぎました。

 ひかりちゃんはまだ学校には来ていません。これでは友達料を払った意味がないのですが、まぁ病欠なら仕方がないです。私はあくまでホワイト企業を自負してるので。

 そんなことよりも、私には気になることがありました。このところ、めるのケータイの電源が入っていないようなのです。これではめるのケータイに仕込んでいるGPSが使えません。学校帰りに尾行はしているのですが、GPSを使わないでの尾行は限界があります。一度それとなく聞いてみたいのですが。


「はぁ……」


 私はため息を吐きます。

 私は今、めるの住むマンションの前にいました。

 もちろん変装はしています。

 ですが、めるがいつ出てくるかわからないので、長居はしてられません。

 すると、マンションから例の汚いおじさんがやってきました。


「おや、久しぶりだね」


 おじさんは私を見つけるなり、こちらへとやってきます。相変わらず、顔を背けたくなるほど臭い息です。


「あ、あの、そ、その、今日も307号室の住人のゴミを……」

「あいよ」


 おじさんは返事をして、マンションに戻っていきます。しばらくて戻ってくると、いつものように膨らんだ黒いビニール袋を持ってきました。


「はい、一万円」

「あ、ありがとうございます!」


 私は一万円札を手渡し、黒いビニール袋を受け取ります。

 私はくるりと踵を返し、立ち去ろうとしました。


「ちょいと待ちな」


 呼び止められ、振り返ると、おじさんがニカっと、黄色い歯を見せて笑います。


「次は5倍の値段を持ってきな。その価値に合うものを手に入れたから」


 なんだろう、5万円の価値があるものって。何にせよ、私の心は踊るように跳ね上がりました。

 ここ最近、私の周りで起きていることなど、もはやどうでもよくなるくらいに。


「は、はいっ!」


 私は顔を輝かせて返事をして、軽やかな足取りで帰りました。



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