15話

「める、遅いなぁ……」


 放課後。掃除が終わり、教室でめるを待っていましたが、めるは来ませんでした。

 GPSのアプリを起動しますが、めるのケータイの電源が入ってないみたいで、使えませんでした。

 やはり、めるにももっとお金をあげるべきなのでしょうか。だけど、奢ったらめるは怒るし、どすればいいのでしょう。

 人と人との繋がりを保つのに、お金以外の解決方法が私にはわかりません。

 仕方なく、私は帰宅することにしました。

 家に着くと、玄関にお母さんが立っていました。

 目の下にはクマができ、頬はやつれて、年齢よりも年老いてみえる人です。昔は可愛くて近所でも有名なお母さんだったのですが。

 お母さんは私を見つけると、切れ長の目をさらに細くし、口角をぐいっと上げます。


「あら菜乃葉、おかえりなさい」

「……た、ただいま……」


 私が足早に家の中に入ろうとすると、お母さんは手首を掴んできました。


「ちょっと待って菜乃葉」

「な、なに?」


 私は立ち止まり、視線を合わせないように下に向けて振り返ります。

 するとお母さんは手を離してくれました。


「ポストに菜乃葉宛ての封筒が入ってたんだけど」

「え、あ、う、うん」


 私はその茶封筒を受け取ります。茶封筒には隅に小さく『鮎川菜乃葉様』と書かれていました。それ以外のことは何も書いてありませんでした。


「菜乃葉、あんたまたなんか変なことに巻き込まれたんじゃ」

「そ、そんなことないよ。心配かけてごめんなさい」


 私はお母さんの言葉を遮るように強く否定します。だって、本当に心当たりがないのですから。

 私は心配そうに私を見るお母さんに背を向け、自分の部屋に向かいました。

 鍵を閉め、部屋の電気を付けます。

 そして、私はその茶封筒を開けました。

 中には一万円札が5枚、入っていました。

 真っ先にひかりちゃんに今日あげた5万円が頭に浮かびましたが、今までひかりちゃんがお金を返してきたことはありません。というか、あれは私の友達をしてくれているから、私がひかりちゃんに払うべきお金なのです。ですから、返す必要はありません。

 すると、ある違和感に気づきます。3枚目と4枚目が一部、ノリで貼られたようにくっついていました。

 私はそれを破れないように丁寧に剥がし──


「ひっ……!」


 思わず、小さく悲鳴を漏らしました。

 3枚目と4枚目には、固まった血が付いていたのでした。

 気味が悪くなって、私はそのお金をぐしゃぐしゃに丸めて、ゴミ箱に捨てました。

 一体誰が、こんな嫌がらせを……?

 とりあえず、明日にでもひかりちゃんに聞いてみようと思いました。

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