11話

 「なんだかお腹空いちゃった。なにか食べてかない?」


 めるにそう提案され、私は頷きました。


「行こ」


 めるが席を立ったので、私も立ち上がり、めるの隣に向かいました。

 私は勇気を出して、友達よりも近い距離までめるに近づきます。

 するとめるはニコッと笑い、私の手を握ってきました。


「め、めるっ……!?」

「恋人ってこういうものでしょ?」

「で、でも、人が……」

「気になる? ならやめるけど」


 めるが悲しそうに笑うので、私は首をブンブンと横に振り、めるの小さくて細い手をぎゅっと握り返しました。

 めるは嬉しそうに笑いました。

 私はとても幸せな気持ちになりました。

 私とめるは手を繋ぎながら、フードコートの店舗を見て回りました。

 一通り回ったところで、めるが口を開きます。


「菜乃葉決まった?」

「え、えっと……め、めるは?」

「私はアレにするわ」


 めるが私と手を繋いでないほうの手で、黄色く光る『M』を指差しました。ハンバーガーか、たしかにそれもありです。


「あ、わ、私もハンバーガーにしてもいい?」

「好きになさい」


 私とめるはレジに向かいました。


「いらっしゃいませ。ご注文は何にしますか?」


 店員が笑顔で言ってきました。私には絶対にできないので、単純にすごいと思いました。


「てりやきバーガーの単品とドリンクのミルクで。菜乃葉は?」


 めるは慣れたように注文をします。


「わ、私はふぃ、フィッシュバーガー……のせ、セットで。え、えっと、の、飲み物はす、ストレートティー……で」

「以上でよろしいですか?」

「はい」


 めるが返事をして、店員は「かしこまりました」と言ってレジを操作し、金額がモニターに表示されます。


「お会計が1080円になります。ご一緒でよろしいですか?」

「あー、分けてくださ」

「──あ、あの……!」


 私はめるの言葉を遮るように大きな言いました。


「い、一緒で! よ、よろしくお願いします!」


 私は店員に頭を下げます。

 店員は苦笑いを浮かべながら、めるに視線をやりました。

 私よりめるのほうが話ができると判断したのでしょう。その通りなので何とも思いません。


「えーっと、じゃあ、一緒で」

「かしこまりました」


 めるは私が握っていることすら忘れていた手を離し、肩にかけていたショルダーバックから財布を取り出そうとしました。


「あ、わ、わた、私出すから!」

「え、どういうつもり?」

「お、奢らせて、ほしくって。め、めるに奢るの……ゆ、夢で……」

「ふふっ、どんな夢よ?」

「ほ、ホントにホントで」

「いや、そこは別に疑ってないから。ていうか、いいわよ、悪いし」

「お、お金ならいっぱい持ってるから!」

「…………」


 めるは私の顔と私が手に持っている財布を交互に見つめ、途中一度店員にも視線を向けると、最後に私の顔に視線を戻して言います。


「じゃあ、お言葉にあまえようかしら」

「う、うん!!」


 私は財布のチャックを開け、中から一万円札を取り出して、レジに置きました。

 無事、会計を終わらせ、商品を受け取り、先ほどまで座っていた席に戻ってきました。


「き、緊張したぁ……」


 トレイを持った私が、席に着くなりそう溢します。安堵して、心から出た言葉でした。


「菜乃葉、対面で注文するお店苦手だものね」

「う、うん。いまだにお店は一人で入れないし……」

「じゃあ今まで菜乃葉が行きたくても行けなかったお店、たくさん行きましょう」

「う、うん!」


 これが付き合うってことなのかと、とても嬉しくなりました。


「菜乃葉、ありがとね! 奢ってくれて」

「う、うん、夢だったから」

「その夢って口実なんなの」


 と、めるは笑いながら言いました。笑いながら、めるはハンバーガーの包み紙を開け、小さな口でハンバーガーを齧ります。

 そこで、私は思い出しました。


「あっ、ひかりちゃん……」


 きっと全部が上手くいき、安堵したからでしょう。

 背中を推してくれたにも関わらず、今の今まで忘れていて、私は友達失格です。

 すると、めるは口をもぐもぐさせながら言います。


「さっき連絡したけど、もう帰ったって返事来てたわ」

「そ、そっか」

「ええ。ひかりには悪いことしちゃったわね。せっかくの休日なのに」

「さ、三人でまた、あ、遊ぼう」

「それ、私と会うための口実じゃなくて?」

「うっ……そ、そうです」

「ひかりのこと邪魔って思わないようにね?」


 めるは苦笑いを浮かべて言いました。

 それは本当に、肝に銘じておかないと、です。

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