12話

『──今日はありがとう』

「う、うん」

『それじゃあ、また明日。学校で』

「う、うん」

『あ。付き合ってるんだし、安心できるような言葉、聞きたいな』

「あ、安心できる言葉って……?」

『んー? わかってるくせに〜』

「え、あっ……えっと……あ、あ、愛してます」

『ぷはっ……! あはははっ! 堅すぎぃ〜』

「え、ご、ごめ……」

『うん。私も愛してるよ。ばいばい』


 電話は切れ、私は息を吐きます。めるとの電話は緊張しっぱなしで酸素不足でしたから。

 いまだに信じられません。めると付き合ってるだなんて。まぁ、まだ付き合ったばかりですし、実感が湧かないのは仕方がないと思います。

 帰宅途中、もうすぐ家ってところでめるから電話がかかってきました。

 私は家に帰らず、家の近くの公園に立ち寄って、そこでめると話していました。

 電話が終わってすぐ、私は家に帰りました。

 ただいまの挨拶はしません。

 私は自分の部屋へ直行します。

 いつものように鍵を開けて、中に入って、鍵をかけます。

 暗くてもわかります。そこにゴミが散乱し、壁や天井の至るところにめるの写真が貼ってあることが。

 私は壁に近づき、制服姿で笑顔のめるが映る写真を剥がして取ります。


「……」


 可愛い。そんな感想が浮かんできました。それと同時に、同じくらいの気持ちで、ストーカーなんかやめるべき、もうしないほうがいい、そんな感情もやってきました。

 そういえばなんでストーカーなんてやっていたんでしたっけ。

 遥か遠い雲の上にいる彼女の、僅か糸切れでもいいから、何げなく掻いて出た皮脂でもいいから、手に入れたかったから。

 だとしたら、もうストーカーなんてする必要はないはず、なのに。それどころか、付き合ったことでさらに深い所まで侵入して、なんでもいいからめるから出たものを手に入れたい。食べたい。そんな気持ちが私の心の奥底から湧き上がってくるのです。

 でも、やめるべきなのはわかっています。

 これをめるに知られたら、きっと。

 恋人どころか、友達ですらいられなくなるでしょう。

 今日みたいな気持ちになるのは、もう嫌だ。

 ですが、愚かな私は、答えを出せずにいました。


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